第四章

 翌日。彼女は学校に来なかった。担任に聞いても何も答えてくれない。頭の中に繰り返されるあの言葉。「私、そろそろ寿命かな」それだけが印象に残っていて、そのフレーズが消えなくて、授業は全く頭に入らなかった。

 そんな日々が数日続いた後、ついにその時がやって来た。朝、彼女の座っていた机に供えられた、一輪挿しに刺さる蓮の白い花。一目瞭然だった。彼女は、亡くなってしまったのだ。担任からも同様の説明。予感はしていたことだったが、それでもショックに違いなかった。

 そして午前と午後の授業の合間、一般的には昼食を食べる時間。僕は担任から呼び出しを受け校長室に向かった。その部屋にいたのは、彼女の両親。

「実は、娘は病気だったんだ。病気だということはずっと前から知っていたし、もうすぐ死んでしまうということも医者から聞かされていた。ただ自覚症状が最後の最後までないということもあって、娘には伝えずじまいだったな。──君にも本当に、すまなかったと思う。知らせることが出来なくて」

 そういって謝るのは父親の方。ただ、少し思い違いがあるようだ。

「いえ──彼女も気付いていたみたいですよ? 僕も、彼女から」

 それを聞き、彼女の父親は、ずっと黙っていた母親さえも、泣き出した。僕は、ただ耐えることしか出来なかった。

「うん、それを聞いて安心した。自分の運命を知らず死んでいった訳じゃ無いんだな」

 そして彼女が僕の家に泊まれたのも、その話を僕の母親に伝えたからだと教えてくれる。儚く散る命だからこそ、最後ぐらい自分の思うがままにさせてやりたかったんだと。


   ***


 全ての授業が終わり、家へと帰る。母は黙って僕を迎えた。そのまま自分の部屋へ直行する。そこまで来て、初めて僕は泣いた。泣き崩れた。

 ふと、彼女が演奏するクラリネットのMDが家にあることに気付いた。つまりは彼女の遺作。実際に再生してみると音質は良くないものの、確かに彼女の痕跡が残っている。一音一音を耳に焼き付けながら、再び僕は涙を流した。


(物語は、これでおしまい)

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Cm(シーマイナー) 愛知川香良洲/えちから @echigawakarasu

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