第5話 部活のために、いざ野球勝負

「いやーこの部活は認められないな」

「なんでですか!エクソシスト部もあるのに何でおたく部はだめなんですか?」


案の定断られたと思ったらエクソシスト部?

そんなふざけた部活がこの学校にはあるのか。

まあ確かにこの腐女子がおたく部を認めてもらえると思い込んだ訳もわかる。


「あれはちょっとレアケースで認めてるだけよ、じゃあ私野球部で忙しいから」

「あぁ…」


去っていく顧問候補に右手を伸ばし、待ってといわんばかりの体勢に。

この反応を見てこの女は本気でいけると思い込んでたんだろうな。

おまけに野球部の監督もやっているという始末である。

なんかこっちまで辛くなるっていうか、勘違いも甚だしいな…。

腐女子が落ち込む背中を見て山田はポンと肩に手を乗せる。


「残念だったな、エクソシスト部もあの先生が顧問やってるし、他に望みはないんだろ?」

「うぅ…」


さっきまで自信満々に話してたのが嘘のようだ、落ち込む姿を見て何だかかわいそうになった…。同情してる僕って優しいな。


「まあ俺も家かえってやらなきゃいけない事があるんだ、帰らせてもらうぞ」


そう言うと山田はいつの間にか僕達の方から離れていき、早歩き気味にその場を去っていく。


「あ、僕も忙しい…」

「あなたは残って…」


チャンスだと思い僕も帰ろうとしたけど、えぇ…嘘でしょ、冗談じゃないよ。

断ったらあの絵をばらまくとか言われそうで断るに断れない状況にいた。

山田め、先に帰りやがって…。


「部活は四人じゃなきゃ作れないんだぞ?もう無理だろ…」

「わかってるわよ、でももう一回だけ、やっと友達もできたわけだし…」

「え?今なんて」

「何でもない」


こいつ、どさくさに紛れて今僕たちの事を友達とか言いやがったぞ。(全部聞いてた)

彼女のいう事が事実なら、友達の中で僕を初めて脅したのは彼女ということになる。

友達は脅すものね~なるほどね~。


「僕は残念だがその要求は飲み込めない、部下にならしてやってもいいが友達は作らない主義なんでな」

「何言ってるのよ、部下になるのはあなたの方でしょ…この絵…」

「ああああ!!!やめてくれぇ!」


彼女がバッグから取り出した一枚の紙を素早く制す。

一応まだめいたんがここにいるのだ、ホモネタは頼むからやめてくれ。


「そんで?どうするんだ?僕達をこれ以上付き合わせる気か?」

「分かったわよ、一回だけ…野球部に行ってまた頼みに行くから後一回だけ、二人共それだけ付いて来てよ」

「僕は別に構わないよ、西条くんは?」


えぇ…。はっきり言って嫌!

僕もアニメや漫画は好きな正真正銘のおたくだし、隠すつもりも別にないけど、それをわざわざ公言するところが自己顕示欲の塊と思われそうで何だか嫌なんだよな。

まあ確かにカー○女子、すー○ょ、れき○ょだったり、女子はなんでもかんでも後ろに女子をつけて、なんだか自己顕示欲の塊みたいな部分があるから分からなくもないけど…。

※あくまで西条としての意見である。


「まあ付いていくだけならなぁ、でも次駄目なら諦めろよ、他の先生に片っ端頼みにいくなんて恥ずかしい真似したくないからな」

「本当に!?ありがとう西条くん!」


まあ断られるのは目に見えてるし、付いていくだけならな。

ていうかこの腐女子がこんなにも喋ってる事に驚きである。

クラスでは普段無口だし、まあ実は喋ってみるとかなり喋りやがる~って人も多いもんな。


「良かったね!腐女子ちゃん!」

「うん!」


本当に良い子だな、めいたんは。笑顔も可愛いし、見てるだけで癒される。

僕がこうやってこの世界一無駄だと思われる時間を過ごしているのもめいたんのおかげなのだ、感謝しろよ腐女子め。

僕はやれやれと思いながらも、野球グラウンドまでのろのろと彼女達についていくことにする。


「ホイホイ!」

「バッチコーイ!」

「ナイバッティン!」


着いた。その距離百メートル…。

訳のわからない掛け声で練習をしているのは勿論野球部である。

僕らおたく達はとてもじゃないが彼らに近づける状況とは思えない、ていうか近づきたくない。

しかし、掛け声で張られた結界をもろともせず、腐女子はそそくさと野球部監督の元に近づいていく。

あいつはまじで正気なのか。

仕方がない、めいたんと一緒に五メートルの間隔をあけながらゆっくりと僕達も野球部の方に近づいていく。

グラウンドに足を触れるたびに野球部と同じ量の汗が溢れそうになった。

距離が縮まると除除に僕達三人は野球部の注目の的になっていくのだ。

とりあえず目線は空だ、右空確認、左空確認、とにかくこちらを見ないでくれ、僕は違うのだ、一応僕達おたくクラスの中じゃカーストは上なんだぞ。


「またあなた達か、さっきも言ったようにだけど部活は…」

「お願いします、おたく部を…おたく部を作らせてください!」


ちょ、ちょっと待てやああああ。彼女は何故か大声で、野球部に劣らないレベルの声でおたく部の部分だけ強めに顧問候補の先生に言いやがった。

わざと言ってるのか…ああ、ざわついちゃったよ、笑ってる奴もいるよ…。


「おたく部だってよ!なんだそれ」

「まじきめえ、グラウンド汚すなよな」


グラウンドの方から次々と罵声が飛び交う、野球選手じゃない僕達はその一言一句のダメージがかなり大きかった。

ところがその罵声を浴びて一番効いていたのは腐女子である。

ポロリポロリと、それはまるで甲子園で去っていく球児のように涙を流していた。

女の子がマウンドで涙を流すなんて中々珍しい光景だろう、まあ仕方がないことなのだ。

泣け泣け、もっと泣いて現実を見ることだな。


「僕からもお願いします!」


空をただ見上げていた僕の耳には、もう一人の少女の声が大きく響く。

めいたんである、彼女もまた涙を何故かポロポロと流していた。

なぜだか知らないが腐女子の時に見たそれとは、大きく違う。

グサッと心に突き刺さる何かがあった、何だこの差は。


「そんな事言われてもね…」

「ったく、先生困ってんじゃねえかよ、とっととマウンドからでていけや」


一生懸命懇願する僕達の元に駆け寄ってきたのは、横幅は僕の二倍くらいでかく、身長は百八十あると思われる大男だった。

顔も強面だ、喧嘩したら勝てる気がまずしない…だけど…。


「うっせえんだよ、大人しく守備位置に戻れやクソゴリラ!」


言った、言ってやったぞ。

らしくない…僕がこんな取り乱すとは。

メンタルには自信はあったが美少女の涙を見ていると、こみ上げてくる何かがあった。


「てめえ、ぶっ殺すぞ!!!」

「やめなさい!森本くん!」


胸倉を思い切りつかまれ、思わず足は宙に浮かびそうになる。

そんなゴリラを監督は一生懸命止めようとしていたが、先生を舐めているのか、彼は一切耳を貸そうとはしない。

怖い…はっきり言ってこのゴリラが超怖いが…同時に超楽しくもある…。

ゴリラはこちらを睨みつけ、開いた手で腕を引き、殴る体勢にへと入る。

フフフ…フフフ…そうだゴリラよ、殴れ!

お前には今殴るしか選択肢はないはずだ。

僕は歯が一本吹っ飛ぼうがどうでもいいのだ。

問答無用でお前を成敗できるのであるならな。


僕は絶対的にこいつに勝てる自信があった。

何故ならば今この状況を何もかも盗聴しているからだ。

僕は登校から下校の間までは、いつも何があったかを万が一の事を考え全て録音している。

証拠はバッチリだ、お前が殴りでもしようものならば警察に突き出し、お前は退学になる。

ここはもう義務教育の場所じゃないのだ、お前にその度胸があるならやるがいい。

今まで積み上げてきた野球人生を潰したくなければの話だがな。

ニヤリと笑っていた僕に勘付いたのかピッチャーマウンドに立っていた男がこちらへと近づいてくる。

そして、ゴリラ男の腕を掴み思い切り握り下げる。


「試合前だぞ、何考えてんだよくそゴリラ」

「お前までゴリラって!」

「野球、やめてえならやめていいぞ?あいつの手元確認してみろよ、今にも警察に通報する気なのが分からないか。お前一人で辞めるのはいいけど、俺達に迷惑はかけるな」


突然出てきた男の察力に驚く。

画面はできるだけ見えないよう向きに気をつけていたつもりだったが、彼はその洞察力を活かし、一瞬を見逃さなかったのだろう。

見事に正解だ、僕の画面は警察の番号にへと切り替えていた。

彼が一発でも僕をぶん殴りでもしていれば、警察をこのグラウンドに迷わず呼んでやるつもりだったのである。


「おわあっ!」


ゴリラは驚きのあまり後ろに転び、地面にしりもちを付ける。

手を掴まれ、息苦しかったがちゃんと呼吸が出来る状態になった。


「この、陰険野郎!茶坊主が!」

「陰険野郎結構、茶坊主結構、別にてめえらに用はねえんだよ」


ゴリラは僕が何をしてくるか分からないと思い、ただその場で僕を睨みつけていた。

我ながら自分で打って出た行動が溜まらなく気持ちいい。


「あなた達いい加減にしなさい!あなた怪我はない?」

「いえ、平気です…」


野球部サイドから心配されるとどこか少し変な気持ちになる、まあ顧問候補だからこっちのものでもあるか。


「大体部活作るのにも四人必要だろ、後一人は用意してんのかよ」

「ああ、お前達や僕らと違ってとびっきりかっこいい山田がな!もし僕達に手でも出してみろ、山田の女子ファンは僕の学年ほぼ全員だ。お前達は一生女子から軽蔑される事になる」


野球部の投手と思われる人物に、明らかに茶坊主的で、権利に陥った奴の台詞を言ってみた。

まあ僕達がこいつらに勝てる手段はそれくらいしかないのだ、ここは出来る限り最善を尽くすべきであろう。


「なに?山田だと…?」


彼は山田という極平凡な苗字に対して何故か驚いていた。

まさか驚くとこがそことは思わなかったが…。


「そうかそうか、お前達山田のクラスか…」

「知り合いなのかあんた」

「ああ、俺をこの世で最も愚弄した男がそいつだからな。それよりお前、一つゲームをやってみないか?」

「ゲームだと?」

「ああ、ここまで乗り込んできたんだ。俺達と野球勝負をしてみないか?」

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れっつ!いたんじっ!おたく部☆ コルフーニャ @dorazombi1998

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