発見
茶色はひとりきりの学校で自由に本をめくっていた。少年と一緒だとあっという間に時間が過ぎていくというのに、ひとりだと時間はゆっくりとしか進まない。ページをめくる度に聞いてみたいことに突き当たる。この字はなんて読むのか、これはなんなのか。その度に手が、頭が止まる。いつまで経っても時間は流れていかない。ふたりでいるのとぜんぜん違う。
どこかを飛びまわる気分でもない。少年と出会うまであれ程輝いていた世界は少しだけくすんでいた。退屈だった。
部屋を移る。退屈しのぎに少年が楽器と呼ぶものに触れてみた。少年のように両手で大事に抱えはしなかった。適当に片手で掴み、ぶら下げるように持ち上げる。なかなか重い。
平らな紐で留められているようだ。何の気なしに外してみた。
音がした。
何かが壊れた音ではない。音色。心地よい何かを含んだ音。
ぶら下げた楽器からだ。吹き込んだ息が足りなかった時の笛とよく似た間抜けな音を立てながら、折りたたまれていた部分がゆっくりと広がっていく。
下がっていくのを押さえようとして細かく並んだ白と黒の四角に手が触れた。
瞬間、大きな音がした。
驚いて手を離す。音が消える。
もう一度、今度は意識して白い四角を押してみる。
やはり音がする。押している間、音が続く。
折りたたまれていた部分が下までのびきった。音は消えた。他の白いところを触っても音は出てこない。
ぶら下がっている部分にちょうど掴めるところがある。そこを掴んだ。反対側にもある。両方を掴むと広がったその楽器を両手で抱えるように持つことになる。
間に広がったところがだらんと下がる。両手でもとに戻そうとちょっと力を入れてみる。動かない。もう少し力を入れようとして、つい指が白い四角に触れてしまった。
音だ。音を立てながら縮んでいく。慌てて指を離すと音が消え、縮むのも止まる。
わかってきた。
並んだ白いところを指で押すと音を出しながら縮む。指で押す場所を変えると違う音が出る。次々と場所を変えてみる。その度に音が変わっていく。
茶色の目が輝いてきた。
次々と音を変えていく。開いた部分を押し続ける。これ以上押せないぐらいまで押し縮めると音が出なくなる。今度は広げる。そうすると音が出る。
何本もの指で白いところを押さえると一度にたくさんの音が鳴る。
夢中になっていた。
足で床を踏み鳴らす。それに合わせて音を出す。次第に熱がこもり勢いが増していく。思ったような音は出せない。思いがけない音が出る。指が爪先の刻む音を追いかける。追い越す。やがて重なりあう。
音楽だ。
茶色は満面の笑みを浮かべた
茶色は音楽を発見した。
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