ガキ
充分な量の食料を詰め込んだ鞄の紐をしっかりと肩にかけた。ずしりとした重さを感じる。あとは誰かと目を合わさないよう気をつけながら、なるべく静かにこの場から立ち去るだけだ。
背を向けた配給所から男達のどよめきが聞こえてきた。
また誰かと誰かが闘うのだろうか。
振り返らなかった。むしろ、その場から早く遠ざかろうと足を速めた。
肩に誰かの手が当たった。思わず立ち止まり、顔を上げる。
「おう、見てかないのかよ」
同じぐらいの背格好の子どもが立っていた。艶のある鮮やかな茶色の髪の毛だ。後ろには、仲間だろうか、薄汚れた格好の子どもたちがばらばらと並んでいた。
何も答えずに彼を見つめた。
「ん、口がきけないのか」
茶色い髪の子どもにそう言われても、かたく閉じた口は開かなかった。
「行こうぜ、面白そうだ」
まだ誘っている。
彼の後ろの子どもたちが、せかすように声を上げたり手足を振り回したりし始める。ひとりが彼の肩に手をかけようと手を伸ばした。
「わかった」
茶色い髪の子どもはまったく振り返りもせずにわずかに肩を動かし、後ろからの手を軽くかわした。目は、まだ少年を見ていた。
と、彼は手を振りあげながら振り向いた。少年にはもう目もくれず、後ろの仲間たちと走り出す。彼の肩に手を置こうとした子どもが、少年に向けて握ったこぶしを振り上げた。すぐに他の子どもたちの列に合流し、走っていく。
少年は深く息を吸い込み、大きく吐き出した。手のひらが汗ばんでいた。おじさんが誰とも関わるなと言っていたことを思い出していた。
配給所を離れる前に、もう一度だけ後ろを振り返った。さっき声をかけてきた茶色い髪の子どもとその仲間たちは、闘いを取り囲む人ごみの後ろ、配給所のベルトコンベアが出てくる建物の上によじ登り、戦う男たちに向けてこぶしを突き上げながら歓声を上げていた。
肩からずり落ちる鞄を両手で抱えた。あそこで一緒にこぶしを突き上げる自分は考えられなかった。
少年は居住区の男たちと自分は違うと思っている。
おじさんのところに早く帰ろう。
少年は走り出した。
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