第21話 スクラッチ
後輩と駅の構内を歩いていた。
俺が「今からアルプスへ行こう」と言うと
彼は「アルプスはちょっと・・・」と苦笑いをしながら
足早に表へ出て行ってしまった。後を追って外へ出てみると彼の後ろ姿が小さく夕暮れの坂道を駆け上がっていくのが見えた。
それを見送って家に帰ると、やたらと暗い。
しかし俺はそのまま泥のように眠ってしまった。翌日、起きると壁一面に見覚えのない収納ボックスが積み重ねられている。プラスチック製で引き出し部分が透明になっているありふれた物だが、全ての箱の中には三分の一ほどの高さに土やら枯葉が入れられている。中をのぞくと様々なカブトムシやクワガタムシが入れられている。しかもそのどれもが手のひらより大きい。
「冬場はここに置かせてもらうよ」背後から弟が言った。
俺はしばらく甲虫共と戯れてから散歩に出た。
既に陽が傾いていて薄暗かった。
マクドナルドの角を曲がると向こうからガラの悪い男女数人が歩いてきて、すれ違いざまに女の一人が「ぼうや独り?」と聞いてきた。俺が「うるせえ」と言うと、しばらくしてそいつらが追いかけてくるのが見えたので隠れる場所を探していると宝くじを売ってる店の前におばさんが立っていた。「いれてください」と言うと、店内のカウンターに座らされてスクラッチの束を6,800円ぶん買わされた。何十枚もあったにもかかわらず数字が二つ当たったのが二枚ほどあるばかりだった。
一度、店を出て隣りの熱帯魚屋をうろついたあとまたその前を通るとさっきのおばさんが手招きしながら「ちょっとあんたチャンスだよ」と言ってきたので再びカウンターの前に座った。するとテーブルの上にやりかけのスクラッチの様な物があっておばさんは「OLのお客さんが途中までやって寝ちゃったんだよ」と言った。正確にはそれはスクラッチではなく、クロスワードパズルの様な物だったがどこにも問題が書いてないので、適当にひらがなを書き込んでいくらしい。回答用のマスは30個あり25個めまで埋まっていた。その脇に「ヒント ランプ」と走り書きがしてある。
おばちゃんは6つは当たってるよ」と言う。
何故そんな事がわかるのか。それ以前に、他人の物を勝手にやっていいのか迷っているといつの間にか坊主頭のデブがそのパズルをやり始めていたので俺は仕方なく天井の隅にあるテレビを見た。画面にはものすごく貧しそうな一家の生活が映し出されている。窓の下に、ベッドにもたれかかって死んだような顔をした女の子がぼんやりと外を眺めている。そこで番組は終わった。エンディングもやたら侘しくて、車窓から撮っているようなピンボケ気味の田園風景がひたすら流れている。黒い鳥の群れが飛び立つのが見えた。そのうちその上に番組のタイトルの様な物が現れたが何とも読みづらい書体で判別ができない。
「ひどい番組だな」と俺は言った。
JUST A DREAM Jean Madeleine @jean_madeleine
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