黒オオカミと女の子

卯月 幾哉

本文

 あるところに、真っ黒なオオカミがいました。


 真っ黒なオオカミは、森で真っ白な服を着た女の子に出会いました。

 真っ白な帽子をかぶった女の子は、一人で森を通り抜けて、その先にあるお城まで行く用がありました。


「あら、オオカミさん。すてきなたてがみね」

 白い女の子は黒いオオカミを見て、そう言いました。

「ふふ。お嬢さんこそ、やわらかそうなほっぺただねぇ」

 黒いオオカミはよだれをすすりながら、言いました。

「なんておいしそうな女の子だろう」

 黒いオオカミは心のなかで、そう思いました。

 黒いオオカミは、その女の子をとっても食べたいと思いました。でも、がまんしました。それが悪いことだとわかっていたからです。

「一人ではこの森は危ないわ。いっしょに来てくださる?」

 女の子は黒いオオカミにお願いしました。

 黒いオオカミは女の子を食べてしまいそうだったので、断ろうと思いました。でも、確かに女の子の言うとおり、森の中は危ないので、女の子を守るためについて行くことにしました。

「ふふ。いいだろう」

 黒いオオカミはそう答えて、女の子の隣を歩き始めました。


 黒いオオカミと女の子は、森の中を何時間も歩きました。お花畑で追いかけっこをしたり、一緒に橋のない川を渡ったり、黒いオオカミが野ウサギを捕まえて食べたりしました。

 それに、途中の道で、別のオオカミの群れにも会いました。けれど、黒いオオカミが一吠えすると、群れのオオカミたちは怯えて逃げてしまいました。

「あなたはとっても強いのね。ありがとう」

 女の子は黒いオオカミにお礼を言って、ほほにキスをしました。黒いオオカミは不思議な気持ちになりました。


「あなたのおかげで、やっとここまで来れたわ」

 もう少しで森を出るというところで、女の子はとびきりの笑顔で黒いオオカミの方を振り返りました。

「あぁ、もうがまんできない」

 黒いオオカミはついにがまんできなくなって、愛らしい女の子ののど笛に咬みついてしまいました。

 女の子はたくさんの血を首からながして、死んでしまいました。女の子の白い服と帽子は、血でまっ赤にそまっていました。

 黒いオオカミが、女の子の首に咬みついたアゴを引きはなしたのは、何分かたったあとでした。女の子はもう、こと切れていました。

 それから黒いオオカミは、涙を流して悲しみました。

「ああ、ついにやってしまった。俺はこの女の子を殺してしまった。思った通り、これまでに食べたどんなえものよりもおいしいけれど、この子はもう動かない。なんてことだ。胸が張りさけそうなくらい、悲しい」


 すると、それまで女の子を見守っていた精霊が、女の子の体を通して語り始めました。

「悲しいのか」

「ああ」と、黒いオオカミは答えました。

「では、生き返らせてやろう」

「ほんとうか」

 黒いオオカミが問い返すと、精霊は女の子の体を借りてうなずきました。

「運がよかったな。私がいなければ、この子の命はここまでだった。そのかわり、この子を一生、守るのだぞ」

「わかった」

 黒いオオカミはしっかりとうなずいて答えました。


 目をさました赤い女の子と黒いオオカミは、お城で結婚式をあげました。それから、一生をともにすごしました。


(了)

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黒オオカミと女の子 卯月 幾哉 @uduki-ikuya

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