第12話・孤高、故に孤独……それが作家

 五年前、授賞式で先輩作家先生に言われたことがあります。

 作家は孤高、故に孤独……人間関係と友達を大事にしなさい、と。

 今日は職業作家を取り巻く環境についてのお話をしたいと思います。


 自分が賞を受賞した時、十人前後の方が一緒にいました。受賞者も拾い上げの方も、初めての受賞式、そして受賞パーティで緊張気味だったのをよく覚えています。勿論もちろん、そういう場が苦手な自分が一番テンパってて、挙動不審だったことも。

 当時十人前後いた同期は、今……自分を含め、三人しかいません。

 そして自分が舞台を降りるので、実質二人が生き残った計算になります。

 既にもう、連絡も取れない方が大半です。

 同時に、連絡を取ろうとも思わない程度の繋がりでしかありません。

 十人前後の受賞者の、約半数が出版前に脱落していきました。

 そして、出版後に重版出来じゅうはんしゅったいで売れたのが、今も生き残ってる二人です。

 実は、作家同士というのは仲がいいようで、そうでもないようでと、複雑な関係です。弱肉強食の実力社会故に、自分以外は全てライバルという、そういう考えもできるからでしょう。自分は最初は積極的に交友関係を持っていましたが、だんだんと疎遠になっていきました。当初は同期の本を必ず買って読み、感想と祝辞のメールを欠かさなかったんですけどね。次第に一部の同期だけが売れて伸び、他の同期が脱落して消え、自分も切羽詰まって進退窮しんたいきわまるという状況になっていきました。

 同期の作品がアニメ化され人気を博すと、なかなか複雑な思いがあったのも事実です。


 作家は孤高、故に孤独……これはなにも、作家同士の人間関係に限りません。

 多くの友人知人は、貴方がもしデビューして作家になったと告げると「へー、凄いね!」と言うでしょう。素直に「おめでとう!」と言ってくれるかもしれません。しかし、その瞬間からもう、貴方は友人知人にとって異質な存在になります。大多数が何らかの形で就労、ないし学業への参加をしている中……貴方は周囲から、そうした枠組みの外にいる存在として認知されるのです。……あくまで、そうしたことが多いというレベルの話ですが。

 作家デビューは、夢を叶えた勝ち組。

 作家とは自由人、好きなことをして稼げる人たち。

 酷い人になると、作家は遊び人のようなもの、平日も昼からぶらぶらしてるなんて思う方もいます。

 そして、それらの評価は全て根本的に少し違うのですが、反論も面倒なことなのです。


 事実、休日が仕事な反面、平日が休みというシフトの方は結構沢山います。作家になると概ね、土日が休みという周囲のスケジュールと噛み合わないこともありますが……それでも、上手く交友関係や人間関係に気を配れば、疎遠になることは避けられるでしょう。

 作家仲間同士の人間関係については、前述のようになかなか難しいのが現状です。

 作家は、デビューした瞬間から作家なのですが、具体的な成果がなくても、出版した本がなくても、なんらかの活動中であることが多いです。長い人になると、四年掛かって一冊の本を出すというケースも珍しくありません。ですが……成果物がないまま働いている人を、世間はなかなか理解してはくれないのです。

 個人的な感想ですが、作家仲間のコミュニティについては、お好みで、ですね。

 先輩作家先生が集うSkypeスカイプチャット等にも、当時誘われたものです。

 しかし、自分にはあまり意義を感じなかったし、意味もないように思えました。ただ、レーベルによっては作家同士の連帯感が非常に強く、時としてそれがありがたく作用することは多いようです。

 リアルでの交友関係については……難しかったですね。

 非常に悩ましいというか、理解を求めること自体が無理のように思えました。

 好きでなければ通用しない職業、作家。

 好きなことをやってお金が稼げると思われる仕事、執筆業。

 それらは半分正解であると同時に、全く違う話でもあるのです。


 以前も話しましたが、自分の年収は多い年で150万円でした。これが、作品が売れず打ち切りになる作家の現実で、それはいいんです。そして、当然周囲の異業種の友人知人はこれ以上、あるいは倍以上の稼ぎを持っています。作家仲間や同期デビューの方も、自分とは別レベルの生活を(上にも下にも)しています。

 そうした中で、自分より上の人と接することに抵抗はないか?

 非常に申し訳ない話なんですが、健全で健康なメンタリティがないと、まず間違いなく機能不全を起こします。同業者に対しても、リアルの友人知人に対しても。時には家族とさえ、不協和音を響かせてしまうことがあるかもしれません。

 作家とは、なかなか理解されないイメージが先行した仕事です。

 作家の難しさというのは、今まで語ってきた中で上手く伝わってればいいのですが……こうしてこの文章を読んでくださる皆様にさえ、自分の稚拙ちせつさゆえに伝わっていないかもしれないのです。


 デビューしてもし、作家になったらのお話です。

 絶対に「」を作ってください。

 この人はと決めた方には、全幅の信頼を持ってアレコレ打ち明け、一人でいいので信用できる友人知人を作ってください。

 世間では大多数が貴方を「楽な仕事の勝ち組」と見ています。

 それは最初は、全く気にならない価値観でしょう。

 そして、作品が順調に売れれば、今後も問題にすらなりません。

 しかし、大多数は脱落者となり、それを逃れた作家にも勝敗ははっきりと売上、金銭で明確になります。

 敗者になると心がすさみます。

 敗者である中、「夢を叶えた仕事、好きな仕事っていいね!」と言われると、笑顔の維持が困難でしょう。返答にも困る有様で、酒でも入っていようもんならからんでしまうかもしれません。

 余談ですが、ここ数年で自分はリアルの友人関係を随分失いました。それは、作家として失敗し脱落仕掛けてる状況と、に起因するのですが……長物守、ボッチです。既にもう、顔を合わせて遊ぶ友人も少なく(ゼロではないですが)一緒に酒を飲む仲間などほぼ存在しません。

 それはとても寂しいことで、とても作家家業にプラスとは言えません。

 できる範囲でかまわないので、理解者となるよき交友関係を育んでください。

 人付き合いを大切にしてください。

 平日が休みという不規則な仕事の友達がいたら、時々付き合ってあげてください。人と接すること、コミュニケーションは作家性を豊かにします。多くの人が憧れを持って、羨望の眼差しで言うでしょう……悪意なく、悪気なく、言うでしょう。貴方は勝ち組、貴方は好きなことで稼いでると。そうした評価と現実が剥離はくりしている時、やはり理解者が必要だと自分は思うのです。


 さて、最後になりますが……そうした理解者にうってつけな人間がいます。

 そうです、

 担当さんは、仕事でもプライベートでも、一番の理解者になる可能性を秘めています。彼等彼女等とチームワークで挑む出版事業は、決して楽なルーチンワークではありません。そして担当さんは、時に辛辣しんらつな言葉で貴方の作品、企画書やプロットを一蹴するでしょう。「」とか「うーん、うーん……うーん(と続けて言葉を促す無言の圧力)」とか、時には「ジャンル自体がもう、需要として厳しいです」と言うでしょう。しかし、担当さんは初めての読者さんであり、初めて最後まで読んでくれる人です。本屋に並んだ時、お客様は駄目だと思ったら買いません。最後まで読まないし、すぐ本棚へと本を戻すでしょう。担当さんは、担当さんだけは最後まで「どこかいいとこがある筈だ」と思って読んでくれます。

 そうらしいです。

 担当さんは、出版において最初のボスキャラ、敵です。

 同時に、攻略すれば強力な味方となり、二人三脚で支えてくれるでしょう。

 作家は孤高、故に孤独……下手を打つと周囲は敵ばかりになります。

 そんな中で、担当さんは「一緒に商売するため、担当作家さんのいい場所を見つけて伸ばすぞ!」というスタンスの方なんです。勿論、営利企業という組織の末端故、個人の感情や私的な理由で動くことはありません。

 しかし、仕事とは別にして、お互いに「あー、わかる、わかるわー」って関係を築いておくと……絶対にプラスになります。逆はマイナスどころの騒ぎじゃありません、仕事として機能しなくなります。

 担当さんと波長が合わない場合は、編集長に言えば変えてもらえます。

 曖昧あいまいに「なんか合わないんだよね」という話でも、通じます。

 相手もプロ、言葉や理論で説明がつかぬ相性があることを熟知しています。

 担当さんを理解者にし、担当さんの理解者になりましょう。

 それが難しい時は、担当さんを変えてもらいましょう。

 創作論議から今期のしアニメまで、なんでも語れるのが担当さんです。


 因みにお察しかと思いますが、自分は己の未熟さ故に、担当さんと良好な人間関係を築けませんでした。自分の担当さんは「書き直すののなにが苦しいんですか?」と、平気で言うような方でして……作家というビジネスパートナーに、全くリスペクトを持たない、敬意を払わない人間のように感じました。

 作家様をあがめろ、うやまえ! なんて絶対言いません。

 ただ、スポーツでも仕事でも、仲間に敬意を払わぬ者との連携、これは難しいです。

 自分の担当さんは「俺はね、誰に対しても『』って絶対つけないんですよ」なんて自慢げに語る人でしたね。そういう人にとって多分、打ち切りの常連作家たる自分は、スペアのいくらでもいる作家崩れに思えていたのかもしれません。

 また、とある作品の出版前に大きな衝突をし、担当さんのチェンジを申し出ました。

 しかし、担当さんを変えてもらえませんでしたね。

 以降、自分が全てにおいて「担当さんの言いなりになる」という機会が増えたように思えます。腐ってしまった、無駄だと諦めてしまったんですね。自分との相性が悪い担当さんは、作家自身を殺します。そしてそれについて、担当さんに非はない……というか、担当さんは作家の浮き沈みに関して全く責任を持たなくていい部署なので、なんとも言えないのが実情です。作家が駄目になっても、担当さんは全くダメージを追いません。毎月の月給を貰い、週休二日で働きます。自分も悲しいですよ、と口では言いますが……絶対に安全な場所から動かず、時には生産性の低い作家を切り捨てることもあるのです。

 担当さんを味方につける、合わなければ取り替える。

 一人で悩まなくて済む環境を作ることもまた、作家の仕事の一つなのでしょう。


★今回のポイント

・友人知人の「作家凄いね、勝ち組だね!」という無理解を責めてはいけません。

・同期や先輩、後輩の作家仲間とは、適度に良好な関係だとプラスな気がします。

・一人でいいから、愚痴も言い合える、裏話も秘密を守り合える理解者を作りましょう。

・編集部の担当さんとは、できる限り良好な関係を築き、仲間になりましょう。

・担当さんと波長が合わない時は、編集長に伝えましょう。

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