第11話・ロボット物は伝統芸能

 さて、今日は少しニッチなお話を一つ。

 皆様、ロボット物は好きですか? 日本の伝統芸能とも言えるお家芸、ロボット物。実は「人が乗って戦う巨大ロボ」というのは、日本が発祥の文化です。海外では、例えばX-MENエックスメンに登場するセンチネルなんかがありますが、完全自立型の無人ロボですね。他にもロボのキャラクターは沢山いますが、全て自律型か、自分で意思を持つタイプです。

 ロボット物文化を語ると止まらなくなるので、ここまでの話で。

 以前、Twitterツイッターでこんな話題が取り上げられていました。


「小説という文芸媒体からの作品発信として、ロボット物は可能か不可能か」


 結論から言うと、可能です。

 しかしそれは「」というレベルの可能性です。皆様の中にも、ロボット物がお好きな方もいらっしゃるでしょう。また、自分の得意な、愛好するジャンルに特別な感情を抱いてる方もいらっしゃると思います。

 ロボット物に限らず、敷居の高いジャンルや作風がラノベ業界にあります。

 それは丁度、異世界転生物やファンタジー物、ハーレム物と対極にあるもの……では、どうしてロボット物は敷居が高いのでしょう? さあ、貴方もサイコザクに乗った気分で、バーニィのような気持ちでロボット物の現状を見つめ直して見せませんか?


 まず、結論から言って可能と述べた、その根拠を前例と共に語りましょう。

 文芸発のロボット物作品として、自分は二つの異なる作品を忘れてはならないと思ってはいます。一つは、賀東招二先生の「フルメタル・パニック!」、もう一つは福井晴敏先生の「機動戦士ガンダムUCユニコーン」です。

 では、フルメタから……完全なオリジナルのロボット物ラノベで、非常に高い人気でアニメ化されました。また、近年は何度もスーパーロボット大戦シリーズに参戦しており、最新作のスパロボVにも参戦が確定しております。内容は有名なので、割愛させて頂きますが……ロボット物ファンにとっては「」と……そう認識されてるかと思います。

 次に、ユニコーン……これはもはやラノベではない文体、そして文章量であり、ガンダムシリーズという土壌の上に成立している作品です。しかし「アニメのノベライズ」ではなく、有名作家による完全な新規ストーリーです。そして、この小説がメディアミックスにより、後にアニメ化されたことはご存知の通りですね。ユニコーンもまた、その名の通り、作品のテーマの通り、可能性を見せました。


 本題に入りましょう。

 何故、ロボット物が小説という表現媒体で成立しにくいのか?

 どうして、商業創作においてロボット物は編集部や出版社から避けられるのか。

 第一に、ロボット物というジャンルは、完全にヴィジュアル主導型の娯楽文化だからです。皆様は多かれ少なかれ、文芸、つまり小説媒体をなんらかの形で愛好し、このカクヨムに集っていると思われます。しかし、小説媒体には非常に魅力的な独特の良さがある反面、どうしても苦手とする作風やジャンルがあります。

 その一つが、ロボット物です。

 何故、ロボット物を小説媒体は苦手としているのでしょうか?

 本当に才能と努力、そして技術と情熱を注げば、面白いロボット物小説が書けます。事実、このカクヨムでも★を100個以上獲得しているロボット物は多数ありますね。しかし、カクヨムには現在、挿絵等のイラストを補完する機能が実装されてません。ヴィジュアル的な要素を持たぬ中での執筆を強いられます。Twitter等で有志や友人が描いてくれたイラストが頼りです。

 そう、実は……編集部や出版社の言い分はこうです。


「ロボット物なら、小説で苦労してやるよりゲームやアニメ、漫画でしょ!」


 勿論、営利企業としての言葉です。しかし、悲しいかな、現実の一面であると言えます。実際自分は、この言葉で十本以上のロボット物企画をボツにしてきました。つまりこういうことです……ロボット物特有のダイナミズム、格好いいメカ描写に迫力の戦闘シーン。それらは全て、「小説でも表現できなくもないが、ヴィジュアル媒体の方が圧倒的に有利」ということです。故に、編集部としては特別な事情がない限り、敢えてラノベでやる必要がないということです。同じ労力で、もっとイージーなジャンルを創作したほうがいいし、売れやすいという判断ですね。

 繰り返しますが、善悪や良し悪しではありません。

 繰り返しますが、善悪や良し悪しではありません。

 大事なことなので二度、言っておきました。

 過去の数十年でも、ロボット物のラノベは数多くありました。その大半が打ち切り、ないし未完のまま終わっています。そうした前例と実績、マイナスの印象も編集部にとっては「ロボット物にGOサインを出さなくていい理由」になっています。敢えて渦中の栗を拾う必要はないというのが、編集部の本音でしょう。

 もう一つ、切実な問題として……ロボット物は「メカデザイン」という要素が欠かせません。皆様、時々ポツッと出て来る商業ベースのロボット物ラノベ……見て「メカデザインがなあ……うーん」と思ったこと、ありませんか? そうです、ロボット物ラノベを出すからには、絶対に魅力的なメカデザインが必要になります。同時に、ヒロインがかわいく描ける、ちょっとエッチなサービスシーンイラストも描ける絵師さんが必要になるんです。それこそ、フルメタを担当された(自分の大好きな)海老川兼武先生のような、キャラクターデザインの四季童子先生とは別のメカデザイナーさんが。

 ですが、現実として、メカデザインが少し弱いために、魅力を欠いている作品が多いのが現状です。そして、編集部としては「美少女を描く絵師とは別記に、メカデザイン担当を雇う金なんかない」というのが現状でしょう。結果、「美少女が上手くて、申し訳程度にメカも描ける人」がイラストレーターとして選ばれる訳です。

 編集部がイラストレーターに求めるもの、それは美少女です。

 ジャンルを問わず、全てにおいて「美少女ヒロインがかわいく表紙に出てること」が商業ラノベの大原則なんです。否定はしません、できません。しかし、ロボット物においては、主役ロボットというのはヒロイン以上に大事な存在です。主人公もヒロインも、ロボットの世界観を通して魅力を描写されるのですから。

 最後にもうひとつ……ロボット物というジャンル自体が、思い出産業の斜陽ジャンルと思われてる節がありますね。昔と違って今は「ロボット物で育った世代が、ロボット物世代用にロボット物を創作する」という雰囲気があります。それも、縮小再生産です。ロボット物好きが作る、ロボット物好きにしか通じぬ作品……その拘りを自分も愛しいと思う反面、それが商業創作として多くのお客様に向いてるかというと、少し疑問の余地が残ります。趣味なら別にいいんですけどね。

 ロボット物は伝統芸能、歌舞伎と一緒です。

 今の若い人に歌舞伎を見せるのが、結構難しいように……新しい今の若者世代に、ロボット物の良さを伝えて買ってもらうのは、難しいんですよね。


 次に、先程あげたフルメタとユニコーン……二つの前例についての、出版業界の編集部の認識をお伝えします。

 まず、フルメタ……編集部では

 お前は何を言ってるんだ?(AA略)となった方、ごめんなさい。

 もう一度お伝えします。

 

 どういうことでしょうか? フルメタは二種類あるのでしょうか? いいえ、富士見ファンタジア文庫から出ているフルメタのことです、同じ作品についての認識です。編集部ではフルメタは「美少女ヒロインの元に突然、軍隊根性丸出しの謎の転校生が来て、日常生活がミリタリーなハプニングの連続になるラブコメ」という認識です。あるいは、自分を担当してくださってた編集者だけの認識かもしれませんが。

 今回の最後に話しますが、出版業界のラノベ編集部は、かなりラノベ業界をあなどっている印象があります。そして、侮った商品を売り、それがまた売れてしまう。そういう印象はありますが、やはりここでも「冒険できない金がない」の一言に尽きるでしょう。


 また、ユニコーン……これはそもそも、ガンダムという超巨大コンテンツの末端として執筆されたもので、多くの「ロボット物特有の一般常識、事前情報」を、作中で描写する苦労から解放されています。ガンダムであるというだけで、ニュータイプやジオン、モビルスーツという概念が全て、ある程度読者側が知った状態で始められる訳です。

 さらに言えば、角川さんのビッグイベントとして始められた大御所先生の作品で、かなり環境が優遇されていました。カトキハジメ先生がメカデザインをし、安彦良和先生が挿絵を初期は描かれてましたね? こんなに絵師に恵まれたロボット物小説、見たことないです。それも全て、ガンダムというバックボーンがなせる技……逆にユニコーンダグラムとかユニコーンガサラキ、ユニコーンスコープドッグだったら、同じクオリティの物語でもここまでの大ヒット作品にはならなかったでしょう。


 では、最後に……自分が新人賞を頂いて、初めての打ち合わせの話でシメたいと思います。肌寒い11月、編集長がこれから担当になる編集者さんと新幹線の駅にいらっしゃいました。わざわざ北国の街まで来てくださったんですね。

 で、打ち合わせしましたが、こんなことを言われました。


「ラノベというのはポルノ作品、ターゲット層たる青少年に売るための媒体」

「当然だから、そういった層へのえっちなアピールが必要」

「そういう状況を作るクローズドサークル(羨ましいと思える身内)が大事」


 これが編集部の総意で、恐らくラノベ業界の本音ではないでしょうか。皆様、不思議だとは思いませんでしたか? ラノベって、買うと冒頭にカラーページの口絵がありますよね。あれ、なんで一定の割合で裸の美少女が書いてあるかって、その理由がこれです。ものによっては、冒頭の本編が10P進むか進まないかで、ヒロインの裸が出てきます。

 これは、意図的に購買層へ向けて盛り込まれたものです。

 言うなれば「」とでも言うんでしょうか?

 作ってる側では一部(自分の個人的な感想ですが)、合法エロノベル(しかも、中高生が読んでてもクラスであまり騒がれない程度のエロス)を売ってる自覚があるんです。確信犯です。確信犯という言葉の正しい使い方については割愛しますが、広義の意味で確信犯です。

 大人って汚い? いえいえ、商売ですから。

 そもそも、ラノベ業界は中高生男子、一部の中高生女子がメインターゲットです。ネットでの発信力も強く、購買力や経済力がある程度ある二十代の若者に関しては、実はお客様としてあまり重要視してません。

 あくまで個人の感想です。

 ですが、自分は何度も「サービスシーン、入れましょう!」と言われた経験があります。本筋に関係なく、必然性もないシャワーシーン、着替え、そして裸。主人公と寝たり、時には過度なスキンシップをとったり……編集部がよかれと思って、お客様である中高生に「男の子ってこういうのが好きなんでしょ」とエクスキューズしているもの。そうしたことの方が重要で、ロボット物がどうとかメカ描写が重厚とか、新しい世界観とかリアルな戦争背景とか、そういうのは全く関係ないんですね。

 ポピュラーなジャンルでつづる、青春ポルノ……それが、ライトノベル。

 勿論、全ての出版社がそうだとは言いません。

 しかし、そういう出版社があることを、今日はロボット物の難しさと共に知って欲しいなと思いました。


★今回のポイント

・小説媒体のロボット物は、商業ベースでは非常に難易度が高い

・それでも商業創作として出すなら、プレゼンりょくと独創性、見積もりが必要。

・売ってる出版社からして、お客様は主に中高生(十代の子供)

・今の子供はチョイエロ入れときゃ買うんだよ! という認識がなきにしもあらず。

・客を、読者を、そして今の子供をナメんなよ! ……って思うけど、言えなかった。

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