第10話・ゴチャゴチャウルセー!とは思うけど

 さて、つらつらと書いてきましたが、残り数話となりました。

 今日は少し、ラノベ業界の裏事情、そして切実な大人の事情をお届けしたいと思います。

 以前、ラノベを原作にした二つのアニメが、「どっちともヒロインが同じ、ほぼ同キャラなのは何故なんだぜ?」と話題になったことがあります。赤い髪に、やや強気で勝ち気な性格、そして武器は炎の細剣レイピア。あくまで偶然、奇遇なことだとは思うのですが……同時に、「まあ、そうなるわな」と思い当たるフシがあります。


 皆様は創作をしていて、他者から「◯◯っぽいね!」「◯◯みたいです!」って言われたこと、ありませんか? 因みに拙作ですと、そうですね……カクヨムでの趣味の作品だけでも、マブラブオルタネイティブっぽい、漫画「ガンオタの女」っぽい、etc.etc.……こじつけレベルのものもある一方で、「言われてみれば確かに!」と思うものもあります。

 創作家の中には「◯◯っぽい、とか言われたくない」って方、大勢います。

 自分は気にならないのですが、◯◯っぽいと言われた◯◯は、知らないことの方が多いですね。しかし、仕事ではこうした種の発言は頻繁に飛び交います。


 以前も少し話題に触れましたが、近未来のヴァーチャルリアリティによるMMORPGをテーマにした作品を書きました。実はこれ、企画段階ではロボット物だったんですよね。バーチャロンとPSO2の間の子みたいな、ロボで戦って稼ぐMMOだったんです。ただ、次回に話題を譲りますが、。それについてはまた後日……それで、普通のMMORPGとして再構成することになったんです。

 で、自分としてはPSO2みたいな、スペースオペラっぽい近未来SF風の物語を想定してたんですが……まあ、色々あってああなりました。自分なりに先達の作品との差別化を図ったのですが、結果的に失敗だったのかもしれません。で……必ず言われます、打ち合わせでは勿論「SAOっぽくして! SAOみたいに!」って、言われます。死ぬほど言われます、凄い言われます。多分、先程ちょっと触れた「メインヒロインがそっくりのラノベ原作アニメ」は、別の編集者と作者ですが、同じ「◯◯っぽく」を言われていたんでしょうね。因みに以前、自分も「髪が赤くて勝ち気な少女(武器は細剣)」を書いたことがあります。最初は髪が緑だったんですが「緑はサブキャラっぽいから、赤にしましょう!」と打ち合わせで決まり、変更されたんですね。


 何故、編集部からは頻繁に「◯◯っぽく!」と言われるのでしょうか?

 それは、今のラノベ業界、ひいては出版業界、商業創作そのものの苦しい実情があります。やはり、デフレと不景気というのは百害あって一利なしという訳でして……現実として、どこの編集部も「絶対に冒険したくない、っていうかしたくてもできない」という状況です。若者の本離れというのは眉唾まゆつばで、実は若者たちは本を読むんです……ちゃんと読んでくれてるんです。ただ、限られたお金でどれを買うかと、かなり切実な悩みを持ってまして。しかも、その限られたお金というのは、一時より少額になってる気がしますね。

 バブルの時代はもう、ラノベなんて言葉もなくて、ロードス島戦記にゴクドーくん漫遊記……そして電撃ゲーム大賞(後の電撃大賞)でブギーポップが出て、という時代。あの頃はかなり余裕があったんですね。しかし、日本の経済は低迷し、大きな投資がしにくい状況が続いています。


 最近、漫画の実写映画化が多いと思いませんか? ファンから見れば「アニメはいい、ただし実写、テメーは駄目だ!」って思うことも少なくないと思います。勿論、実写化した漫画原作の映画がヒットしたり、素晴らしい内容だったりすることもあります。反面、実写化のニュースを聞いただけで気が滅入めいる、そういう層も確実にいるわけで。

 何故、漫画原作の実写化がこんなに頻繁に作られるのでしょうか?

 それは、不景気だからなんです。

 映画監督や制作会社も、スポンサーからお金を出してもらうのに四苦八苦してます。

 そこで、漫画原作です。これの利点は、プレゼンで「原作は◯◯万部売れてる、この◯%の読者が映画に来てくれたら、最低でも興行収入は◯◯億円です」って言えること。見積もりができるんです、お金の。スポンサーは儲かる投資しかしたくない、更に言えば不景気なので絶対に無駄な投資はしたくない。だから、数字を提示されて「最低でもこれだけは儲かるぞい!」と見せられるまで、資金を提供したくないんです。

 おや? どこかで似てる話だなと思いませんか?


 そうです、ラノベ業界も同じで、冒険したくないんです。出版という事業は驚くほどコストがかかります。しかし、手に取った紙の本がくれる体験は、読書という行為でしか得られぬ感動を沢山くれます。電子書籍が世に出て久しいですが、タブレット端末が広く普及した今でさえ、人はペーパーの本から離れられません。

 ですが、不況なので確実に出版社の売上は落ちています。

 これは、Amazonアマゾンや電子書籍といった新たな流通方法が発展してきたのに、出版社と本屋の多くが旧態然とした商法から抜け出せないことに起因しています。……勿論、関係者の方々はみんな努力しているし、新たな改革を行ってる方も沢山いらっしゃいます。しかし、本質的に業界自体が老いた、上手く時流に乗れてないという状況はあります。

 そんな中で、不況への対抗策として「」が行われる。

 概算がいさんでいいから、はっきりとした数字で売上が見えてないと、商売ができない。

 その結果、編集部は出版の判断基準として、世間の流行や市場の動向、過去のデータから算出された前例にどうしても頼りがちです。良し悪しではなく、利益追求を至上命題とする営利企業では、そうせざるをえないんです。

 結果、売れた作品の要素を積極的に入れようとする訳ですね。

 多分、赤い髪の少女剣士というのは、シャナあたりが源流な気がしますね。きっと多くの作家さんが「シャナみたいにしましょう!」って言われたんじゃないかなあ、と。他にも、出した企画やプロットが有名な作品と似てた場合……容赦なく「◯◯みたいですね!」って言われます。肯定も否定も全部「◯◯みたいでいいんじゃないか」「◯◯みたいだから、ちょっと」という感じ。


 まあ、時々思います。

 語彙ごいがないんかと。

 近似値判定しわけマシーンじゃないだからさ、と。

 言ったことないですけど、ね。

 でも、確かに「◯◯っぽいですね」は、褒め言葉かどうかもわからない。そして、商品として本屋に並んで買ってもらった時、読者から「◯◯っぽかったよ!」って言われるのは、作家なんですよね。提案するのは多くが編集部ですが。自分も随分言われましたが、しょうがないのかな、と。

 編集部としては「◯◯っぽいということは、◯◯みたいに売れる可能性がある」って思う訳です。それは「◯◯っぽく売れれば、そこまで酷い売上にならないだろう」という打算もある訳です。その上で、独自色があれば盗作パクリ疑惑も免れる。あくまで既存の名作やヒット作のオイシイ所だけを拝借し、屋台骨と世界観、設定や物語は自前で用意する。

 でも、時々思うんですよね。

 読者の中に「あ、赤い髪の細剣を武器に炎で戦うヒロインだ! 買おう!」って人、何人いるのかな……って。勿論、世の中には髪の色にこだわる人、います。そういう人、知ってます。自分だって、黒髪ロングの美少女は好きです。でも、そこって購入の基準たりえるんでしょうか? 自分にはまだ、その答がわかりません。勿論、表紙のイラストは購入の判断基準なんですけども。


 あと、編集部は結構な頻度で「◯◯みたいな売れるの、書いてくださいよ」なんて言います。あ、悪気はないんですよ? 悪意があって言ってる訳ではないんですが……スルーして流せばいいんですが、時々グサッと刺さることがあります。いい意味でプレッシャーをかけて、発奮はっぷんうながそうとしてるのはわかるんですが……時として「編集部の言う◯◯を、自分はそこまで評価していない時」ってのがあります。勿論、読んでみて考察と分析、理解を終えた上での話です。単に自分に向いてないだけで、名作と呼ばれる作品はどれも素晴らしい完成度です。

 ただ、難しいのは……そういうの、書きたいと思わないんですよね。

 よく、異世界転生物を求められたりしましたけどね。

 ネタのストックとして何本かあるんですが、自分の考える異世界転生物は、世間で売れてる異世界転生物とは違うんですよね。だって、同じだったら自分の作品じゃなく、他の売れてる作品を皆が買う訳ですし。難しいんですよね……編集部の「売りたい、売れたい!」という気持ちは、作家と共有できるものです。同じチームとして「勝ちたい!」という気持ち、これはありがたいです。でも、「勝ち方」については随分と温度差があるんじゃないかな、と思ってます。

 何度も言いますが、不景気なのでしかたないんですけど。

 そりゃ、編集部だって作家の独自性やいいとこ、作家性をプッシュしたいんです。でも、それだけでは売れないし、売れるかどうかがわからないんです。だから、保険をかける意味でも「名作の評判よさげな要素」を入れたいんですね。

 ホント、商業創作って難しいですね。


★今回のポイント

・「◯◯っぽいね!」と言われても、あまり気にしないようにしよう。

・言われたら「あの名作な◯◯に匹敵する物を書いた俺スゲー!」って思おう。

・創作時は、少しだけ「最近なにが売れて、どゆのが受けてるか」も大事、らしい。

・ただ「◯◯っぽくするぞい!」ってのは、手段であって目的ではない。

・冒険できない出版社を責められない、作家と彼らは利害を共有しているから。

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