第9話・必殺の回復技をぶちかまそう!

 今日は少し、ラノベ作家の就業スタイル等についてお話します。

 基本、作家業は自営業、個人事業主です。なので、会社勤めの方や公務員の方と違い、好きな時間に好きなだけ働けます。また、商店やサービス業ではないため、好きな時間から始めて好きな時間に終われます。

 唯一「締切しめきりを守ること」「最低限のクオリティを保つこと」が満たされればいいのです。

 締切は、これは作家以前に社会人として当たり前ですね。納期を守るのは、仕事の鉄則です。だいたい、一本のラノベを書くのに三週間から一ヶ月程が与えられます。この間に、執筆、推敲すいこう、見直しと修正等を行って、初稿が完成という訳ですね。因みにあの有名な西尾維新先生は、一本のラノベを二週間で完成させるそうです。凄いですね。最低限のクオリティ、、誤字脱字のチェックなどは終わらせておくのが普通です。

 ……まあ、それでも修正漏れが割りと出たりするんですが。あと、どうしても自分で書いた文章を自分で完璧に仕上げるには、限界があります。が、編集部に読んでもらうためにも、最低限の見直しをかけるということです。


 あ、さて……ラノベ作家もそうですが、クリエイターに限らず誰でも、時にはメンタルが不調で仕事がはかどらない場合があります。世の中、楽な仕事はありません……どうしても気が乗らない、アンラッキーが重なって気が滅入めいる。そういう日もあって、勿論ラノベ作家も一緒です。こんな時、他の業種と違ってスケジュールに融通が利くのが、この仕事のいいところですね。

 因みに自分は、毎日月曜日から金曜日まで、8時~17時前後まで仕事をします。お昼休みは12時~14時、少し長めですね。他の作家さんも基本、仕事の時間を決めて取り組んでいるようです。なにせ、作家の部屋には誘惑がいっぱいです……まず、仕事に向かうパソコンからして、遊ぼうと思えば延々遊べてしまう代物です。


 では、今日は「ちょっと不調で仕事がはかどらない時」の過ごし方を語りたいと思います。難しく考えないでほしいし、メンタルの弱い俺って私って駄目だな、なんて思わないでくださいね。長物守ナガモノマモルもよく調子を崩して、執筆が止まる日があったりしますから。みんな同じなんです。

 そんな時、とても便利なのが「ルーティーン」と呼ばれる方法です。

 有名なプロゴルファー、タイガー・ウッズ選手のルーティーンが有名ですね。ウッズ選手は大きなミスをすると、まず大げさに泣いたりわめいたりしてなげきます。その後、突然本調子に戻る……ミスで大きく成績を崩さず、常に一定のメンタルを保つ。これを可能にしているのが、アスリートの方々も最近重要視している、ルーティーンです。

 自分流ですが、ルーティーンはとても簡単なことで、以下の手順となります。


1.時間を決めて感情を発散。

2.自分が好きなこと、自分が安らげるもので時間を過ごす。

3.落ち着いたところで「よし、元気出たぞ!」と大きな声に出してみる。

4.一番簡単な仕事から再開する。


 やり方は様々ですが、ルーティーンは一種の自己暗示でもあります。自分を少し甘やかして、上手に上向きに戻していくための作業。落ち込んでもいいし、ヘコんでもいい……でも、プロの仕事というのはなんでもそのままではいけません。なるべく短時間で、後腐れなく立ち直ることもまた、仕事の範疇はんちゅうなのです。

 では、長物守が普段やってるルーティーンを御紹介しますね。


1.時間を決めて感情を発散。

 まず、不快感や怒り、悲しみ、憎しみ、そして愛しさと切なさと心強さと。まあ、なんでもいいんです……作業効率を下げたり、自身に悪影響がある感情を吐き出しましょう。溜め込むよりもこまめに発散したほうが、絶対にいいと思います。

 ただし、

 負の感情を吐き出す時は、キッチリと線を引くといいでしょう。

 実は人間は、あまり負の感情を出し過ぎていると、それに酔ってひたってしまうことが少なくありません。なので、一定時間で発散し、その後は絶対に考えない。キッチリ切り捨ててケリをつけるための時間になります。

 長物守の場合ですと、寝ます。仮眠を取ります、もうなにもしたくないのでベッドで丸くなります。その間ずっと「俺はなんて駄目なんだ」とか「どうせ俺なんか……」とか「もう、ゴールしてもいいよね……?」とか、ネガティブ全開で横になってます。で、大概はそのままべそべそしながら寝ちゃうので、目覚まし時計で起きたらもうネガティブな発散は終了という感じ。

 どんな形でもいいんです、カラオケとかもオススメですし、極端な量でなければ自棄食やけぐいもいいですね。なにをやってもいいので、今のイライラや倦怠感けんたいかん、そうしたものに負けそうな自分を発散したり、反芻はんすうしてどんよりしたり、泣いたりしてください。


2.自分が好きなこと、自分が安らげるもので時間を過ごす。

 気持ちに区切りをつけたあとは、回復作業に入ります。ここでは、趣味や娯楽等、好きなことをして気持ちを落ち着かせましょう。ちょっとした現実逃避でもありますが、楽しくてウキウキするような、面白くて笑っちゃうようなことなんかがいいと思います。ゲームもいいし、映画やビデオなんかもオススメですね。ただし、あまりネガティブな作品を見てしまうと、逆効果かもしれません。お笑い芸人のDVDなんかで、なにも考えずに爆笑とかもいいかな?

 ものによっては、ゲームはちょっと……ってのは、あるかもしれません。ここは、ちょっと難しいです。ゲームに向く人と、逆効果の人がいるんですね。ゲーム自体の内容にもよりますし。

 気分転換にゲームをして、いい得点や勝率を叩き出せば、とても効果的です。反面、人と対戦して負けたり、予想外のプレイ内容になったりすると、また落ち込み兼ねません。やり慣れたゲームで俺TUEEEEEツエエエエエッ!! みたいなのが、いい気がしますね。逆に、対戦ゲーム、それも人間とのガチ対戦はオススメできない気もします。

 長物守の場合、ちょっとキモくてですね……ジブリアニメが好きなんですが、名作「魔女の宅急便」を見ます。もう何度見たことが。でも、また見るんです。布団でふて寝したあとは、魔女宅を見る。そして、中盤から終盤への大きな山場、キキがウルスラの家に遊びにいくシーンを見ます。あ、ウルスラってのは絵描きさんの女の子です。因みにどうでもいい話ですが、キキとウルスラは同じ声優さん、高山みなみさんが演じてます。つまり、二人きりで過ごす夜のシーンなどは、全部一人芝居なんですね。

 魔女宅では、キキが中盤スランプにおちいり、飛べなくなってしまいます。発達する科学技術と、消え行く魔法の力……みたいな、さまざまなことを暗示してる演出、とても素晴らしいですよね。この時、キキに自分は感情移入してる訳です。そして、二人の「魔女は血で飛ぶ、魔女の血、絵描きの血……そういうものがある」という話を心に刻みます。俺にもラノベ作家の血があるんだ! と、自分に暗示をかけて、最後まで見てホッコリするんですね。


3.落ち着いたところで「よし、元気出たぞ!」と大きな声に出してみる。

 恥ずかしくないよう、誰もいないところでやるのがいいかな? 声に出してみるの、結構ききますので試してみてください。台詞はなんでもいいんです、大事なのは「声に出す」ということなので。キメ台詞を考えておいて、最後にそれでシメます……不調に苦しんでいた自分と、はっきり決別したぞ! と、自分に言い聞かせましょう。

 因みに、人に見られると滅茶苦茶めちゃくちゃ恥ずかしいので気をつけましょう(笑)

 自分は一度、居間で魔女宅を見てて、最後に「っしゃあ、キキたん最高ぉ! ありがとう! そして、ありがとう!」とソファから立ち上がって……背後に視線を感じたことがあります。帰省中きせいちゅうだった妹の、冷たく凍った視線がそこにはありました。いたたまれないので、あまり人目につかない場所でやるほうがいいですね。


4.一番簡単な仕事から再開する。

 さあ、復活しての仕事再開です。この時、すぐに重要度の高い仕事から始めるのはオススメしません。むしろ、仕事じゃなくてもいいので、イージーなもの、楽勝なことを片付けましょう。先日の成功体験の話とも重複しますが、やはり達成感や現実的な成功、勝利は心をうるおします。

 仕事を再開するにあたって、まずは湯を沸かしてお茶をいれるぞ! とか。

 ちょっとコンビニまで歩こう、飲み物とおやつを買うかな! とか。

 軽い家事を手伝ったりするのもいいですね。

 とにかく、失敗しにくいなにかを片付けてみると、自分としてはいい気がします。こうしてはずみを付けて、本業へと戻るんですね。あくまでこれらは自分のケースでして、皆様にはそれぞれに、もっといいルーティーン、ルーティーンに頼らず自分を律する手法があるかもしれません。とにかく、不調を脱することができればなんでもいいんです。

 スランプも一緒です。

 スランプに陥った時、真面目な作家さんほど泥沼に落ちてしまうことが多々あります。なかなか進まぬ執筆作業の重圧で、意固地になって作品と向き合おうとする……そうして苦悩の中から光を見出す方も、確かにいます。でも、もっと楽な方法で同じ効果が得られるなら、それ以上の効果が得られるなら、それにこしたことはないかなと。


 意外と当たり前なことなんですが、作家は自由業故、自分で自分を上手にコントロールできなければいけません。サラリーマン等の他の業種と違って、調子が悪い時は簡単に休めます。その分、調子がいい時は周りが遊んでても働けばいいんです。因みに、編集部は週休二日制で土日が休みですが、緊急性の高い連絡等には対応してくれます。逆に、打ち合わせなどは土日に行われることはまれですね。編集部の方々も、ちゃんと休まないといけませんから。

 自由業なので、仕事とプライベートは自由に切り分けてもいい。

 作家業はプライベートの全てが、仕事の創作にとって無駄にならないものばかりです。ふと手に取った本や新聞紙にも、遊びに出歩いた先で目に止まった光景や風景も……なにがどこで役立つかわかりません。

 反面、不調を感じた時は、速やかに立て直さなければいけません。

 物理的な体調は勿論、なんかテンションあがらないとか、書いてててツマンネって思えてきた、とか。あと、説明不能だけどやる気がでない、とか。そういう状態の時「それでも働け、会社や店には行け」というのは、作家にはありません。全て自己責任で、迅速に回復しなければならず、それ自体も業務の一つと言えるでしょう。

 それに、やはり書いてる時はテンション高く、前向きにハスハスしてた方が楽しいですしね。皆様も趣味や仕事に限らず、創作に行き詰まったら試してみてください。


★今回のポイント

・凹んでもいい、人間だもの……スランプ等、誰でもあるので無問題。

・自分の中での「不調からの立て直し」の必勝パターンを作ってみよう!

・スケジュール管理も作家の仕事、不調な気分にあまり浸り過ぎないように。

・他には「普段全くやらないこと」への挑戦も、有効だと言われていますね。

・なにはともあれ、魔女宅サイッコー!

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