第6話・リテラシー&プライバシー
さて、今回はデビュー時の意外な話をご紹介。
新人賞を頂き、プロ作家として船出する準備を整えていた
皆様の中で、
貴方が独り言と思っている
そんな中で、誰もが抱えるリスク……そう、アレです、アレ。
――炎上。
ネット社会に関わる者たちは皆、等しく炎上と隣り合わせの生活をしています。自分だけは大丈夫、と思っていても、なにが炎上の発端となるかわかりません。今回はそんな中で、プロの作家としてのリテラシー、そしてプライバシーに関して語りたいと思います。
皆様、好きな作家さんや漫画家さん、アニメーターさんや声優さんをフォローしていませんか? 自分も尊敬する方、大好きな方をフォローさせて頂いてます。そうした方々が呟くTweet……時々、「おや?」と思いませんか? 実は、こうしたプロの表現者、創作家には共通の法則があります。
食事や行楽の、写真付きの楽しげなTweet。
自分が関わった仕事の宣伝Tweet。
同業者同士の交流を持ったという、報告Tweet。
そうです、こうしたプロの方たちは、概ね「絶対にポジティブなTweet」しかしないという現実。以前触れた、卑屈の精神をしっかり隠して、ファンの前では笑顔! 笑顔! という気概があります。
そしてそれは、ラノベ作家もまた同じだったりします。
しかも、アレなんです……すっげー、めんどい話だったりするんです。
デビューが決まった直後、自分は編集部からとあるメールを頂戴しました。編集部曰く「先輩作家さんからの忠告というか、アドバイスがあったよ。長物さん……ブログの記事を全部削除してください」とのこと。
一瞬、目が点になりました。
人は本当に
どういうことかというと、事情はこうです。
現在も細々と更新してますが、自分のブログが存在します。そこでは今、作ったガンプラの写真を載せたり、ゲームを楽しく遊んだ話などが
少し自分に酔った、
批評家気取りのラノベ感想文。
政治や国際情勢への良識者じみた駄文。
……まあ、一般の方のブログならば、別になんてことない話です。しかし、これからプロの作家になるという人間としては、アウトでした。自分の作品を手に取ってくれた方が、自分のブログを見て失望する。のみならず、レーベルに名を連ねる作家が炎上してしまう。そういう危険性をはらんでいたんですね。
消しました、消しましたとも。
そして、今になって思い返すと……確かにヤバイ。
仮にもデビューしたての新人プロが、堂々と大先生の作品を語り、ダメ出しして、こんなこと書いてる俺カコイイ! とまあ、ちょっと恥ずかしくなるような内容でしたから。編集部と先輩作家先生の判断は、今というネット社会のリテラシーに沿った妥当なものだったんですね。
そんな中、事件が起こります。
長物守、あわや炎上という大事件を起こしてしまいました。
それは、劇場版の魔法少女まどか☆マギカ、その前編が公開された時期に起こりました。あ、残念ながらまどマギは本筋とは関係ないです。ただ、映画まで少し時間があったため、長物守は一人気楽に喫茶店でチョコレートパフェなど食べておりました。
編集部からの電話で、一気に青ざめます。
会計もそこそこに、マッハで家へと帰りました。
編集部からの電話の内容、それは――
「長物守さん、すぐにブログの最新の記事を削除してください。炎上の危険があります!」
さあ、いったいなにをやらかしたのでしょうか?
その数日前、創作仲間だった方が一つの成功を納めました。馴染みのない方もいるかと思いますが、大御所の大先生になるとラノベ作家でも、アシスタントを複数人雇うことがあります。目的は二つ、後進の育成と執筆作業の最適化です。大御所先生ともなれば、弟子とも言える存在を複数招き、仕事の合間に作品を指導、時には仕事を手伝わせてみるんですね。プロットを渡し「お前、ちょっと挑戦してみろよ」と書かせ、完成作品を二人で「いいね、でも実際はこうした方がもっといいぞ」と指導する。そういう方も業界には何人かいらっしゃいます。
自分の知り合いが、そうしてアシスタントをしながら、本を世に出しました。
とてもよく頑張った、素晴らしい。
大御所先生も、とても素敵だ。
因みに大御所先生は、そうですね……とてもメジャーな古株の有名作家さんです。ラノベ作家をロボットアニメに例えると、ガンダムです。俺がジュアッグなら、大御所先生はRX-78ガンダムですね。そういう有名な方の元で、知人が一定の成果を出したのです。
当然だと思って、ブログでそのことを
「大御所先生のアシスタントで頑張ってた知人が出版に関わりました、みんな買ってね!」
さあ、どこがいけなかったのでしょう?
どこに炎上の危険性がひそんでいるのでしょうか?
ちょっと考えてみてください……なにげないこの内容が、危険な不発弾です。
答えは……大御所先生がアシスタントを起用していること、これです。大御所先生は秘密にしてはいませんが、
ですが、一度ネットの海に放たれた情報は、受け手の数だけ解釈が生まれます。
ネットは広大だわ……
自分のブログを見た一部の人間が「大御所先生、若手使って楽した上に、若手の作品パクってんじゃんwwwww」と思われる危険性がありました。そして実際、大御所先生はアシスタントの親御さんからそうしたことを言われたことがあるそうです。なかなか理解されにくいんですよね、ラノベ作家のアシスタント。漫画家のアシスタントと違って、トーン貼りやベタ塗り、モンハンのオトモといった具体的な仕事がないですから。
あ、最後のは違うか。
さて、光の速さで歩いて帰り、早速記事を削除しました。
どうにか炎上を免れたのですが、その後も何度か編集部とネットリテラシーについて語る機会がありました。そんな中で、徐々に「新人作家のネット環境」が見えてきます。実は、とある先輩作家先生(アシスタント事件の炎上を防いでくれた方です)は、定期的に新人作家さんのTweetやブログをチェックしてるそうです。見張っている、監視してるという訳ではないです……解釈にもよりますが。
プロになりたての後輩に気を配ってたんですね。
で、自分の炎上は先輩作家先生によって未然に防がれました。
プロの作家とは、ただの「長物守」ではないのです。
社会から見て「ラノベ作家の長物守」なのです。
読者や顧客、同業者から見て「あのレーベルの長物守」なんですね。
看板を背負うんです。
自分たち一人一人が、レーベルの看板、ラノベ業界の看板、小説家の看板……出版という仕事の看板を背負う。
なにか炎上があって困るのは、長物守個人だけではないのです。
そういう訳で、ブログ等の公共の場で「ネガティブな話」とか「自作の宣伝以外の業界話」は危ないという話になりました。因みにこちらのカクヨムでの本作も、グレーゾーンと言えばグレーゾーンでしょう。自分なりに関係者の不利益にならぬよう配慮し、作家志望の方にどうしても伝えたいアレコレを、面白おかしく書かせて頂いてますが。
では、ネット上での「ポジティブな話」は……いいと思いますよね?
これが難しい、ここからが驚きの新事実です。自分だけかもしれませんが、こんな話を編集部からされました。実は「ポジティブな話も、ものによってはアウト」だそうです。……え? って思われるかもしれません。でも、アウトなんです。ここが面倒くさいというか、実に複雑な人間心理の作用する領域でして。
まず、ネガティブな話は駄目、なにかを
正当な批判批評であっても、公の場では語ってはならない。
……たとえ絶賛であっても、ラノベや書籍を褒め過ぎてはいけない。
どういうカラクリかと申しますと「世の中には『長物守テメー、◯◯先生のラノベは絶賛してたのに俺の作品は褒めないのかよ!』と怒る方が
そして、これは多くのクリエイターにとって共通の舞台裏です。
時には、過激な創作論や健全な批判批評を声高に叫ぶ方もいらっしゃいます。
ですが、多くの方はそれを胸の内にしまいます。
仲間との飲み会等、ごく限られた場所でだけ解き放つのです。
だから、作家さんや漫画家さん、アニメーターさんや声優さんのTweetは限られるのです。飯が
Twitterは既に、SNS特有の閉鎖性、排他性を脱ぎ捨てました。
Twitterが「バカ発見器」と呼ばれるのは、こういう訳です。
送信ボタンを押す前に、確認しましょう。
読み直して「これを世界中の人に伝えていいのか?」と問いましょう。
これを読んだ人がどう思うかな? という風に、数秒だけ黙考しましょう。
Tweet、呟きは既に「呟き」ではありません……世界への「絶叫」なのです。
重苦しい、堅苦しいと思うかもしれません。大御所先生、大先生になれば割りとフリーダムになんでも発言できます。しかし、新人作家にはまだその力も資格もないんです。カクヨムで創作活動をし、無数の創作物に触れる皆様も、気をつけてください。なにげなく「カクヨムで読んだこれ、クソだわ」とか「カクヨムのアレ、駄目だねー」とか……そういう呟きは、それを読んだ人間の中に「安易にクソだ駄目だ言う人なんだなー、こいつ」というイメージを植え付けます。因みに自分も、創作物アレコレに対して影ではすっごく多彩なお言葉を呟かれてまして……次回、創作物に対する批判批評の回で取り上げたいと思います(笑)
★今回のポイント
・業界人であればあるほど、その業界に関わる発言は慎重に
・ネットではポジティブに、飯が美味え! 遊ぶと楽しい! おっぱい! 位で。
・常に「一部の人は悪くとらえるんだよなあ」と思って、自衛の精神を。
・Tweetは「呟き」にあらず、全世界に向けた「絶叫」である。
・そういうことに気をつける限り、ネットは有用な世界なので是非活用を!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます