第4話・創作家の最大のタブー

 今回は、プロフェッショナルにしろアマチュアにしろ、創作家としての禁忌きんきに触れます。ああ、でも身構えないでください。全くなんでもない、ようするに当たり前のことというか……むしろ当たり前過ぎて「うっせーわ、ヴォケェ!」ってレベルの話です。どうかお怒りごもっともなれども、おつきあい頂ければ幸いです。


 創作家、いわゆるクリエイターにとってもっとも忌避きひすべきもの……それを今回だけ、語りたいと思います。それは、なんでしょうか? SNSが行き渡った昨今、炎上の発端となる不用意な発言でしょうか? 連載中、あるいは進行中の作品に対してのネタバレでしょうか? 編集部批判、出版社批判、その他アレコレ……しかし、常識の範疇で考えられることに関して、多くの人たちは心得があります。それを気をつけたい、公共の利益として守りたいからこそ、常識は「常識」として守られているのです。

 では、クリエイターが己にいましめなければならぬ、最大の敵の一つはなんでしょう? そのことに対して、語りたいと思います。


 作家を目指す人間、創作をする人間にとって、それを受け取る顧客、読者という存在は絶対のものがあります。だとか、そういう理論が通じぬレベルで、創作家は受け取り手、消費者の声を絶対に無視できないものです。

 駄目だった、クソだった。

 あかんわ、ダメダメだわ。

 まるでダメ、方法論からしてあかんレベルでそもそも……以下略。

 とにかく、おおやけの場に作品を晒すこと、己の作品を金銭で買ってもらう立場としては、批判や批評を免れません。今回はその話なんですが、批判批評の程度問題、正当性に関しては次回、また別の機会に譲ることにします。


 今回話題にしたいのは、作品を商業ベースで公開し、商品として出した時の話。趣味として、不特定多数の目に触れる状況を作っても同じです。

 想像してみてください、貴方の作品が製品として本屋に並びました!

 WEBで多くのネットサーファーの目に触れ、読まれました!


 まず、創作家にとって最も忌避すべき状態、回避しなければいけない状態……そうわかっていても、知らず知らずにおぼれてしまう魔の領域が存在します。それは、人が持つ不変の弱さ、誰もが持っている心の弱さで、卑下ひげするに値しない「どうってことない話」です。しかし、それを放置してはおけぬ故に、話題に取り上げました。


 ――


 皆様、知らず知らずのうちに、自分を過小評価して卑下する、卑屈の精神におちいっていませんか? そうでないのなら結構ですが、「俺は全然卑屈になったりしないぜ!」って方も、できれば耳を傾けて欲しいです。創作家が陥りやすい、最もイージーなトラップ……卑屈。これは、多くの創作家にとってプラスとなる要素、プラスをもたらしてくれる人心を引き剥がします。そして、本当に危険なのは……卑屈でいることが心地よく、楽で、とても安心感があることです。


 日本の文化には「謙遜けんそん」というものがあって、つつましい遠慮の気持ちが存在します。褒められる程に「それほどでもないですよ」とへりくだってみせる、そういう文化が存在し、それは有用なものです。様式美と申しますか、一種相手と自分で「お約束」が通じ合う中に成立する、儀礼的な挨拶、取り交わす礼儀のようなものです。


 ですが、卑屈は違います。


 卑屈というのは、ようするに全否定……自分で自分の全てと、自分に寄せられる評価や好意を否定する行為です。ようするに、「凄いね!}って言われて「いや、それほどでも」と言えば謙遜ですが、「全然です、だって自分はクソでカスな存在で、誰それはもっと凄いですから」というのが卑屈です。卑屈は一目でわかります。そして、正当な評価をしたくて接触した人間にも、その卑屈な不快感が伝わるのです。だから、絶対にいけないのです……卑屈の最も恐ろしいことは、、自分の支援者、愛好家、好意的に接してくれる人間を遠ざけ殺してしまうことなのです。


 もし、貴方がなんらかの形で作品を世に出し、公の場で評価を受ける立場になったと思ってください。それは、多くの人間が望んでも得られがたい、非常に崇高な、一種希少な立場と言えます。大勢の人間が「公の場で作品を大勢に見て欲しい、評価されたい」と思っています……その中で、貴方が、貴方だけがそういう立場を得られたとします。そういう時、自信を持てとは言いません。まして、それを目指す段階、こころざしなかばの状態に自信を持てるはずもなく、普段から創作家は(超人的なメンタルを持たない限り)自信を持てないものです。しかし、ひとたび立場として評価を得たら、卑屈になってはいけません。相応の評価を得て尚も卑屈になれば、自分が駄目であると同時に、自分になりたかった人間、自分と同じ立場を目指した人間をも否定することになるのです。

 栄誉や栄光、成功をゲットした人間は看板を背負うことになります。

 決して卑屈になってはいけません……卑屈に思えて、自分を卑下したいならば、その時は相手を選ぶべきです。そのために、編集部の担当者さんがいますし、友人知人、恋人も貴方を迎えてくれます。オフィシャルな大衆の前では、弱さに負けてはいけません。


 そして、ここから大事ですが……成功を納めて立場を得てなくても、卑屈というものを自分はオススメしません。何故か? それは単純です。第一に、自身への正当な評価をゆがめてしまうこと。第二に、正当な評価で支援してくれる人の、その全てを否定してしまうことです。

 仮に、貴方が作品を発表し、どういった形であれ他者の目に触れたとします。

 賛否両論であり、それ以前に反応がないことが普通かと思われます。

 好きの反対は嫌いではなく、無視、無関心です。

 それでも、そういう前提の中でリアクションがあったとします。

 貴方の作品を「ここがいい」と言う人がいました。

 貴方の作品に対し「これって、どうなの?」と言う人がいました。

 そういう理屈抜きに「うはwwww最高かよwwwww超萌えwwwww!」って。

 リアクションは様々で、長らく創作活動をしてきた自分でも予想できないものが多数あります。しかし、それは全て「貴重な時間を使って作品に触れてくれた人の言葉」なのです。クソだゴミだという言葉よりも、意外と好意的な言葉が多い気がしませんか。

 そういった反応に対して、卑屈になることをやめましょう。

 謙遜というレベルではなく、素直に「ありがとうございます」と言いましょう。

 創作家は、創作し、世に出し、評価を受け止めるまでが仕事です。

 決して金銭にはならぬことであっても、作品を公表する以上、そこまでがつとめです。

 褒められたら、素直に喜び、嬉しいですとつたえましょう。

 けなされたら、これは難しいです。

 でも、難しいなりに、貶された箇所に対して自分が表現したかったこと、意図した内容を伝え、謝意を持って語らいましょう。礼をもって遇し、節度をわきまえて「こういう意味で書いたけど伝わりませんでしたね、ごめんなさい。でも、伝わらなかった未熟がわかりましたお!」と、丁寧に返しましょう。非礼な相手にこそ、礼を尽くすのが有効です。

 本当に好きじゃない人間は、そもそもリアクションを返しません。

 そんな中、好きだ! とか、良かったよ! と言ってくれる人がいます。

 そういう反応に対して、卑屈な態度ではいけません。自分に対して卑屈でいることは、楽です。どうせ俺なんか、と言ってれば、全てに対して言い訳が立ちます。でも、貴方が思って理解している以上の価値観、その埒外らちがいにある評価があるんです。そういう外からの「好きです」や「良かったですお!」に対して、疑いを持たぬことをオススメします。これから先に語る、成功体験という概念にも触れる重要な話です。褒められたら「いや、俺なんて所詮」と言わず「ありがとう! 自信なかったけど褒められて嬉しいです!}って言えばいいんです。難しいとは思います、でもそれを強く推奨します。


 実は、新人賞を得てデビューするまで、長物守ナガモノマモルは卑屈な劣等感の塊、生きてるゴミ、人間のクズだと言い張ってました。そう自分を定義することで、楽になっていたんですね。個人的に、自分が楽な状態を作り出し、維持することに嫌悪感を感じません。人間は自分が楽をするため、いい状態を維持するために働くものです。

 ですが、卑屈はいけません。

 自分を必要以上に卑下して見下すことは、自分が楽になることと引き換えに……。世の中、「お前なに卑屈んなっとんじゃワレェ! 死ねェ、ジーグブリーカァァァァァ!」って言う人はいません。卑屈をぶつけても、反抗する人間はいないのです。しかし、卑屈をぶつけられた人間は確実に不快になる、でも反論できない、だから嫌になる……悪いことです。卑屈という精神は、自分を楽にする反面、他者を不快にする要素なんです。いい気分じゃないです、絶対にイライラします。だから、人が言うことに対して素直になり、時に「ありがと、うはwwwwうれしすwwwww」で喜んで、時に「マジか……欠点指摘ありあとん、サンクスwwww」って話でいいんです。難しいです、はっきりいって世の中で「他者を信じる」という行為が一番難しいです。ただ、人を信じて損をするという事例は少なく、ようするに「信じたぶんだけ得する、信じ損はめったにねえよオラァ! おっぱい!」というのが現状です。

 卑屈、やめませんか?

 貴方、自分で思うほど無価値じゃないどころか、宝玉の原石ですよ。

 ルビーなのかサファイヤなのか、それともトパーズか……それは知りません。

 ただ、輝きを感じた人を否定する、そのことだけつつしみませんか?

 やっべ、おめーが宝石を感じたって言うから磨いてみるわwwww

 そういう図々しさ、ふてぶてしさがあった方が幸せです。それが持てない方は、信じてください……貴方が卑屈に沈み続けても、応援し続ける自分のような存在を。かつて卑屈の極みで不快感の塊だった、この長物守が評価して応援し、支えていることを。


★今回のポイント

・悪く言われたら、適度に流して話半分に聞きつつ、自分で取捨択一を!

・良く言われたら、予期せぬ高評価でも全肯定で感謝したほうがいいっぽい!

・とにかく、自分なんかというのは厳禁……自分否定は下のクラスタを殺す。

・自分の下にも努力してる人間がいて、自分がその上を走ってる自覚、大事。

・無理に過信しろとは言わない、ただ素直に感謝と謙虚を適度に出しまくれ!

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