第2話・お金の話

 まず、皆さんが一番気になってることの一つを、取り上げます。

 ラノベ作家はもうかるのか?

 どういった収入があるのか?

 売れない三流作家の所得はどれくらいか?

 全て自分の真実ですが、公表します。もし皆様の中に「ラノベ作家としてビッグになって、大金持ちになってやる!」という方がいたら、正直それはオススメできないとまず申し上げておきましょう。ラノベ作家は「目的」と「手段」が同一線上に存在する、クリエイターと呼ばれる職業の一種です。

 では、長物守ナガモノマモルの収入について話しましょう。


 まず、新人賞を頂いた時に賞金が出ました。奨励賞しょうれいしょうという賞で、かなりまとまった金額を頂いた記憶があります。これが10万円前後……大賞や優秀賞は、これより大きな金額になります。また、賞によっては100万円をポンと出す新人賞もあるようです。

 プロの作家を目指す人にとっては、まず賞を取ってデビューすることが目的なので、この賞金は余録よろくと思う方もいらっしゃるかと思います。ですが、多くの作家にとってこのお金が「初めて自分の筆で稼いだお金」ということになります。その使い道は様々かと思われますが、自分は確か大半を同居してる両親に納めた気がします。少し贅沢ぜいたくな外食をしたかな? という程度でしたね。


 次に、新人賞を受賞した作品がデビュー作として出版されます。どこのレーベルでも、デビュー作には結構力を入れてくれて、かなりの数の部数をってくれます。因みに作品の著作権は、。レーベルが全権利を買い上げた上で、発行部数一冊につき幾らとお金を出してくれる。そうです、有名な「印税いんぜい」ですね。

 自分のデビュー作第一巻は、この印税で100万円前後を頂きました。

 ただ、重版じゅうはんとならなかったため、デビュー作の一巻はこれで終りとなります。

 もし売れ行きが好調ならば、第二版が印刷され、その印税が再び手に入ります。

 因みに、重版出来じゅうはんしゅったいとなるかどうかは「」で決まります。実は今の出版業界に「じわじわと口コミで評判になり、長期的に売れる」というスタイルは存在しません。初動の売れ行きで全てが決まります。


 さて、重版出来とならない作品は全て、打ち切りとなります。自分のデビュー作は(恐らくデビュー作故にかと思いますが)二巻を出してみて、その売上も加味した上で打ち切りが決定しました。二巻は一巻の売り上げを考慮し、部数を少なく刷って、それで50万前後の収入となりました。この世には重版とならぬ場合、続刊もなく打ち切りにする編集部もあるようですが……よほどのことがなければ、最終巻は出してもらえるというのが一応のセオリーとなっております。

 ただ、例外はなにごとにもあって、未完のまま打ち切りとなることもありますね。

 自分のデビュー作は、全三巻で打ち切り、最終巻では35万円前後の印税を頂きました。


 では、そんな長物守の年収はいくら位なのでしょうか?

 多くて150万円、少ない時は無収入でした。驚かれるかと思いますが、これが売れないラノベ作家の現実になります。自分は両親と同居してますので、三食や寝床等を支えてもらってます。勿論もちろん、家にもお金を入れるのですが……五年間の作家生活では、何度か「収入の全くない年」もありました。正確には、電子書籍版の売上等が入ってきているのですが、それも微々たるものです。打ち切り作品は売れないから打ち切られるので、それを電子版にしても売れないのは自明の理ですね。


 基本的にどこの編集部も、専業作家せんぎょうさっかになることを推奨すいしょうしていません。その理由がこれです。編集部もベストを尽くしますが、売れることは確約も保証もできないのです。実力や市場の流行はやすたり、そして。あらゆる創作物には「売れる作品」というのは存在しません。ただ「売れた作品」があるだけで、それが100%売れると確信の元に送り出されることはまれです。

 そのため、専業作家は非常にリスクが高い選択となります。

 年収150万円、運が悪ければ無収入という一年を過ごす可能性があります。

 逆に、副業をもつなり、本業と二足のわらじを履く、これはとてもオススメです。生活の安定以上に特別な意味があって、精神衛生上とても好ましいスタイルだと思います。何故なら、まず作家業が不調でも収入が見込めることが一つ。そして、作家業が不調でも「他の仕事でを得ることができる」からです。この成功体験というものは、とても大事なものです。まだ、あまり世間では重要視されてませんが……いずれこの話でも取り上げる予定です。


 武士は食わねど高楊枝たかようじ、なんて言葉もありますが、人間は衣食住がとどこおりなく満ち足りてこそ、初めて創作をする余裕が生まれます。極貧の中で全てを捨てて創作に賭けるというのは、今の作家業界隈では成り立ちがたいです。ペンと原稿用紙だけで作家業が出来た昔と違い、相応のコストを払って投資しなければいけないからです。執筆用のパソコンに各種調べ物のためのネット環境、人によってはプリンター。のみならず、ラノベ作家には「」という仕事があります。

 大変なんです。

 お金、かかるんです。

 投資は大事です。

 自分への投資、そして未来への投資です。

 それを可能にするためにも、収入が少しでも多いスタイルを選ぶべきなんです。


 最後に、こんな話を紹介したいと思います。書家で有名な相田みつを先生は、物凄く貧しい生活をしていました。創作活動に専心する中で、妻と複数の子供を養っていましたが、昔はそれほど作品が売れた訳ではありません。あまつさえ、ようやく売れた作品でも、氏は「ありゃ失敗だ、気に入らん!」と思うや、自費で買い戻してしまうのです。

 相田みつを先生は「書家で生きると決めたからには、絶対に筆でしか稼がん」と誓っていました。しかし、それが物理的に不可能だと理解して……副業を始めます。それが、染め物です。のれんや手ぬぐいを染め、自分の書を記したものを売ったのです。恐らく、氏にとってギリギリの選択だったと思いますし、その副業をこなしてさえも貧しかったと聞きます。ですが、結果的に相田みつを先生は一家で生き延び、売れっ子になりました。

 俺は専業でいくんだ! という方は、計画的に専業へステップアップしてください。

 大ヒット作が一つ生み出せれば、それが実績となって専業でも楽ができます。

 大ヒット作を生むにはやはり、衣食住とお小遣いが満ち足りてなければいけません。

 作家業に関係のある副業もいいですね……書店店員、編集部アルバイト、etc.etc.……


★今回のポイント

・プロ作家はハイリスクハイリターン、常にリスクヘッジを考えよう。

・衣食住と趣味が最低限充実し、仕事にも投資できる財政状況を維持しよう。

・最悪無収入になってもしょうがない、そういう覚悟も少しだけ準備しよう。

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