第5話

秦中から帰ってきたら家の中が食べ物で溢れかえっていた。「美味しそうー。」パチッと何かが反応した。「お控えなさいませ。」「何でよ、お腹すいてんだよ。」「先に赤ん坊の世話です。」分かってますよ。ハイハイ、見てきます。部屋に入ったら布団がモソモソしていた。「お、起きてるな。どっちかな〜?ハトリか、お目々に涙ためて間一髪〜。井守がにらんでは怖いからね。」ペロンと前をはだけてお乳を飲ませ、ゲップもして、オムツも替えた。完璧さ。ハトリはすぐトロンとした目を閉じて寝た。

台所に戻るとそこも食べ物だらけだった。じゃが芋の煮っころがしをつまみ、焼き鳥も2・3本手にした。さっきのパチッてのはもうしない。作りすぎだろ、コレ。伯母さん達も宴会好きだね〜。モグモグと片っ端からつまんで食べ、お腹も膨れた。さーて寝よっと。布団に入ろうとした時、パチッときた。フギャーと泣き声がした。「だいたい井守が一緒に寝かせてくれたらいいのに。」お乳を飲ませながらブツブツ言った。あのパチッとくるヤツ、静電気くらいあるでしょ。地味に痛いのよアレって。直見もすぐに寝た。よかった。寝よ寝よ、どうせ3時間くらいしか寝れんやろ、授乳ってツライ。


「たまちゃん起きて。」…モソモソともぐった。ユサユサ揺すぶられ、布団もはぐられた。「何か事件でもおきたの〜?」「宴よ。」朝っぱらかーー!「後から行くよ、お先にどうぞ。」伯母さんはペシッとお尻を叩き「ダメよ、あの子達を連れて行くの。私ひとりじゃ無理よ。」ポリポリと頭をかきながら「井守の押し車を借りたら?」と提案した。「猫だの犬だの連れてったもの、いっぱいで無理。」…もうアッチに置いてくるか。守り役を選ばないとなー、でも本当にいるのか?守り役。

織尾見てるといらない気がするんだよね。「わかった、行く。」伯母さんは小走りに出て行った。

庭に立つともう穴は開いていた。別に紐がなくてもいいんじゃないのかな、あのモノ達は仕事の時にしか出れないんだし。てかコレって大きな巾着袋なんだけど、ウチの庭くらいしかないのにどれだけ広いの?「あの子達は先に行ったから、後は私達だけよ。」旦那は役場に仕事に行ってるし、双子だって言って信じるってどうなの?やっぱりボンクラなの?そう思い込むようになってるの?巾着袋を見て思った。だとしたらチョット怖いかな、便利だと思うけど。ウチってやっぱり変、今更だけど。神様って見た事ないけどいるんだよね、巾着袋置いてったし管理人にウチの一族がなってるし。そう思ってると伯母さんがサッサと直見を抱いて穴に入った。ハトリは目を覚ましていた。 見えてるのかいないのかわからない目を見て、女の子っておとなしいなと思った。


ゴチャゴチャといろんなモノが広い野原にワサワサいた。ササササっとホコリのようなモノが扇子半分広げて、サカサカと野原を掃き掃き移動して行ったり、白いフンコロガシが小石を運んでいたり、何だか忙しそうだ。大きなでんでん虫?トンがってないか?あの殻。でんでん虫ではないナニかなの?クマ蜂って耳あるんだ。今日はいっぱい虫が飛んでるし、歩いてるからよく観察できる。小さい頃はどうでもよかったから見てても何とも思わなかった。ま、いいや。それよりイッパイいすぎ、整然と種類別で列に並んでいる。日本気質か!「あー足りるかしら、ご馳走。最近多くてまかないきれるか不安だわ。」あんなに作っておいて何言ってんだか。台所にあったのなんてほんの少しなんでしょうに。テクテク歩いてると大きな茅葺き屋根の家に着いた。玄関の土間から上がって廊下に出るとスパーンと真ん中の部屋の障子が開いた。それが合図のように他の障子や襖、ガラス戸になっている所も勝手に開いた。スーッと雨戸が袋戸に仕舞われ、フワッと風が家中に吹いた。納戸から子供布団が2組滑り出て、畳の上に並んでペロッと上掛けがめくれた。伯母さんが直見を寝かせたので、その隣にハトリを寝かせた。


「来たわね、さあ始まるよ。」硯に半紙に筆、文鎮、水差しがピュッピュと水を勝手に撒き散らして文鎮に押しつぶされた。墨は自分で立って硯にスリスリしている。足はえてるよ。筆は糸切りばさみによって微調整されてる。地蔵坊がサカサカとはってきた座布団に座り筆を持った。筆に墨液をつけてシュルシュルと名前を一枚づつ書いていった。直見と葉鳥。どこからかドーーーーンと太鼓が鳴った。赤ん坊の額にも小筆で名前を書いた『次代葉鳥!後継織尾!次継直見!これより心を持って使えしモノと絆を交わしこの世界を守れ。』どこのどちらさんだよー!勝手に唱えたなー!ドーーーーンと太鼓が又鳴った。

「宴じゃーーー‼︎」ワサーーーっ!と色んなモノが赤ん坊の周りを囲み代わる代わる覗いて行く。小さな白い布で出来た人形が葉鳥を囲み回りながら踊っている。直見の周りには小さな槍と刀と鍬だの2列になってチャンチャカ踊っていた。そう言えば、織尾の時には鉛筆だの文房具が踊ってた。「織尾…どこにいるのかな。」「矢守と一緒にいるでしょ。」


織尾は目の前にいる爺様と団子を争っていた。「僕のだよ。」「ワシのじゃ。」にらみ合っこになっていた。「若、譲って差し上げてください。」矢守がオロオロビクビクしながら言った。織尾はこの綺麗な団子がどうしても食べたかった。ずーーーっと我慢してたのだ。ウチに置いてあったがおばあ達が許してくれなかった。織尾の周りで文房具連中が見守っている。おでこをピン!と爺様にはじかれた。「イタっ!」文房具連中ものけぞった。みるみる目に涙が溢れてきた。ソレを見た矢守が爺様に噛みついた。「良い度胸だの、矢守。」と爺様が睨んだ。「若に手を上げないでくだされ。」「フン、ちょっとつついただけじゃ。団子はワシのじゃ。」爺様は団子を織尾から掻っさらいサッといなくなった。うわーーん!と織尾は泣き出した。文房具連中が次々と慰めながらヒックヒックと歩く織尾についてきた。茅葺き屋根の大きな家についた時は矢守も心配そうにしていた。「織尾どうしたの?」

おかあの顔を見たらよけい悲しくなった。「お爺に団子取られた。」おかあに言ってるウチによけい涙が出てきた。ヨシヨシとおかあが頭をなでながら「鼻にね、指つっこんでやるのよ。」と教えてくれた。矢守がキロっとした目をギュッとつむって手を鼻に当てた。そっか、今度やってみよ。お爺め、ピン!とした。ビックリした。織尾は意外と執念深かった。

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