第4話

お腹すいた…「ご飯欲しいよー伯母さん。朝ご飯。」台所に入ってすぐ冷蔵庫からトマトジュースを取り出しコップに注いだ。返事無し。…お尻をこっちに向けて伯母さんがゴソゴソしていた。「ねえ、ご飯ちょうだい。」プハッと息ついで伯母さんが振り向いた。「たまちゃん、自分であるもの出して食べてちょうだい。伯母さん忙しいのよ。」イソイソと大きな鍋などを出し、蓋を合わせたりしていた。「デカい鍋ー。何を煮るの。」お茶碗にご飯をよそい、棚から小鉢と大皿を取り出した。伯母さんは呆れた顔して「次代ができたんでしょ、お祝いが始まるのよ。突然だったから何も用意してないでしょう。」モグモグしながら聞いていたけど、お祝いって長男の時と違うのかな。「上の子は男の子だったし、今度もそうだと思ってたからね。」鍋を重ねてヨッコラセと持ち上げて伯母さんは台所を出て行った。

ムグムグご飯を食べながら祝いって長男の時みたいなのでしょ、イ村の爺様は宴じゃーとか叫んでたけど。名前書いてもらって弁当配っておしまい。楽しみは弁当かな。ふふっ。


「ねえ、織尾は?」「え?いないの?さっきまで赤ん坊見てたけど。」長男はどこに行ったやら。まあ矢守が付いてるからいいんだけど。さてと、ふすま障子呼ぼうっと。


パチッと目が開いた。「かわいいね、この子ウチの子?」小さな手を口にしようとするような赤ん坊を見て1人の男の子が言う。「次代様ですよ。」と矢守が答える。

「ジダイってちがうよ。いもうとっていうの。こっちはおとうとっていうんだよ。」矢守は妹と弟が分からなかった。人の呼び方は難しい。妹を撫でている織尾を見てると何やらモヤっとした。


「たまき、この子達の名前ちゃんと考えてつけてよ。」母が真顔で言った。「前もそうしたじゃない。わかってるよ。」名前なんてどうでもいいとは言わないけど、女の子には男の様な名前をつけろって意味わからん。イジメにあったらどうすんだよ。伯母さんの名前なんてヒドイよなー。誰がつけたのかな。「あんたみたいでは困るでしょ。」「どーゆー事よー。」「だって、次代に仕事譲ってもあんた何にも出来ないでしょ。」…そりゃあ家事は無理よ。婆様にお前には二度と任せられんぞよなーんて言われちゃったもんね。「じゃあ稲刈りとか、畑耕す!」…「なんて言うんだっけ?グレーフィンガー?なにもかも枯らすひどい手の人。」スゴイ!母から横文字が!なんて失礼な。サボテン枯れただけだよー。「わかった?」「はーい。」名前で家事能力なんて向上しないと思う。

6時頃旦那が帰ってきた。そろそろご飯だよと呼びに行くと、長男と一緒に遊んでいた。「織君、片付けよう。」織尾は積み木とダンプカーをチマチマと拾ってバケツに入れ、旦那は赤ん坊を見ていた。ほぼ飲んでは寝ての繰り返しの赤ん坊が、最近ちょっと起きて目を開けて起きてる事が増えてきた。今は寝ている。さっき飲んだばかり息子も、そろそろ起きるかなと思われる娘も遊んでいる2人の声では起きないらしい。

「秦中のおじいさん老人ホームに入るって。」「へえ、皆いなくなっておじいさん1人だったもんね。息子と孫も出て行ってサッパリ来ないから。」「売っちゃうって。」旦那がボリボリと沢庵かじって言った。「誰に?」「とりあえず、役場預かりなんだよ。田舎だからね、すぐ売れないでしょ。でももう入所決まってるし、跡取りの孫娘がお願いするって。」「息子どこ行ったっけ?」「どこぞの人と行っちゃって、もうあの家や土地は孫娘の物だって。売って老人ホームの費用にって。」「どこも若い人はいなくなるのね。いいとこなんだけどね。」昔はそれなりに人もいたが年々若い人は都会に出て帰ってはこない。田舎は老人ばかりである。どうやら仕事だ。

「男の子は直見、女の子はどうしようか。」うーんと名付け本を見て旦那がうなった。トタトタ織尾が寄って来た。抱き上げてちゅーしてやった。「おかあ、あの子ハトリね。」長男が言った。長男てばスゴイじゃない。「もうそう呼んだの?」ニコニコとしてコクンと頭を揺らす。「こっちみてた。ここがそういってんの。」と自分の頭に手を当てた。ふーむ。「ハトリね、難しい字はお父さんとお母さんで決めるね。」旦那がズッコケた。「えーーもっと女の子らしい名前にしたかった!」「ダメ。」長男がすぐ言った。なんだかなー、この子チョット幼児期短い気がする…矢守のせいだな。「漢字はこうでいい?」はい、いいですよ旦那様。


真夜中、秦中の家に来て見た。提灯持ってグルっと周りを一周すると、カサカサ、チャカチャカ、コソコソと音がそこかしこで聞こえる。うーん、ゴミ袋にも入ってるか。時間無いねコレは。土地はダメだ、あきらめるか。除草剤撒きすぎだあー。

ジャリジャリと誰かがこちらに向かって歩いて来ようとしている。提灯がついてる限り他の人には見えないけど、隠れるとこもそんなに無い。まごついてるとピタリと歩いて来る音が止まった。チョット提灯をかざすとなんとなく見えたのはここの家の息子。帰ってきたの?うそーん。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る