審判の弾丸(のこり5発)

ちびまるフォイ

ここで一番生き残るべきは・・・

「この町に閉じ込められたみなさん、こんにちは。

 みなさんの手元には6発の弾が入ったリボルバーがあると思います。

 その銃でこの町でいらない人を殺して、人数を減らしてくださいね」


ブツッと通話が切れる音がなったかと思うと、もう一度ぶつっと鳴って声が続いた。


「あ、そうそう言い忘れてました。

 10日後までにさっさと弾数ぶんだけ人間を減らしてくださいね。

 締め切り守らないと怒られるのはこっちなんで」


天からの声はそれ以来何も言ってこなくなった。

俺の手元には一丁のリボルバー銃と装填された弾6発。


「人間を減らすってことは、無駄撃ちはできないよな……」


俺に支給されている6発で人を5人殺す必要がある。

1発でも外せば、残り5発で6人分を殺さなければいけない。

そんなのは現実的に無理だ。外すわけにいかない。



バァン!!!



どこか遠くで銃声がとどろいだ。

それを皮切りに、町は一気に銃声がこだまする激戦地へと変貌した。


銃声が収まるころにはそこらに死体がごろごろ転がっていた。

どれもほとんど銃の弾は残っていない。


「殺し合わせるってのはまったく、数を減らすには有効な手段だな。

 ふふ、だが俺はひとあじ違うぜ」


俺は自分の銃を1度も使わずに隠れられる場所を探した。

今から銃で気にくわない奴を殺しまわるのはバカだ。


「ここがいいかな」


ふと見つけた物置に入った。

ここから絶対に見つからずに何日も過ごせるだろう。


……と思ったら先客がいた。


「あれ? 死んでる?」


死体の先客が物置にいた。

死体は自分の頭をリボルバーで撃ち抜いていた。近くに遺書もある。


 "私は誰かを殺すなんてことはできません。

 そんな辛いことをするくらいなら進んで死を選びます。

 どうか私の死が誰かの救いにならんことを。らーめん"



死体をどかすして物置に隠れることにした。

この自殺者も誰かに見つからないように死にたかったのだろうが、

あいにく同じことを考える人がいたために見つかった。


だが、俺と同じことを考えて世界を牛耳ろうと思ってるやつはいまい。


 ・

 ・

 ・


9日が経過した。


町の銃声はもうすっかり聞こえなくなった。弾を使い切ったんだろう。

あとは10日目に迫る最後の審判に備えるだけだ。


と、誰もが安心していることだろう。


『町のみなさん、僕にとっておきの考えがあります!

 どうか指定の場所に集合してください!!』


いざ作戦決行。

俺は町のスピーカーを使って生き残った人を集めた。


集まったのは10人で、みんな自分の弾は使い切っていた。


「おい、とっておきの考えってなんだよ」

「なにかいいアイデアがあるなら話なさいよ」

「デュフフフ……そ、そ、そうだよ。僕らみんな同じ境遇なんだし」


俺は有象無象の顔をぐるりと眺めた。


「みなさん、審判の日までに弾数だけ殺さなきゃいけないとはわかってますね?」


「当たり前じゃない! そのために今まで殺してきたのよ!」


ここで、最終日まで1発たりとも使っていない俺のリボルバーを取り出した。


「ここにフル装填されたリボルバーがあります。

 明日の審判の日までに珠数を使い切る必要があります。

 なので、いまからこの中で一番いらない人を殺します」


「「「 なっ……! 」」」


丸腰の9人と、銃をもった1人。

この縮図こそが俺の思い描いた最高の状況だ。


「生き残りたい……というか、俺に殺されたくない人は

 "誰にも話してない自分の秘密"を俺だけに教えてください」


「あ? なんでてめぇにそんなこと言わなきゃ……」


「あ、今ので1ポイント減点です」


「はぁ!?」


「一番大きな秘密を教えてくれた人は見逃してあげます。

 ただし、なにか俺に不愉快なことした人間は最終的に殺します」


全員の顔が真っ青になった。

銃を持っているだけで俺に逆らえる人はもう誰もいない。


みんながかわるがわる俺に耳打ちで秘密の暴露をしていった。

性癖、隠れた趣味、抑えられない願望……等。


自分が墓場まで持っていく予定の暴露ネタを命惜しさに話してくれた。

あまりのトントン拍子に思わず笑いが出てしまう。


「みなさん、秘密の暴露をありがとうございました。

 それじゃ、今から俺が個人的に嫌いな人を順番に殺していきます」


「なんでだよ!? 暴露した話の内容で決めるんじゃないのか!?」


「そんなのはウソです。審判の日が終わった後でも俺に逆らえる人がいないように

 個人それぞれの弱みを握るのが最初から狙いだったんですよ」


「このクズめっ――」



バァン!!



口答えした1人を殺した。


「さてと、残りは明日までとっておくか。全部使うと反乱されかねないし」




翌日、天の声が審判の日が来たことを伝えた。


「みなさん、ちゃんと数は減らして……あれれ?

 まだ弾数残ってるじゃないか。全部使い切るまで帰れません」


天の声が終わると、俺による俺のための審判の時間となった。


「よし、殺されたくない奴は俺の靴を舐めてみろ。1ポイントやるぞ」


生存者たちは必死の形相で俺の靴底を取り合う。いい気分だ。

弱みを握っているから神の審判跡も俺の奴隷まちがいなし。


「ど、れ、に、し、よ、う、か、な」


俺は少しでも愛想のよくなかった奴や気にくわない奴を順番に殺した。

これで来るべき俺のための新天下ができあがるというわけだ。


これぞ作戦通り。


すべての弾を使って気にくわない生存者を殺しきった。


「おい、天の声! 俺はすべての弾をちゃんと使ったぞ!

 さぁ、町を元に戻して俺の王国をはじめてくれ!!」


弱みを握ったやつらの王になる俺の天下がはじまる。

やはり最後まで弾を温存してよかった。


こうして、一番気にくわない奴を消す音ができたのだから。


「天よ、すべての弾は使い切った。早く外へ出してくれ。約束だろ」


すると、間もなく天の声が聞こえた。


「あれ? いや、まだこの町に使ってない残弾があるよ。

 それを使い切ったら町を解放してやるよ」




「……え? まだ残ってるの!? そんな馬鹿な!!」


最後まで温存した俺の銃は今しがた使い切った。

これ以上に銃なんて……。


「え」


俺は見てしまった。

死んだと思っていた自殺の男が、残り5発のリボルバーを持ってやってくるのを。



「さっきから聞いてたけど、生存者のなかで一番生きる価値ないのはお前だね」


そして、迷わず銃口を俺に向けた。


「温存していたのは俺だけじゃなか―――



バァン!!!



その銃声が最後に聞いた音だった。

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