第1章 開戦 (大洋統一暦1800年)
第1話 今後について
どうも古賀峯一改めアリシア・ネルソンです。前世での英雄の名を偶然にも冠することができ、誠に嬉しい限りですはい。
………まったく、なんでこんなことになった?
そもそもの発端はあいつだ。山本が戦死なんかするからだ。そのせいで横須賀鎮守府からトラックなんぞに飛ばされてしまった。
出発するときに嶋ハンから嫌味言われるし、航空のことなんざど素人もいいところだし、ホントひどい目にあった。
しかもパラオが丸焼けになるし、それでダバオに逃げようとしたら嵐で飛行機墜落するし!
山本は盛大に国葬されていたけど、俺はどうかな?まぁ嶋ハンあたりが敵前逃亡だなんだって騒いで国賊扱いされそうだけどね。
まぁどうせあと二年…いや一年半くらいで滅ぶ国だ。それの元帥になったってどうしようもない。東京あたりは五回くらい丸焼けになったんじゃない?ついでに嶋ハンも焼けちまえばいいのに。
そんな亡国のことよりいまはこの世界についてだ。
どうやら俺はまたしても近代海軍に入る羽目になったらしい。
あれ?今の俺は女子、それもまだ十五になってないくらいの少女ですよ?え?男女平等?前世日本人の俺にとっては理解しがたいなソレ。
だがまぁ、孤児だった俺には選択権など無いも同然だったしな。
いや今世ね?前世は別に普通に家族いましたよ?……そういえば妻は元き……いや、元気に決まってるな。むしろキレているかもしれん。「長官ともなったのに敵前逃亡とはなんたるざまですか!」ってかんじで。
さすがにお墓くらいは作っておいてくれると嬉しいなぁ……。
また話が脱線したが、とにかく俺はまた海軍、というか海軍兵学校に入った。が、別に自分から行きたいと言ったわけでは無い。
十二年前にとある雪原で雪に埋れていたとき、つまり俺が前世の記憶を取り戻したとき、一体何が起きていたかというと、(今世の)両親共々雪崩に巻き込まれたのだ。
前世を思い出すと同時に今世でのそれまでの記憶が消えてしまったので、いまはもうよくはわからないが、今世の俺は一年のほとんどを雪で覆われた山間の寒村で生まれたらしい。
そして、俺が三歳になったある日、家の近くの山で雪崩が発生。家どころか村ごと雪の波に呑まれ、村は壊滅。
だが俺は奇跡的に助かり、雪にまみれてボロボロになっていたところを、救援に駆けつけた兵士に救われたのだ。
そして、真っ先に俺を見つけだしたのが、その後の俺の育ての親、ヨーゼフ・フォン・ネルソン陸軍少将だった。
すでに予備役入りしているが、かつてはかなり名の知れた軍人であったらしい。
その日はたまたま近くの駐屯地を訪れており、「予備役だろうがなんだろうが困窮した人々を救うのが軍人の真の務め」と言いたいてきたらしい。軍人の鑑だねまったく。
村が壊滅し、俺が天涯孤独なのを見て取った彼は迷うことなく俺を養子にした。
まぁ彼の長年の妻はその頃すでに亡くなっており、彼女との間に子供がいなかった、というのも理由なのだろうが。
それでも野垂れ死寸前だった私を二重にも救ってくれたのは感謝してもしきれない。
……のだが、一つ困ったことが。彼は俺を、『アリシア』と名付け、実子同然に愛し、育ててくれたが、
彼は、私を軍人にしたいらしいのだ。それも、陸軍軍人に。
これは困った。本当に困った。前世で陸軍のことを『馬糞』、『けだもの』といって毛嫌いしてた豊田ほどではないが、俺も陸軍に対してあまり良い感情は持っていない。
……いや、あのとき問題があったのは神国だなんだと散々わけのわからないことを言ってまわっていた中堅将校たちであり、陸軍の兵士たちではない。支那大陸やガダルカナルで文字通り命をかけて戦った彼ら英霊を侮辱することは、俺には出来ない。
だからこそ、俺は余計に
まぁ海軍に全く責任がないわけじゃない。戦争を始めたのは陸軍かも知れないが、対米戦を始めたのは海軍なのだから。
その点が山本の唯一と言っていい汚点だった。井上も言っていたが、あの優柔不断を絵に描いたような近衛公に、「二年までならアメリカと戦えます」なんて言うから、ああじゃあ二年は戦争できるんだな、と勘違いさせたのだ。
その山本自身も、前線を見舞うんだなんだといって乗機を撃ち落とされて戦死してしまったが。
そんな訳で陸軍に入るのはできればご遠慮したい。しかし
どうしろと?!
結局一年近くかけてなんとか説得したが、軍人になることだけはやめられず、海軍兵学校に入学した。
前世の記憶持ちの俺にとって二度目の兵学校である。しかも転生してきたこの世界は、ほぼ前世日本と同じくらいの時代であり、俺にとって簡単な復習に過ぎない。
天才とは程遠いと自覚しているが、それでも前世分のアドバンテージがあるため、俺は気づけば年次首席として一号生になっていた。
卒業後は人事局が適当に任官先を割り振るらしいが、入学以来の親友であるティアーゼ・クヅネーツェフ曰く、首席生徒は中尉任官及び希望する任官先へ行けるらしい。
もちろんどこへでもと言うわけにはいかないが、それでも大抵の希望は通るという。
かくいう彼女自身は俺に次ぐ次席であり、その場合は皆と同じく少尉任官だが希望は出せる。そしてその希望する任官先は?
「海軍情報局」
らしい……。
まぁ山本の搭乗機が撃墜された時やミッドウェーで情報収集の大切さを学んだ身としては、有能な人材が
ただ、それが他の人間もそうか、というと疑問符がつく。なにしろ「神国日本の言葉は極めて難解であり、鬼畜米英人ごときが読めるはずがない」と抜かしてまるで対策を取らなかった馬鹿どもの先例もまた俺はよくしっているからだ。
それはどうやらこちらの世界、というかこの国でも同様らしく、情報局といってもほぼ左遷されていく閑職と化している。
ここらへんで俺が転生したこの国について説明しておこう。
この国の名は『ルシタニア帝国』と言い、元の世界でいうユーラシア大陸とほぼ同じ大きさの大陸、『ユシア大陸』の三分の二を支配している超大国である。元は北方民族の部落の集合体にすぎなかったが、次第に軍事力を強めて拡大。そして二百年ほど前の大洋統一暦1612年に皇帝・軍・平民議会の三つを柱とする軍事大国として君臨するに至った。
現在ではユシア大陸にある他の国家は四つしかなく、うち二つは別の島国家の植民地であり、その他二つも半ばルシタニアの隷属国となっているため、大陸内には敵は皆無である。
………そう、大陸内には。
この世界にはユシア大陸の他にもう一つ、巨大な大陸がある。こちらは元の世界でいうアフリカ大陸ぐらいの大きさで、ユシアとは違い全土を一つの国家が支配している。
その名は、『アメリア連邦』。まだ百年と少ししか歴史を持たない新興国であるが、豊富な資源と人材をフル活用し、現在では我がルシタニア帝国と比肩するほどの大国と化してきている。
そのためルシタニア軍…少なくとも海軍は彼らアメリア連邦を仮想敵国として想定している。……いや、昨年1799年にルシタニアの帝都ペテログラドからアメリアの外交官全てが退去して以降、軍内では公然と『敵国』呼ばわりされつつある。軍令部や海軍省内では、早ければあと数ヶ月足らずでアメリアが参考に踏み切るものと確信しているものもいる程だ。
……なぜ両国がそれほどまでに揉めているかは割愛するが(と言うか俺もよく知らない。兵学校では詳しく教えてくれなかった)、ともかく俺は非常にややこしい時期に士官となるわけだ。
うっへー、お腹痛い。こんなストレスたっぷりなの前世で十分なんですけど……。
幸か不幸か、前世とは違い帝国内に積極的開戦論を展開する馬鹿は少ない。そして、陸軍は開戦に絶対反対なのだ!!
それは兵から士官と、将官に至るまでほぼ統一されており何処ぞの神国(笑)みたいに
……それだけで「なんて素晴らしいの!」となるのは複雑だが。(だってそんなの当たり前だし)
だが我々がどうであれアメリアが戦争をふっかけてくる可能性がなくなったわけではない。むしろその逆。
じゃあどうする?折角自分で(ほぼ)任地を決められる権利を持っているのだ。ここはひとつ戦争が起きてもすぐには死なずに済むよう後方の軍令部とか海軍省の、いわゆる『赤レンガ』として過ごすのはどうか?
だって前世もそうだったし!(前半まで)
が、そう思って担当の教官に会い、自分の希望を言おうとしたその時、
教官の部屋の壁の写真が目に止まった。
「………き、教官殿。それは……?」
すると彼は少し嬉しそうに、そして懐かしそうに微笑しながら教えてくれた。
「ああ、これか?俺の初任地だよ。第四艦隊司令部のある、デューク島さ」
そう言って自身の昔話をはじめる教官殿。だが俺の心は、かつて降り立ったあの地へと飛び立っていた。
サイパン、パラオ、ソロモン海
————そう、前世で俺が逃げた、逃げるしかなかった、あの海へ
「……教官殿」
気づけば俺の口は勝手に動いていた。止めようとも、思わなかったが。
何故なら、その他に行くことこそが、俺の————
「私は、第四艦隊への配属を志願いたします」
————せめてもの罪滅ぼしなのだから
美少女に生まれ変わったので、もう一度提督目指します 空母白龍 @HyoukaiSinano
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