男の子達の戦い①

「おい、クラド! 今日こそ掴まえたぞー」

「うわっと……やぁ、ザック。どうしたんだい?」


 今日も学舎で授業を受けていたクラドは、建物から出たところで学友である男の子に腕を掴まれる。

 今の時間帯は既に放課後で、授業は終わっている。


「どうしたって、森に遊びに行く約束だったろ!?」


 怒ったように言うザックに、クラドはここ最近の記憶を掘り起こす。


 そういえばこのところ父に狩りに連れていかれて大物に遭遇したり、母と買い出しに行ったら広場で一悶着あったりと色々あった。

 その記憶の隙間で、ちょくちょく遊びに誘われていたような気もする。



「あぁー」

「おぉい! あぁーじゃないぜクラド!」


 正に天を仰ぐかのようなオーバーリアクションを見せるザック。

 この活発な黒髪の少年は、ことあるごとにクラドに誘いをかけていたのだが、毎回なにかしら理由を付けては断られていたのだ。別にクラドは意図的に断っていたわけではないのだが、自然とそうなってしまっていた。


 いつの間にか視界の隅の方では、ザックを応援するかのような男の子達が数人と、妬ましい視線を飛ばしてくる女の子達が何人か集まってことの成り行きを見守っている。


 皆、クラドと遊びたいだけなのだが。


「あぁ、悪かったよ。今日は特になにも予定はないからさ、遊びに行こうよ」

「ホ、ホントか! やったぜー!」


 クラドの返事と共に小躍りするザック含む男の子達と、ガックリと肩を落とす女の子達。


 そのことに気づかないクラドを含む男の子達は、こぞって森の方へと向かっていくのだった。




 最近は強さの増してきた初夏を思わせる日差しの下、数人の男の子達がやんちゃに駆け回っている。


 一体なにがそんなに彼らのテンションを上げているのか、取り出したシンブレイドをブンブンと振り回しながら歩く者や、無駄に大きな岩に登ってみたり、木の枝にぶら下がってみたりと、非常に落ち着きのない集団が森の中を進む。

 このくらいの年代の男の子など往々にしてこのようなものだろうが、今日はクラドがいるとあって余計に盛り上がっていた。


「ははっ、やっぱ家にいるより外で遊んだ方が楽しいよなーっ!」


 やんちゃ坊主の代名詞のようなザックが、銅の剣を振り回しながら言う。

 当然、彼らはシンブレイドを持っているが、全員が一番下の位階である銅の剣だ。


 ここにいる男の子達は皆、クラドが通っている学舎の学友である。学舎には村の子供達が通っているが学年などはなく、成人とされる15歳までに最低限の教養を得られればいいといった考えで運営されていた。

 なので何歳から通ってもいいし、教養を得られたと思えば辞めるのも自由である。


 その分幅広い年齢の子供達が通っていたが、田舎の村ではそもそもの人数が少ないため、一つの教室で間に合っていた。



 いつもの森の広場に辿り着いた男の子達は、思い思いの行動にでる。


 かけっこを始める者や、シンブレイドでチャンバラを始める者。クラドの周りには数人集まり雑談が開始されていた。


「なぁ、クラド。お前のシンブレイド見せてくれよ!」

「え? いいけど。解放リリース


 光の粒子が集まると、鈍く光る鉄の剣が手に握られる。


「おーっ、久しぶりに見た!」

「カッコいいなー!」

「この青い宝石綺麗だよな……」


 クラドの取り出した鉄の剣。柄の先端には、陽光を内部に溜め込んだかのようにキラキラと光る青い宝石。


「な、なんだよ。ただの剣だろ?」


 自分の剣を褒められた照れ臭ささから、そう言って剣を遠ざけるクラド。

 それにつられて、首を長くする男の子達。


 生まれた時から一つ上の位階の剣を持ち、付与まで与えられたクラドのシンブレイドは、ただの銅の剣しか持たない村の子供達からしたら憧れの対象だった。


「なぁ、クラド。その宝石の付与ってどんなのなんだ?」

「おー、そういえば聞いたことなかったかも。どーなんだよー?」


 クラドの剣に興味が尽きない男の子達は、静謐な青を湛える柄の宝石を指差して言う。


「あぁ。実はまだ確かめてないというか、効果がわからないんだ」

「へー、そうなんだ。残念」



 稀にシンブレイドには、色とりどりの宝石が携えられることがある。

 それはただの宝飾などではなく、剣になんらかの効果が付与されていることの証明である。宝石は最初から剣に携えられている場合もあるし、位階が上がる際に現れることもあった。


 付与の効果としては、簡単なもので言うと剣に炎を纏うことができたり、風の刃を放出することができるものなど様々ある。

 宝石の色から察するに、クラドの付与は水や氷に関係するものであるのはわかっているのだが、その付与が効果を発揮したことはまだない。


 クラドが未熟なためか、その時が来ていないのか。


 シンブレイドは人と共に成長する剣だ。

 まだ10歳のクラドが悔やむべきことではない。心が成長すれば剣も成長していくだろう。

 人はなにかしらの大きな障害を乗り越えた時、大きく成長できるものだ。


 例えば、命に危険が迫った時などそうであろう……




「ウガァアァァ!」

「ぎ、ぎゃあぁぁ!?」


 クリーチャーの鳴き声が広場に響き渡ると、木々の立ち並ぶ広場の一角から、男の子が悲鳴と共に転がり出て来る。


「ど、どうした?」

「なんだ? 今の雄叫びは……」

「ベア系のクリーチャーっぽかったような」


 広場にいた面々がクラドのいる所に集まってくる。


「ハ、ハニーベアだー!」


 木々の中から転がり出た男の子が、その正体を伝える。


 ハニーベアはベア系の中でも気性は大人しく、主にビー系の作り出すハチミツを主食としたクリーチャーだ。

 余程のことがない限りは人を襲うことはなかった。


「なんで、ハニーベアが?」


 クラドも思わず疑問を口にするが、男の子を追いかけて現れた姿を見て嫌が応にも納得する。


「ガァ、ウギャウアァ……」

「ひぇ!」

「なんだありゃあぁ」


 男の子達が悲鳴をあげる中、クラドだけが歯噛みして言う。


虚空ボイド……」


 それは成人男性くらいの背丈しかないが、胸に穴を穿ったハニーベアだった存在。

 黒い影に覆い尽くされ、鳴き声とも判断のつかない喚きをあげた、異形の怪物がそこにいた。

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シン・ブレイド @nekokotarou3

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