第2話

「…そうだったのですか、それは余計なことをしてしまいました。アクアに酒を返すように言ってもまず聞かないだろうと思い、先に持ち出してからカズマに説教をお願いしようとしたのですが…」

申し訳なさそうに、少し俯いて事情を話すめぐみん。

ワイン買い叩きの話については昨日1日1爆裂の帰り、ゆんゆんの背で耳にし、ワインはアクアと同じく魔力を感知して見つけたのだという。

「いや、いいんだ。めぐみんの言う通り、あいつに正面からどやしたところで易々と返してくれるとは思えないし、俺たちじゃ魔力頼りに探したりはできなかっただろうからな」

やけに大人しいめぐみんに強く言えないのもあり、思ったことを素直に言っただけなのだが。

それを聞いためぐみんは顔を上げてこちらを見つめ、ふふっと小さく微笑んだ。

まるで邪気のない、爆裂命などと到底言い出しそうもない、ひたすらかわいい笑顔。

…どうすればいいんだよ。童貞に美少女のスマイルは効果抜群なんだよ。

「では今日は寒いですし、さっさと神器を取り戻して帰りましょうか。元の酒屋に置いてきたばかりなので、今行けばすぐ買い戻せるでしょう」

「あ、ああ…」

何事もなかったかのようにすたすたと歩き出す女性陣に少しだけ遅れてついていく。

…恋愛上手になるスキルとかないのかなあ。サキュバスのお姉さん方が持ってたりしないだろうか。

今度お世話になるときに聞いてみよう。

「ところでクリスも危ない神器を集める手伝いをしていたのですね。その行いといい銀髪といいまるで例の盗賊団みたいです」

「「「!?」」」

「?どうしたのですか?」

「い、いやぁね?最近銀髪で盗賊職ってだけで疑われたりするからちょっとだけ敏感になっててね!それだけだから!」

「でも手配されてるのは銀髪の少年です。クリスは女性ですからそうビクビクする必要もないと思うのですが」

「う、うん、そうだけどね?そう…なんだけど、ね……」

すっとぼけてカマをかけているとかそんなものではなく、単に思いついたことを言っただけらしい。

というかおいやめろ、同族なんだから無意識にしろ精神的ダメージを与えるのはやめろ。

「だ、だが、侵入時はなるべく邪魔にならないようきつめの服を着たりするのではないか?それで実は女なのに男と間違えられている可能性も…」

「さすがにそれはないでしょう。私のように成長途中ならばともかく、そうでなければ、女性らしい身体的な特徴が全く見られないなんてことはありえないと思います」

「そ、そうだよね、あは、あははは、はははは…」

そこの女神様が死にそうな目をしているから本当にやめてあげろ。

「カズマ、やっぱりあたしってそんなに貧相な体なのかな…」

「い、いや、俺は引き締まっててスタイルいいなーぐらいにしか思ってないけど…」

確かに少しふくらみが足りない気はしていたとか言ったら、あとでどんな天罰が下るかわからない。

そしてなにやら話しながら少し先を歩くダクネスとめぐみんに聞こえないよう、聞きそびれていたことを小声で尋ねる。

「ところでさっきも聞いたけど、なんで今回は昼間なんだ?いつも通り夜の方が楽だろうに」

「…いつも夜忍び込んで穏便に済んだことってあったっけ?とにかく今回は、お酒を持っているのが貴族みたいなお金持ちじゃなかったからね。高いものだし盗むのもどうかなって思ってこうしているんだ」

退廃貴族を相手取るのとは訳が違うということか。

「ねえ、それよりさ、さっきのはなんだったの?カズマとめぐみんっていい感じなの?ラブラブなの?」

先程までの落ち込み方はどこへやら、目を輝かせて聞いてくる。女神様でも、いや、そういった人間離れした立場だからこそ人の恋愛に興味があるのかもしれない。

「ラブラブじゃあない。でも…いい感じ…なのかなあ…?悪い感じではないと思うんだけど…思いっきり好きですって言われたし」

「なにそれ!なにそれ!めぐみんって爆裂狂な以外はクールな印象だったんだけどそんなこと言うの!?」

「いやそれこそ当の俺も戸惑っちゃってさ、いつも爆裂爆裂うるさいのに…。今度クリスにも見せてやりたいぐらいだよ…」

「今紅魔族的第六感が、誰かが私の悪口を囁いてると告げたのですが心当たりはありませんか?」

「「いえ全然!」」


しばらく歩いた後。

「見えてきました、あそこです、あの酒屋に…」

「あら、めぐみんじゃない!ここで会ったが百年目、今日こそ決着を」

「寒いせいですかね、たった今頭が頭痛で痛い気がしてきたので私は先に帰ります」

「ええっ!?待って!嘘でしょ!?絶対めんどくさがってるだけでしょ!?」

「ゆんゆん。あなたは友達が頭が痛いと言っているのに自分の都合を押し付けるような人なのですか?そんな風だからいつまでたってもぼっちなんですよ」

「だ、だからぼっちじゃないってば!ご飯奢ったり薬買ってあげたりする友達が…」

「い、いやその話はもういいから。ところでゆんゆんが酒屋にいるとは珍しいな、お酒よく飲むのか?」

急いでゆんゆんの話を遮る。この子の私はぼっちじゃない論を聞くのは結構堪える。

「いえ、たまたま通りかかった時に、この人が店主さんに絡んでお酒を安く買い叩こうとしてたので止めていたところで…」

「よおカズマ、紅魔族ってのは魔力だけじゃなく腕力も強いのな…」

「ダスト!?いや、ゆんゆんは一人で戦闘を結構こなしてるからレベルも上がってるしそれも…」

「ゆんゆん、いくら友達がないからと言ってこんなアクセルきってのダメ人間を相手にしては…」

俺とめぐみんが言いかけた時。

ダストの手に握られていたものが目に入った。

深い深い全てを飲み込むような黒、肩が広く、底のすぼまった瓶。それはアクアとクリスの言っていた神器の特徴とぴったり一致していてーーー


気がついた時には、一面の闇に包まれていた。

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この寒空の下に安息を! 保護フィルム @P_film003

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