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旭の告白に、恭子は目を丸くし、絶句したが、やがて、泣き笑いに頬を引きつらせ、自嘲した。
「……馬鹿だね、私達。二人して勝手にお互いのことを羨んで、すれ違って、無理して嘘ついて……私達、本当に……馬鹿」
旭も涙を流しつつ、頷く。
「昔はこんな馬鹿なことしなかったのに。見栄なんて張らなかったのにね。どうして比べちゃうんだろう。大人になるってめんどくさい。私は、私と違って、綺麗で女の子らしくて、女の子を心から楽しんでいる恭子ちゃんが自慢で、大好き。恭子ちゃんは空っぽなんかじゃないよ。優しくて、料理も裁縫も得意で、一途で……。だめだ。私、恭子ちゃんのことを『空っぽ』なんて言った将校さん、今すぐ殴りに行きたい。腕力で勝てる訳ないけど」
「旭ちゃん……。ごめんね。大事なこと言えなくて、振り回してごめん。でも、私のこと嫌いにならないでくれないかな。私、旭ちゃんのこと大好きなの。自慢の大事な友達なの」
「……私の方こそ嘘ついてごめん。本当にごめんね」
少女のように泣きじゃくりながら、二人は謝罪し合い、友情を確かめ合った。
明智は黙って、すっかり冷めてしまったスープをちびちび啜りながら、どうか一刻でも早くこの最高に居心地の悪い席を立てますようにと祈っていた。
女ってめんどくさい。
今日一日、相当振り回されて行き着いた結論は、結局それだった。
言えずにいた本音を明かし合い、改めて友情を確認した旭と恭子は、黙々と食事を済ませた後、やっと明智にまで気が回ったらしい。
思い出したかのように、振り回してしまったことの見苦しい茶番を見せてしなったことを謝罪して来た。
疲労で、正直謝られようが、謝られなかろうが、どうでも良かった。
東京駅の改札まで、明智と旭は恭子を送り届けた。
泣き腫らしたせいで顔が浮腫んでいる旭は、別れ際、恭子の手を取り、囁いた。
「恭子ちゃんには、きっともっといい人がこれから見つかるだろうけど、もし、誰も見つからなかったら、私がいるよ。女二人で生きていくのも、多分それはそれで楽しいよ。だから、これからも失恋を恐れず、全力で恋をしてね。いざという時は、私がいる」
前向きなのか後ろ向きなのか分からない励ましだったが、本人は本気で言っている様子だった。
恭子は、自虐的な親友の激励を苦笑いを浮かべて聞いていた。
しかし、聞き終わると、片目を瞑った茶目っ気たっぷりの笑顔で返した。
「ありがとう。そうね。恋はやめないわ。でも、旭ちゃんがいるっていうのは、期待しないでおくね」
「え? どうして?」
旭は、きょとんとした表情で、首を傾げたが、恭子は何も答えず、代わりに友人の背後で棒立ちしている明智を見上げ、意味ありげに微笑んだ。
偽の恋人だったことが判明した今、何故そんな目を向けられるのか理解できず、明智もまた首を傾げる。
「じゃあ、もうすぐ列車が来ちゃうから。旭ちゃんも明智さんもありがとうございました。色々ご迷惑をお掛けしましたが、また遊んで頂けると嬉しいです。さようなら」
颯爽とスカートをなびかせて歩く後ろ姿からは、先程まで漂っていた憂いや悲しみは消えていた。
簡単に癒せる傷ではなかろうが、それでも彼女は前を向いて歩くことを決断したのだろう。
華奢で可憐な背中だったが、凛とした佇まいが格好良かった。
人混みの中に桃色のワンピースが完全に紛れてしまうと、旭が視線は改札の奥に注いだまま、ため息混じりに話しかけて来た。
「何というか、今日は本当に申し訳ありませんでした。恭子ちゃん、結局最後まで勘違いしたままだったみたいですし。すみません」
「そのようですね。まあ、あまり謝らないでください。済んだことですから」
恭子自身のことは嫌いではないが、何でも色恋沙汰に結びつけて解釈するきらいの強い人間はやはり苦手だ、と明智は痛感しつつ、返答した。
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