1日目
何時もよりふかふかな気がする心地のいいベッドの上で、俺は目覚めた。
見慣れない天井を前にしても、意識が朦朧としている俺の頭は、焦る事をしなかった。
身体を起こし、辺りを見渡す。何もかもが見慣れない景色。……いや、正確には、知っているが、実物を前にするのは初めてだ。
そう、俺は自分のアバターの部屋にいる。
確かにここは《MAIN》の自室だ。俺のアバター、「ゆい」の自室。
なのに何で、俺がいるんだ……?
そんなゲームじみた展開に、やっと目覚めた俺は混乱する。
慌ててベッドから飛び降り、必死の思いで鏡のある部屋を探した。洗面所……と思われる所は、見覚えがない。何しろ、ゲームの中では風呂やお手洗いなどは必要ないのだ。
洗面台の上の壁に張り付けられた大きな鏡に自身を映し出す。そこには……
ゆい「嘘…………だろ?」
紛れもない、ゆいの姿があった。これは新鮮な夢だ。
……?そうだ、ここは夢なんだ。何を焦っているんだろう……。
短めにはねた髪の毛を手で慣らしながら歩き出し、外へと続いているであろう扉を開けた。
外は、見慣れているような、いないようなあの風景だった。まるで、1枚の絵画を別視点で映し出したようなそこは、何時かプレイした時の街の活気はまるで無く、静寂に包まれていた。
このままでは駄目だ。ルートもゲーム内で把握しているのは確かなので、適当にそこら辺を巡ることにした。
こんな俺だが、流石に一人だと寂しいので、人探しも兼ねて、不思議と軽い足を進ませた。
人は居ないのに、空は相変わらず知らん顔をするように真っ青だ。お天道様は一人の俺を見ているだろうが、当然助けてはくれない。
暫く歩き進めると、右側の洋服屋に人影の様なものが見えた。俺は思わず出そうになった声を飲み込んだ。
その服屋は、行きつけの服屋だった。格好いいし、何より自分のジャンルに合っている。
俺は躊躇いながらも、馴染みある店の扉を、初めてこの手で開けた。
扉がキィ……と音を出したのと同時に、捉えていた影らしきものが大きく、まるで「ばれた」とでも言うように動いた。
ゆい「……あ、あの…」
???「ヒイイィィィ!!!あ、いいいい命だけはああああ!!!」
軽く声を掛けただけだ。そう、あくまでも軽く。それなのに相手は、大きな声を上げて何故か俺に懇願したのであった。
「大丈夫ですから」と何とか安心させようと、口を開こうとした。
開こうとしたが、口から出ようとしてた言葉は、虚しくも飲み込まれた。
頭部の側面に激しい痛みと、同様に激しい目眩が襲った。
意識の去り際、閉じかけた目が捉えたものは、背の高い男のような影だった。
そのまま、俺は倒れた。
ニートの革命 羊羹もちこ @YOUKANN_MOCHIKO
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