2
***
男は通話をはじめる。
「……おれだ。あの話は、無かったことにしてくれ」
『えっ……おいっ! そんな、は、話が違うぞ!!』
「……すまなかったな」
『お、落ち着け、とにかく落ち着け! な?
金なら用意したんだ!! だから』
プツッ。
通話を切った男が手に取ったのは、小さなスイッチ。
そして、筒状のものが幾本も張り付いた、黒いベストを身につける。
ゆっくりと、少女に歩み寄った。その表情は、終始穏やかだった。
少女の手を取り、膝をつく。
「……おじさん」
「おじさんじゃない。まだ28だ」
「……ふふ、ごめんなさい」
「……で、なに?」
「私のこと傷つけるつもりも、殺すつもりも、最初からなかったでしょ?」
「……何故そう思う」
「だって、痛くないように鎖を巻いてくれているもの。
それに、本を投げた時だって当てるつもりなんてなかった」
男は添えていた右手で、そっと少女の頬を撫でる。
「……どうして?」
「野球が好きで、今でもコントロールは健在だって。さっき話してくれたじゃない」
少女はうっとりと男の温もりを感じる。
目尻から、つうっと一筋の涙が伝い落ちた。
「大変だったんだから…………」
微かに動く、男の左手。
「……すまなかった」
カチッ。
「時間を、取らせて」
男と少女 山川 まよ @mounriv
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます