ダンジョン妖精さんは冒険者を殺さねばならない

犬ガオ

ドラゴン娘さんは困ってます。

 ここはとある世界、とある迷宮、その迷宮管理室。


 書類の束と【魔石】の山、そして迷宮の各所を見張る【所写しの鏡】が並ぶその場所で、赤い赤い緋色の角が二本生えた女性が一人、困った顔で首をかしげていました。


 竜族の特徴的な、前に突き出た緋色の角、背中を覆う長い緋色の髪、そして誰もが目を見張る大きな胸が特徴的な女性、そうですね……ドラゴン娘と呼ぶことにしましょうか、そのドラゴン娘さんは、座っている机の上に置かれたンネル革紙の要望書を見て、溜め息をつきました。


「ゲーティンの要望にも困ったものですね」


 机の上に膝をつき、頬杖をしようとしますが、胸の大きさがそれを遮ります。

 人の姿が煩わしくなったドラゴン娘さんですが、ここで変身を解いてしまうと、部屋を壊しかねません。また溜め息をつきます。


「ダンジョンを知らない、もしくはトラップを仕掛けたこともない妖精を連れてこいだなんて……。それって【ダンジョン妖精】と言えるの?」


 【ダンジョン妖精】……迷宮内に様々なトラップを設置することを生業とする、迷宮に愛された妖精さんのことですが、要望書に書かれていた条件には、その存在意義を無視するような内容が書かれていました。


・ダンジョンを知らない者。

・トラップを仕掛けたことがない者。

・偏見を持たず、好奇心が強い者。

以上のうち、二つ以上該当する者を後継者として雇ってほしい。


「確かに、ゲーティンの研究を受け継ぐには、そんじょそこらの妖精さんではダメなことは分かってますよ? それでもですね、これなら優秀なダンジョン妖精さんを雇った方が早くて楽ですし」


 はぁ、とまたまた溜め息。独り言も加速します。


「かといって、もう第一階層はゲーティンの実験場にわですし、この条件の子を探さないとおそらく使い物にならないでしょう? ですよねー分かってます。研究を推奨したのは私ですし、妖生を賭けて完成させたゲーティンがかわいそすぎます」


 ただでさえ、彼の外聞は悪いですし。ドラゴン娘さんはうつむきながら呟きました。


「とりあえず、親戚に尋ねるしかありませんね」


 両手の拳をぎゅっと握り、決意をかためたドラゴン娘さんは、椅子から立ち上がり、部屋の奥にある転移陣へと足を向けました。

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