第19話 脱走

 悪魔なんて初めて見た。


 堕天使の話から『いつか会うんじゃないか』とは思っていた。


 でも、こんなに早く会う事になるなんて。


「ミントちゃん。貴方が持っている能力、ちょうだい」


 翼を生やしたAIBUさんが飛んで私に近づいてきた。


 私は一歩下がろうとしても後ろに人がいるから下がれない。


 それにしても。


「どうしたの? さっきから私の顔ばかり見て」


「いや、その……」


 なんと言うか。


「まるで顔だけ見てるって感じなんだけど。私の顔に何か付いてるの?」


「そうじゃなくて」


 顔以外のところはあまり見たくないというか。


「あ、わかった! この姿が魅力的過ぎて見とれてしまわないようにしている、とか?」


「貴方のその格好を見るのが恥ずかしいんです!」


 AIBUさんは今、かなり露出度が高い服を着ている。


 黒のバンドゥリングビキニを着ているけど胸が大きすぎて乳首を隠している、って感じ。


 パンツにいたっては『もうちょっとずれると見え

てしまうのでは?』と思うくらい小さい。


 小さいだけのか、それともワザとなのか。


「……よくそんな格好でいられますね。寒くないんですか?」


 北海道の4月はまだ春といえないくらい暖かくない。


 そんな格好をしていたら絶対風邪をひく。


「悪魔に気温は関係ないの。自分で体温を調節できるから」


 自分で調整できるなんて羨ましい。


「悪魔の力の奪い方は知っているのか?」


「もちろん」


 されたくないけど、どんなやり方なのか気になる。


「力を持った悪魔の心臓を貫いた後に体から出てくるんでしょ。それを自分の体に取り込めばいいんでしょ」


 心臓を……貫く? 


 私、殺されるの!?


 に、逃げなきゃ。


「わかっているじゃないか」


「知らなかったらここに来ていないわ」


 AIBUさんが堕天使との話に夢中になっている隙にそーっと列から抜けた。


 足音を立てずに体育館の入り口へ向かう。


「さてと……ま、待ちなさい!」


「あの馬鹿」


 バレたので私は全速力で体育館を出た。 


 こんなに必死で走ったのは生まれて初めて。


「はぁ…はぁ…」


 元々体力がないので昇降口に辿り着いた時には息切れしていた。


 私は逃げるのに夢中で靴を履き替えるのも忘れて昇降口を飛び出した。

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