第18話 異変

 AIBUさんがピアノで演奏し始めた。


 イントロから有名な曲なので私も含めて全校が盛り上がったけどAIBUさんが歌い始めるとさらに盛り上がってきた。


 さらにソロに入ると歌い始める生徒が出てきたのでそれにつられて歌い始める人が増えてきた。


 最終的には『全校生徒による合唱』状態になって一曲目が終わった。


 ……なんだろうこの雰囲気。


 盛り上がっているからかもしれないけど普通じゃない。


「ありがとー! 一緒に歌ってくれて嬉しいよ。じゃあ、次の曲の曲いってみよー! 次の曲は……」


 AIBUさんが右腕を振り上げた。


 えっ、誰か指名するの?


 当たりたくない。


「六年生の翡翠明兎ちゃん。君がいいな!」


「私!?」


 人前で歌うなんて嫌なんだけど。


「あ、あの他の人に」


「君がいいんだよ。だって……」


 理由あるなら聞きたんだけど。


「この学校に悪魔は君だけだからね」


 信じられない理由だった。


 『悪魔だから』ってどうしてそれを……。


「あっ大丈夫。ここにいる人達は歌っている時に催眠術かけておいたから今は意識がないよ」


 『意識がない』とかこの人、一体何者?


「……どうやらもう一人人間じゃないのがいるみたいね」


 そうだ堕天使!


 アイツはどこ?


 私は自分のクラスの列を見渡した。


「バレてたか」


 少し後ろから堕天使の声がしたのでそっちを見ると冷静にAIBUさんと話していた。


「どうしてわかったの?」


「雰囲気で駄々漏れな上、ここにいる人間達からも注目されていた。『普通の人ではない』という雰囲気を醸し出している時点で天使や悪魔を知っている奴等から見るとすぐにお前を怪しむ」


「あーやっぱり派手すぎた? これでも大人しいなりでいたつもりだったんだけどな」


 じゃあ、AIBUさんは人間じゃないの?


 だから私を『悪魔だ』って……。


 AIBUさんはピアノから両手を離した。


「ついでに言うとお前が演奏していた曲からも『自分は人間ではありませんよ~』って感じがしていたぞ。そうだよなミント」


「う、うん……」


 やっぱりあれは普通じゃなかったんだ。


 堕天使が列を抜けてAIBUさんが立っているステージの真下まで来た。


「さっき言ってた催眠術は演奏中にかけたんだろ」


「そうよ。にしてもあなたは天使……ではないみたいね。悪魔でもないみたいだし」


「俺は堕天使だ」


「なるほどね。それで、どうして堕天使がここで小学生をしているの?」


「ま、思わぬハプニングってやつだ」


 私にとってもね。


「もしかしてミントちゃんの為?」


「そうだ。コイツを立派な上級悪魔にさせる為にな」


「余計なお世話。悪魔なんて死んでもならないから!」


 人間のまま死んで天国に行きたい。


「そうなんだ。でもそうはさせない」


 突然AIBUさんの足元から黒い渦が現れた。


 あの渦、私があの時に見た悪魔のような影と色が同じ!


 渦はAIBUさんの体全体を包むと渦が止まり、一気にあたりに弾けた。


「改めて紹介するわ」


 AIBUさんの体には黒い翼が生えていた。


 でも堕天使の翼とは形が違う。


 あの上と下の黒いギザギザの翼はまるで……。


 もしかしてAIBUさんは。


「私は愛撫あいぶ。夢魔、淫魔と呼ばれている悪魔よ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る