第8話 堕天使と登校

「アンタが私の弟になるなんて聞いてないよ!」


 玄関を出てすぐに私は堕天使に問い詰めた。


「俺が昨日の夜からお前の母親を含めてお前の周りの人達の記憶にねじ込んだんだ。『翡翠明兎には双子の弟がいる。名前は來斗らいと』ってな。來斗は俺の本名の『トライ・トーン』から取った。言っておくが俺はお前の弟になるが本当はかなり年上だからな」


「勝手に私の周りの人達の記憶ねじ込まないでよ!」


 っていうかそんな奴と普通に話している私って……。


「仕方ないだろ。お前を監視する為にはこうするしかなかったんだ」


「監視? なんで私を!?」


「忘れたのか? お前は人の悪意が見える悪魔になったんだぞ」


 『悪魔になった』。


 堕天使の言葉に重みを感じた。


「監視をするのは悪魔になったから?」


「それだけだったら俺が常についていなくても良かったけどな。だが……」


 だが?


「お前が手に入れた『人の悪意が見える』という能力は特別な能力だ。悪魔や悪霊は人の心を読むことができないからな。悪意だって読み取る事ができない」


 そうなんだ。


 読み取れそうだけど、そこは人間と同じなんだ。


「悪意を読み取る能力って悪魔にとってスゴイ事なの?」


「もちろんだ。俺はその能力を手に入れて上級悪魔になる計画を立てていた」


 その計画ってもしかして。


「昨日の夜にようやくその願いが叶うと思ったらお前が邪魔したせいで!」


「それは悪かったよ。ゴメン……」


 私だって悪魔になりたくなかったし。


「だが、こうなってしまった以上どうする事もできない。俺は倒れたお前を運んでいる途中に考えた」


「ありがとう。家まで運んでくれたんだね」


 初めてコイツに感謝した。


「ああ。そして俺が考えた計画は……」


 なんだろう。



「お前を立派な悪魔に育て、魔王様に献上して俺と一緒に上級悪魔になることだ!」



「嫌!」


 私はコイツから全力で逃げるように学校へ向かった。


「待て、まだ話は終わっていないぞ!」


 堕天使は羽を生やして追いかけてきた。


 早っ! 走っていたのにあっという間に追いつかれた。


「お前は常に狙われているんだ。俺を置いての単独行動は禁止だ!」


「そんなの知らない! それに『悪意が見える』なんて悪魔にとっては嬉しいかもしれないけど人間の私がそんなの持っていたって何になるのよ!」


 悪意なんて普段から持っている訳じゃないし。


「はぁ……まだまだ未熟な奴だな、人としても。これじゃあ結構時間が掛かりそうだな」

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