第四章 『風花紲月《ふうかせつげつ》 未橙雪奈《みだい ゆきな》編

第四章 風花紲月 PART1

  1.


 風花雪月ふうかせつげつ


 この言葉は四季折々にある美しい自然で成り立っている言葉だ。


 だが美しいものは確かな形を維持することができず儚く消えてしまう。この言葉には花鳥風月のように肯定的な見方だけではなく否定的な面が含まれているのだ。


 強い風が吹けば鮮やかな花は散り絶え、憂鬱な雪が舞えば朧げな月の光は閉じるように――。


 人の命も例外に漏れず脆く、儚い。


 人は生きている限りいつでも死ぬことができるし、時には一瞬にして消える可能性を秘めている。


 生まれる場所は一つだが、死ぬ場所は無限にあるのだ。今この時も、人は生まれ死に続けている。


 もちろん普通に生活していれば、こんなことは考えない。だが私は旦那の死をきっかけにこの問答を繰り返すようになってしまった。それを考えている時だけが、彼のことを思い出すことができるからだ。


 私は旦那を失って一つの選択をした。それは自分の中でバランスをとることだ。できるだけ多くの死を目にし、死という概念に慣れてしまうことを選んだ。


 私の仕事は納棺士のうかんし、死者の体を清め最後の送り人となることが務めだ。


 もちろん苦痛はない。


 初めて、私は旦那を愛することができたのだから――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る