第56話 最後の告白

「熱い! 熱い!」ミキの母は炎の中で黒い影となって、バタバタと暴れ、やがて倒れた。僕はミキを抱きかかえて、ドアまで急いだ。

しかし…時はすでにおそし。ドアも窓も全てゴオオオと音を立てて燃え盛っていた。


僕は眠ったミキを強く抱きしめた。二人で天国に行くことになるなんて。

「あれ、何?」そのとき、ミキが目を覚ました。


「ちょっとこれどうしたの!? 一体何が!ゲホゴホ」ミキはパニックになっていた。

「ゴホゴホっ! 神様! いるんだろう」

「何言ってるの? カズヤ?」


その時、ネズミ人形が神様の姿となって現れた。いや、本来の姿はこっちなんだけれども。どうも、ミキには見えないらしい。

「カズヤくん、なんだい?」

「もう、僕たち…死ぬのか」

「ああ…そうだよ。もう助からない。まもなく君たちは丸焼けになって死ぬ」


ーやっぱりそうか。それなら、もう覚悟が出来た。

「神様、少しだけ時間をくれ。生きている間にどうしてもやっておきたいことがある」

「わかった」


そう言うと、神様は僕たちの周りから少しばかり炎を遠ざけた。

「5分しか時間はあげないよ。急いで」


「タクヤは僕なんだ。僕はカズヤの生まれ変わりなんだ」

「ええ、そんなことが!」

「うん、これねしゃべったら前世の記憶を奪うっていう神様との約束になっていてね。だから、しゃべれなかったんだ。でももう僕たちの命は終わる。だからさっき、神様から告白する時間をもらったんだ」


ミキは眉間にしわを寄せた。

「何言ってるの? 火事のせいで頭がおかしくなっちゃったの?」

「本当なんだ、僕はタクヤなんだよ!」


ああ、どうやったら信じてもらえるのか。死ぬ前に告白したかったのに。

生きているうちに僕はタクヤのかわりではなくて、タクヤであることを伝えたい。


えっと、えっと…そうだ! タクヤだった僕とミキしか知らないことがたった一つだけある!


「ミキ、25年前教会で願い事を入れた紙を書いて、それを屋根裏部屋の空き缶に入れたの、覚えてる?」

「カズヤ、どうしてそれを…」

「僕が、タクヤだからなんだよ!!」


僕はミキを強く抱きしめた。そして今までしたことがないぐらい激しく唇を当てた。

「タクヤ! タクヤ! タクヤ!」

「ミキ! ミキ! ミキ!」

僕たちは泣きながらずっと名前を何度も呼んだ。


「私がおばさんになっても、愛してくれてありがとう」

「ミキ、僕にもう一度恋をしてくれてありがとう」


「あつっ、もう無理!」

神様の間抜けな声が聞こえた。


そして、あっという間に僕たちは炎の中に包み込まれた。




ー2回めの天国か。思いは告げられたから、もう後悔はない。

静かに目をあけた。


すると、木の木目が見えた。

「あれ、天国ってこんな木の木目の天井なんてあったかな?」


起きてみると、そこは見覚えのある場所だった。

「えっとここは…」


「朝ごはんが出来ましたよ。お雑煮をみんなで食べましょう」

そう言って顔を出したのは…


教会のおばあちゃん牧師だ。


「え、いま何年ですか?」

「何言ってるの。今日から1992年でしょう。明けましておめでとう」


あわてて玄関にあった鏡で自分の姿を見た。


ー15歳の頃の僕だった。


は? 一体これはどういうこと?




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