第54話 歪んだ愛
1992年1月15日に腹部を刺されてから、生死をさまよい、意識不明の状態が続いていた。
4ヶ月を過ぎた、5月26日。ミキは意識を回復した。
「よかった、ミキの意識が戻ったぞ!」岩井さんは大喜びをしてミキを抱きしめた。
岩井さんは、病院に通い、意識のないミキのために体が硬直しないようにマッサージを每日何時間も欠かさず行っていた。
ところが、まもなくミキに右足の後遺症が残ったことがわかった。脚が不自由になれば、芸能活動には致命的なダメージとなる。
「なんで、私がこんな目に! どうして!」と每日ミキはベッドの上で泣きわめいた。
退院して1ヶ月の間、家の中で每日大暴れをした。もう母親はお手上げになっていた。
岩井さんは、每日部屋に食事を運び続けていた。
「ねぇ、一体どうしたら君は元の君に戻ってくれるの?」
岩井さんはしびれを切らして聞いた。
「元に戻ってほしいの? 私の脚は戻らないのよ。それにタクヤだって戻ってこない。私だけが大事なものを奪われて…。どうやって元に戻れっていうのよ!」
「僕がいるじゃないか!」
岩井さんは、その時ミキを抱きしめた。
「ずっと君が好きだったんだ。でも君はまだ中学生で…。許されないだろう、僕と君とが結ばれることなんて。
だから、あの夜はとてもうれしくてね、僕は少年のようなセックスをしてしまった。君には遊びに見えたかもしれないけれど、あれは僕が最初で最後許された恋だと思っているんだ」
ミキは大きな目を開いて、岩井さんを見た。
「何言ってるの? お父さん… 私はただ困らせたかっただけよ」
「わかってるよ。君の気持ちはわかっていた。僕に恋人がいることを知っていたんだろう」
「そうよ、だからいじわるしたかったのよ。そんなつもりはなかった」
ミキは岩井さんを突き飛ばした。
「僕はずっと君が好きだったんだ。だから君のお母さんと結婚したんだ。
なんでわからないんだ」
ガシャーン!
後ろの人がいた。それは、ミキのお母さんだった。
「あなた、どういうことなの?」
「いや、これは…」
「聞かなかったことにしてあげる。それと、ミキ。もうあなたがずっとこんな荒れたままになっているなら、私は何をするかわからないから」
そう言ってミキのお母さんは静かに割れた食器を拾った。
手は血だらけになっていた。
岩井さんは、タバコを吸いながら言った。
「いつから元妻が話を聞いていたのかはいまだにわからない。でもセックスのことは聞かれていなかったと思う。それを聞かれていたらすぐに追い出されていたと思うから」
「そうですね。確かに。義理の娘とセックスをしているなんてわかったら普通もう結婚生活は無理ですよね」
そして、翌日からミキは元のミキに戻った。
「今日から受験勉強しなきゃ」と張り切って勉強をするようになっていた。
5教科を教えてくれる家庭教師も見つかった。22歳の女子大生だった。
「俺はミキが刺されてから看病に専念するためマネージャーの仕事をやめて、独立して時間を自由に作れるようになった」
「ああ、あの毛皮販売ね」僕は苦笑をした。
「でね、ちょっとね…その子僕の好みだったんだよね」
「ああ…」
なんと女子大生に手を出してしまった。岩井さんはイケメンで芸能関係の仕事をしていたことだけあって、女子大生を落とすなんて赤子の手をひねるようなものだった。
しかも…。家の書斎の中で情事を重ねていたのだという。
「うわ…」としか僕は言えなかった。
「12月に書斎で最中のやつを見られてしまって、それで全て終わり。借金もクビが回らなくなって、女に溺れることで不安を紛らしてしまって…身を完全に持ち崩してしまったんだよね、俺は」
「ほんと、バカな人だったんですね。岩井さん」
「じゃあ、不倫相手って…」
「ミキではなくて、女子大生」
ー正直、こんな愚かな人が、殺人を犯してもずっと捕まらずに来られるとは思えない。この話からすると、もしかしたら…!
「岩井さん、ミキの命を狙う犯人ってもう検討がついていますか?」
「ずっと俺はあの人だと思っているよ」
「多分、私もあの人だと思います」
二人は見つめ合った。
「カズヤくん、すぐにミキに電話をした方がいい。あの人に会っていないか。一人で会わせないようにしなければ」
僕はiPhoneを取り出した、すぐにミキに電話をした。
電話がつながらない。
ミキからLINEが来ていた。
「今日、久しぶりにお母さんが私の家に来ることになったから、カズヤと会う日を決めておくね」
岩井さんに、LINEを見せた。サッと顔色が変わった。
「カズヤくん、ここはもういいから、急いでミキのところへ」
僕は全速力でホテルを出て、タクシーをつかまえた。
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