第45話 トリックと動機

「犯人はね、じゃじゃーんこれだったんだ」

トオルさんが持ってきたもの、それはパソコンだった。

「え、パソコン? 一体どういうことですか?」

「遠隔操作なんだよ」


トオルさんの話は次のようなものだった。

ミキのパソコンの中に知らない間に遠隔操作用のソフトがインストールされていた。誰かが外部からミキのパソコンを操っていたのだ。そして演劇で使う効果音の音源を再生されていたのだという。


「うわ、すごいこと考えますね…。でも一つ疑問があります」

「カズヤくん、何?」

「これ、ソフトをインストールするのに一旦部屋の中に入らなきゃいけなくないですか? でも、警察は侵入者はいないって言っていたんですよね。一体どうやってこのソフトを入れたんですか?」


トオルさんは、ニヤニヤしている。

「そこをさ、逆手にとったんだよ、犯人は」

「ええ?」ーさっぱりわけがわからない。


「遠隔操作をしていた相手のIPアドレスがわかったんだよ。それを調べてみると、同じ建物内だということがわかったんだ。」

「同じ建物内で不審じゃないといえば」

「そう、多分というか間違いなく管理人のあの人だね」

「金沢先生か!」僕はポンと手をたたいた。


「大当たり! ミキさんの話によると、引っ越してきたばかりの時、管理人さんが勝手に部屋に入っていたことがあったんだって」

「ええ、それって犯罪じゃあ…」

「本来ならそうなんだけれど、『ガスがつけっぱなしだったから止めに行ったよ』と言われて、そのまま信じていたみたい」

「なるほどな」


ーん、でもちょっと待って。

「ねえ、トオルさん。ミキは金沢先生だって気づいていなかったの?」

「そうみたいだね」


警察署に被害届を提出して2週間後、金沢先生は住居不法侵入の罪で逮捕された。遠隔操作についても犯罪事実を認めた。


彼の犯行の動機は、20数年前に最後の採用試験に落ちたことだけではなかった。もっと複雑に現在と絡みあっていた。


金沢先生は、ミキがマンションに引っ越してきた時、すぐにミキだと気づいた。けれどもミキはすっかり金沢先生のことを忘れていた。

「俺の人生を狂わせたくせに、俺のことを覚えていないってどういうことだ」と恨みの気持ちが一気に爆発したのだそうだ。


さらに、ミキが私立の高校教師として正採用されている事実が恨みの炎に油を注ぐ結果となった。

先生は、管理人をやりながらほそぼそと臨時講師の仕事をやるしかない今の人生に絶望していたのだ。

「俺と同じようにやりたいことを閉ざされる人間の気持ちを味わえ!」と思い、それで遠隔操作で嫌がらせをすることを決意した。これが事実だった。


「ああ、これでミキさんの身の安全が確保されたね。僕も送り迎え卒業だ!」とトオルさんははしゃいでいた。僕たちはハイタッチをした。


そう、もうこれで問題は解決したと思っていたのに…。








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