第41話 衝撃の結果
1週間後。僕は、トオルさんとメグミとともに、調査事務所へと向かった。
メグミが「来なさい!」と無理に連れてきたカタチをとってくれた。
トオルさんはなんで僕が同伴するのか首をかしげていたけれども。
新宿駅東口を出て、歌舞伎町の雑居ビルにその事務所はひっそりとあった。
重たい金属のトビラのとなりにあるインターフォンを押した。
「どうぞお入りください」という声とともにカチャっと解錠する音が聞こえた。
中は、2DKの普通のマンションのような感じだ。黒革のソファに案内され、お茶を出された。この光景は、4年前に訪れた、大学の学長室に似ている。今日もまた人生の節目の日になるのかもしれない。
トビラがあいた。スポーツ刈りでガッチリとした体型でアロハシャツを着た男性が現れた。50歳前後ぐらいに見える。お腹はぷっくりと出ている。松方弘樹の若いころのような出で立ちだ。彼の名前は、鈴木マサシだ。
「お待たせしました。調査した3人の男性ですが、みなさん健在でしたよ」
と言って、調査報告書の中身を開いた。
まずは、中学校3年生の時の担任、金沢シュウイチ先生だ。彼は東京都の教員採用試験の受験資格を失った後、マンション管理士の資格を取得し、現在は管理人として働きながら、公立中学校の非常勤講師をしているという。
「なんか先生と言っても、非常勤講師って厳しいっていうよね」メグミがぼそっと言った。
「教育委員会にタクヤくんのイジメをスルーしていたのがバレたのが痛かった。ちゃんとイジメに真摯に取り組んでいたら結果が違っていたかもしれないですね。
そういう意味ではミキさんのことは相当恨んでいるんじゃないかと思いました」
ーたしかに、動機は十分にありえる。
「あれ、鈴木さんこれ!」
トオルさんの顔色が悪くなっている。
「花瓶がふってきたマンションって、このマンションですよ!」
「ええ、そうなんです。金沢さんは、そのマンションの管理人をしているんです」
ーうわ、これは金沢先生の可能性もある。教師がこんなことしていいのか。僕の怒りはふつふつと煮えくり返ってきた。
「でも、二人目の西川ケンジさんもちょっとなんかきな臭いんですよ」
「どういうことですか?」
「ミキさんのマンション、オーナーが西川さんなんです」
「ええ!」メグミは大きな声をあげた。
「最初はお父様の持ち物だったんですけど、今はケンジさんに代替わりをしておりましてね」
ーケンジはないかなって思ったけれども、ミキの部屋に何か細工が出来るのなら、ケンジが一番やりやすい。犯人候補者としてはずせない。
「あの、岩井さんはどうしているのでしょうか。僕はまだ2歳だったのであんまり覚えていないですけれど、お世話になったみたいなんです」
「そうですね…。毛皮販売会社を倒産させた後、また芸能事務所のマネージャーに戻っていますね。えっと確か、現役女子大生の森下ハルナのマネージャーをしています。君と同じ大学の同じ学科にいるよ」
「え、ハルナの!」
ー岩井さんがハルナのマネージャーをしているなんて。こんなに身近に彼はいたのだ。
「この中で一番動機が強くて、怪しいのは金沢さんですかね、私の見立てたところ」と鈴木さんは言って、僕たちに調査報告書を手渡してくれた。
犯人は金沢先生なのだろうか。早く犯人を確定させないと、ミキの命が危ない。
帰り道、メグミはいきなりとんでもない話をしてきた。
「トオルくん、本当は嫌だけど」
「うん?」
「あなた每日ミキさんのこと見送ってあげて。家に入るのも許す」
「え、本当に? 僕も心配で」
「でも、浮気したらぶっ殺す」
ミキは本当に怖かった。でも、これでトオルさんがボディーガードをしてくれる。
「トオルさん、僕今年、富国女子高等学校の教員採用試験を受けます」
「おお! 僕も校長に言っておくよ。採用されたら二人でボディーガード出来るもんな」
僕とトオルさんはハイタッチをした。
富国女子の採用試験は11月だ。身内のコネを使ってでもなんでも、僕は君の命を守らなければ。
しかし、僕の野心とは裏腹に、雲はどんよりと重く、今にも雨が降り出しそうだった。
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