第38話 謎をとく夏休み
2014年7月。教育実習も無事に終わり、夏休みがやってきた。とはいっても遠征があったり、大会があったりなどで純粋に休める日なんてほとんどない。でも1週間は家族とゆっくりしてきなさいという監督の方針で、7月の最終週だけ実家に帰ることになっていた。
「カズヤ兄ちゃん、おかえり〜!」
「おお、元気にしていたか」
姪っ子のアヤがよちよちと走りながら、僕を玄関で迎えてくれた。
3年前にメグミはトオルさんと結婚をし、翌年にアヤが生まれた。トオルさんが我が家に住んで一家を支えると申し出てくれたおかげで、家族は路頭に迷わずに済んだ。
本当にありがたいことだ。
「お兄ちゃん、スイカ食べよ〜」
僕の手をグイグイと引っ張りながら、台所に連れて行ってくれた。
「カズヤ、おかえり! スイカだったら大丈夫よね?」
「ああ、お母さん気にしないで。この1週間は何でも食べるから」
「ダメよ、気を抜いたら。食べるもの手を抜いたら一気に成績落ちるから」
父はiPadで一生懸命人差し指を動かしている。ちらっとみるとパズドラだった。
「お父さん、この前2万円も課金していたのよ。もう課金禁止の設定にしたわ」
「ガチャをしてもいいモンスターが出てこなかったから、つい」
ー最近のゲームは怖い。知らない間に指一つで課金してしまうからなぁ。
「おじいちゃんも、スイカ食べるよ〜」
「はいはい」アヤのいうことは素直に聞くらしい。
「メグミ姉ちゃんはどこに行ったの?」
もう、メグミが妹であったことも時々忘れている。それぐらいメグミ姉ちゃんという言葉に違和感を感じなくなっていた。
まもなくして、メグミ姉ちゃんが帰ってきた。ハアハアと息切れしている。
全速力で走って帰ってきたようだ。
かつて、厚底ブーツやハイヒールを履いていたメグミはウェーブがかったショートヘアに、赤と白のボーダーのシャツにジーンズ、真っ白なスニーカーが似合うお母さんになっていた。
「なんか、老けたな」僕はボソと言った。
「雰囲気変わったなぐらいにとどめておきなさい」と頭を軽くこづかれる。
「それより、すごいことわかったのよ。あんた二階に集合よ!」
どうやら、緊急会議が始まるらしい。僕はボロボロのネズミ人形を持って、久しぶりの自分の部屋へと階段をかけあがった。
「これよ」
メグミは、僕の目の前にA4サイズの分厚い茶封筒を見せた。
封筒の表には、【調査報告書 金田探偵事務所】と書かれている。
「お兄ちゃん、これね…すっごく迷ったんだけどね、思い切っちゃったわ」
「なにこれ。トオルさんの浮気調査?」
「バカ言ってんじゃないわよ、このクソガキ」
ーおおっと、子どもを産んでから、なんだかメグミは強くなっていた。
「ミキさんのことを調べたのよ」
「ええー!」
「100万円以上したわよ」
「うえっ!そのお金どこから出てるの?」
「私の結婚前の貯金よ! 感謝してよね」
メグミは、僕がこれからミキのところで働いてもいいものかどうかずっと考えていたらしい。トオルさんからもいくらか聞き出したけれども、ミキは昔のことを語りたがらなかったとのことだった。
「お兄ちゃんは、いまタクヤとしての人生を引き継ぎ続けるのか、新たにカズヤとして生きていくのか、そういう節目に来ていると思う。だから、ミキさんのことをなるべく知っておいた上で、判断するべきじゃないかなって。
だから、調査会社に頼んだの。まだ、私も中身は見ていない。これから確認するの。一人で見るのは怖いから、一緒に見よう」
こうして僕たちは、茶封筒の上をハサミで切った。
そして、中身を取り出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます