第22話 自由意思

「やったぜ! ミキと毎月会えるぜ」

僕は、ベビーベッドの上で臭いネズミ人形をブンブンと振り回した。

隣で父と母は布団でぐっすり寝ている。なんだか父と母と寝るのは10年ぶりぐらいで少し気恥ずかしい。


「カズヤくん、やめて。目が回る〜」

「あ、ごめんごめん」

僕は、パッと手を離した。ポスっと小さな音をたててネズミは着地した。


「ねぇ、神様」僕は、父と母が起きないかとチラチラ見た。大丈夫そうだ。

「ミキがあんなことになっているって知ってたの?」

「そりゃ、当たり前じゃないか。私は神様なんだから」

「どうして、ミキをあんなひどい目に合わせたの? 顔に大きな傷は残っているし、右足は麻痺したまんまでちゃんと歩けないなんて聞いてなかった」

「ちょっと待って。少し話がおかしいんじゃないかい」


ネズミは、右手を「チチチ」っとしながら、話し始めた。

「私が傷つけたわけじゃないよ。人間がやったことだ」

「そりゃ、わかってるよ。ていうかさぁ…神様だから止められたんじゃないの?」

「なるほどね、君の言いたいことはだいたいわかった」


ネズミは少し一呼吸をして静かに答えた。

「あのね、何回も言ってるんだけどね、僕はね人間に自由意思を与えている。この意味わかる?」

「うーん、まあなんとなく」

「意味はわかってるよね。でも君はその結果をわかっていないね」

「結果ってどういうこと?」

「人間に自由意思をあげた結果、どういうことが起こるのかってことさ」

「自由に考えることができるってことだよね」


「うーん、それじゃ、半分しか正解じゃないね。自由に考えられるってことは自由に行動ができるってことさ。つまりいいことを考えれば良い行動が出来る。でも悪いことを考えれば…」

「悪い行動もできる」

「そのとおり! 私が人間に自由意思をあげるっていうことは、その意思をどのように使うのか、私が介入しないってことなんだよ。私がその意思をコントロールするなら、それはもはや自由ではないよ」


ー自由ってずっといいものだと思っていたけど、使い方を間違えると人の自由をうばってしまうのだ。ミキの顔の傷、ピンクの杖で歩く後ろ姿が目に浮かんできた。


「ミキをあんなふうにした犯人は一体誰なの?」

「それは…言えないさ」

「なんでだよ!」


僕は、大きな声を出してしまった。思わず口を両手でふさいだ。


母が「う〜ん」と言いながら、寝返りをうった。再び静まり返った。

なんとか、セーフ…。


「私が犯人をカズヤくんに言ったらさ、それはその犯人の自由意思をおかすことになる。だから、私は言わない」

「なんでだよ!なんでだよ! そんなやつの自由なんてどうでもいいよ!」

「だめだ。これは天国のおきてなんだ。教えない」

「神様のドケチ」

僕は小さな声でめいいっぱい嫌な顔をして答えた。


そして、神様にくるっと背中を向けた。ムカムカとしていたが、あっと一つひらめいた。


僕は神様のほうを向き直した。

「じゃあさ、僕を殺した犯人は教えてくれないかな」

「何言ってるの? 誰が殺したかなんて言えないよ」

「やった。引っかかった。誰かが殺したんだね。これは殺人事件だね」


「あ! あわあわあわ」神様は本気であわてている。

「もう、本当に生まれ変わりなんて認めるんじゃなかった。めんどくさい」

今度は神様のほうがふて寝をした。もう何を話しても返ってくることはなかった。


ー彼女だけではなく、僕も命を狙われたのは確実だ。一体誰が。

 同じ犯人なのか、それともバラバラなのか。

 どちらも捕まっていない以上、ミキの命がもう一度狙われる可能性だってある。

 絶対に僕が守らなければいけないのだ。


翌朝、九官鳥のタクヤが、

「なんでだよ!なんでだよ! そんなやつの自由なんてどうでもいいよ!」

としゃべり続けた。今の僕の声だ。


父と母は、首をかしげながら、「タクヤどうしたの?」と心配していた。





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