第18話 ミキはいま

気がついたら、赤ちゃんがいっぱいの部屋にいた。

どうやら、ぐっすり眠っていたようだ。前の記憶が残っているとはいえ、体力は赤ちゃんレベルだ。


「ん、なんか臭う」横を見ると、メグミが作ったねずみのタオル人形が置いてあった。

ーああ、しゃべれないって本当に歯がゆい。


「カズヤくん、おはよう」

「ふぁ!」なんか、声がする。聞き慣れた声だ。

「神様?」

僕は声がどこからしているのかキョロキョロしたがすぐにわかった。

…臭いねずみからしている。


「あのさ、神様。言っていいかな」

声が出た。ちゃんとしゃべることはできるようだ。


「なんだい」

「よりによって、なんでくそ臭い人形の中にいるんだよ」

「これだったら、タクヤくん、いやカズヤくんの隣にいても違和感ないだろ。

 何かあったら僕がフォローしないといけないからな」


ギー。ドアが開く音がした。

僕は、小さな手でねずみの顔をつかんだ。


誰かが入ってきた。どうやら看護婦さんのようだ。

「なんか、声がしたんだけど」と言ってあたりをキョロキョロしている。

何もないことを確認すると、またバタンと戸をしめた。

ーわ、まずい聞かれてた!気をつけないと。


「こら、痛いな。何するんだ」神様が怒っている。

「ごめんごめん」僕は、バブーと笑った。ああ、これから大変だ。

しゃべったら駄目だし、体力もないし。適当に泣かないと母乳ももらえないし、

おしめもかえてもらえないし。赤ちゃんも楽じゃないぞ。


「神様、一つ聞きたいことがあるんだけど」

「なんだい」

「あのさ、ミキのことなんだけどさ…ミキが受験生ってどういうことなの?」

「ああ、それか、うーんとね」


ネズミは上を向いた。表情はいまいち分からないが、何か迷っているように見える。

「やっぱダメ。私はなんでも知っているけど、人間には言ってはいけないことになっているからね。自由意思を君たちに与えた以上、私があれこれ言ってはいけないんだよ」

「えー、そんなこと言わずに教えてよぉ」


僕はネズミを揺さぶった。

「グエっ。じゃあ今回だけだぞ」

「やったー」僕はバブバブと手をたたいた。


「ミキちゃんはね、君が死んで1週間後に、路上で刺されたんだよ。しかもお腹を刺されちゃってね。意識が戻ったのが5月だったから受験できなかったんだ」

「ええ! 誰が? なんで刺されたの?」僕はまた大声を出した。

「こら、カズヤくん、大声を出したらまた看護婦さんが来てしまうから」

今度はネズミが僕の口をふさいだ。く、くさい。

ーメグミめ。ちゃんと洗ってから人形を作れよ。もう。


「それは言えない。誰がなんのためっていうのは言えない」

「なんでだよ!」

「だから声が大きいって…。それはその誰かは君じゃないからだ」

「どういう意味? 納得出来ない」

「私は君だけじゃなくて、人間全員に自由意思を認めている。こっそり刺すというその人の自由意思を歪めるわけにはいかないんだ。いま話したのも特別中の特別だ。

 というか、生まれ変わりを認めたのは、今までで君だけだからね。ああ、だから嫌だったんだよね。めんどくさいから」


ネズミはダルそうに寝転んだ。

僕は一晩眠れなかった、と言いたかったけど、赤ちゃんなのですぐに睡魔におそわれた。ああ、この体がうらめしい…。


















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