第13話 スキャンダル

元旦から僕たちは、デートを重ねた。

とはいっても、外でデートは出来ない。場所は、僕の家だ。


何事もなかったかのように、岩井さんが每日ミキを見送りにきていた。今度はマネージャーとしてだけではなく、父親として。ミキは芸能活動があるから、苗字を変えることはなかった。


しかし、僕としては複雑な気分だ。だって男女の関係にあった二人が、親子として一つ屋根の下で暮らしているんだから。もちろん、ふたりとも墓場まで持っていくつもりだろう。僕の知るよしもないが。


「あー、早く受験終わって欲しい」

「ほんとだね」

僕たちのデートは、こたつで冬休みの宿題と受験勉強だ。向かい合ったこたつで足を伸ばすと、ミキの足に触れる。ドキドキする。はっきりいって集中できない。


僕の部屋でのデートは禁止だった。母曰く、「余計なことを考えてしまうから」とのこと。全くもって、正解だ。


「お兄ちゃん、ミキ姉ちゃん、CD借りてきたよ〜」

妹が帰ってきた。もはやこれはデートではない。


青色の袋からCDを取り出して、メグミはミキに手渡した。

「あら、『それが大事』じゃない。この曲好きよ。聞かせて」

「やったー! じゃあかけるね」


負けないこと 投げ出さないこと 逃げ出さないこと 信じ抜くこと

ダメになりそうなとき それが一番大事


「本当だな」と僕はぼそっと言った。ミキのこと投げ出さなくてよかった。本当に。こうして笑い合えるなんて、本当に幸せだ。たとえふたりきりになれなくても。


「おやつよ〜」台所から母の声がする。ホットケーキミックスで作ったドーナツと紅茶がこたつに運ばれてきた。と同時に、母もこたつに入ってきた。

ちゃっかり4人分ある。


「ミキちゃんは、冬休みにお仕事の予定はあるの?」

母がストレートに聞いた。ミキが每日のようにうちに来るから気になったのだろう。

「雑誌のお仕事は、お正月休みなんです。新学期ぐらいからポツポツ入ります。ああ、美味しい!ドーナツすごく美味しいです。ありがとうございます」


ミキの笑顔を見ているだけで元気になる。


「ミキ姉ちゃん、テレビには出ないの?」

「うん、去年映画の話があったんだけどね、あれがなくなってから予定がないね」

残念そうな顔をした。


ホント、映画が中止にならなければよかったのに。でも映画が中止になっていなかったらいま付き合えていなかったかもしれない。

 あ、でもでも映画の話がそもそもなければ、岩井さんとあんなことにならなかったのに。

 ーああ、頭がパンクしそう。


僕はこたつで寝っ転がった。ふっとミキの足にあたった。

「わー!」突然ミキが両手で足をひっぱった。

「うふふ」「もう!」

4人で大笑いをしたのは、これが最後になった。



1月6日朝8時、1本の電話がなった。岩井さんからだった。

「今日からミキはしばらく外出も電話もできなくなりました」

「え!」

「ごめんね、もう電話を切らないと。他にもあちこち電話しなきゃいけないんだ」

「ちょ、ちょっとまってください」


ガチャ。一方的に電話が切れた。

何があったんだ。昨日まであんなに笑い合って、楽しかったじゃないか。


居ても立ってもいられなくなって、家を飛び出した。


ミキのマンションまで走れば5分もかからない。僕は全力で走った。

最後の曲がり角をまがったとき、とんでもない光景が目に飛び込んできた。


見覚えのある人たちがマイクを持って道路を占拠している。

他にもテレビカメラを持った人たちが何人もいて、車も10台はとまっていた。


そのうちの一人が口を開いた。

「人気トレンディ俳優の近藤俊彦さんの新恋人はなんと15歳の雑誌モデル、松村ミキさんです。キス写真の真相はいかに」


ー嘘だろ。ミキは僕の恋人だ。每日家に来てる!

叫びたい。でも…。駄目だ。


僕は、喧騒の人たちに背中を向けて、フラフラと歩き始めた。


1月7日。明日、僕は死ぬ。













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