第2話  宇宙と子宮

「わわわわわ!」

すさまじいスピードで落ちて行く。あれ、ここ地球じゃないよね。

真っ暗な中に大きな岩が無数にプカプカ浮いている。

「え、ここ宇宙!?」


神様は宇宙に自分を落としたのだ。

「なんだよ、これ。キイテナイヨ〜!」

あまりのスピードに僕はもう意識を保てなくなってしまった。



ー気がついたら、また暗闇の中にいた。

「おい、生き返るんじゃなかったのかよ」

と、起き上がろうとしたけれども起き上がれない。あれ?


どこからか声が聞こえてきた。

「タクヤくーん、あんまりあばれないでね。お母さんがしんどくなるから」

「ふぁ?」

「そこ、お腹の中だから」

「え」


僕はお腹をのぞきこんだ。へそから何かが出てる。


「ちょ、ちょっとちょっと。普通生まれ変わりって赤ちゃんからやらせるんじゃないのかよっ! なんで生まれる前からやらせるんですか!」

と色々まくし立てて気がついた。これ、心の中で会話をしている。そうだよね。胎児がしゃべったらホラーだ。


「じゃ、生まれる前に色々確認事項を説明するね」


ん、説明は前回聞いたけど。

ということで、僕のほうから逆に確認をしてみた。

「前世の記憶を残したままに生きる。で、その記憶を誰にも話してはいけない。でも話しちゃったら前世の記憶がなくなる。っていう話ですよね」

「まあ、そうなんだけどね。でも、君は多分大事なことに気がついていないね」


え、どういうこと?ルールなんか漏らしたのか?


神様も僕もしばらくだまった。


するとごおおおおという音が聞こえてくる。そうか、生まれる前のお母さんのお腹の中はこんな音がするんだな。最初から人間は、完全に静かなところから始まっていないのだな。


「タクヤくん、私は君になんのペナルティも与えていないんだよ」

「え、でも前の記憶を誰かに話したら記憶を失うって、いうのはペナルティなんじゃないの?」


また沈黙があった。何にも君はわかっていないなという空気だけが伝わってくる。


「君、前の記憶を話したら忘れるというのは、君がいつでも前の記憶から解放されて生きられるってことなんだよ。

いつでも新しい人生を歩むことができる。他に好きな人ができたら、だれかに前の記憶を話せばいいんだ。


それに誰が前の記憶なんて信じると思う?冗談だと笑われて終わりだろう。君もその瞬間、前の記憶を忘れちゃうんだし、君すら冗談を言ったという認識になるんだよ」


ーあ、言われてみればそうだ。前世の記憶を言ったら死んじゃうとかっていう話ではない。それに死んだって、天国の楽園だ。僕は死後の世界が楽しそうなことを知っている。

正直、僕にはなんのデメリットもないじゃないか。


「罰を与えないのは、僕の君への愛情なんだよ。そして、君が本当に生まれ変わってミキさんと結ばれるのかどうかも見てみたい。

言っておくけど、生まれ変わりを許してたのは君が最初で最後だからね。本当に特別なことだから、新しい人生を大切に生きてくれよ。じゃあな、シュワッチ!」


ーうーん、シュワッチって自分で言うのか。


しばらくすると声が聞こえてきた。


「ただいま〜」

ーあ、お父さんの声だ。

「パパ。おかえりなさい」

今度は大きな声だ。母の声だ。


神様は約束通り、もう一度同じ両親の元に連れてきてくれたんだ。嬉しい。

その気持ちを伝えたいけど、声がでない。


ーあ、そうだお腹をキックしてみよう。


「あ、いま動いた!」

「ほんとかっ」

両親は嬉しそうだ。調子に乗ってバコバコキックしてみた。


「ねえ、ちょっとお腹の子大丈夫かしら。ボコボコするんだけど」

ーしまった。変な心配かけてる。


「大丈夫だよ。それだけけるなら元気な男の子かもしれないな」

ーあったりー!

「そうね、今度はタクヤの分まで生きてね」


ごめんね、お母さん。本当にコンドームを持って死ぬなんて最悪だよね。今度は変な死に方しないで、最後まで親孝行するからね!

僕はポンとひとつ軽くお腹からパンチをした。


外から温かい感触がする。きっといまお腹をなでてくれているにちがいない。こうして母の愛を生まれてくる前に赤ちゃんは感じているんだなぁ。


僕は、気持ちよくなって、眠りに落ちていった。

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