第59話 恋の運命
「あなたがミーナね」
私じゃないミーユが私に尋ねる。
「うん。ねえ、ミーユ。早く体に戻って」
私はミーユに言った。私達の下では、頭から血を流しているミーユが横たわっている。周りの人達が医者を呼んでミーユの手当てをしている。
「ううん。私、今うれしいの。私、ずっと死にたかったの。きっとあなたが私の体の中にいた時は眠っていたの。死ねなかったの。でも、今は私、死ぬと分かるわ。私、分かるの。皆がいるところが分かるの」
ミーユがにっこり笑って言った。
「で、でも……」
「ミーナ」
「ミーナ、しっかり」
「逝くなー。俺を置いて逝くな! 約束しただろう!」
私がミーユに話かけようとしたら、龍に乗ったタケルイとダニーとマイシが来て、ミーユの体を抱きしめた。
「ほら、あなたは、あの体に戻るべき」
「で、でも。ミーユこそきちんと生きるべき。いくらトニーやカイシやみんながいなくても……」
私はミーユに皆がいなくても生きるべきと言おうとしたけれど言えなかった。私にはミーユの悲しい気持ちを知っている。
「早くあの体に戻って、私の分も生きて。龍騎士には、龍姫が必要なの」
私もあの三人を失ったら、生きていけないと思う。それほど、あの三人を愛している。
「ねえ、どうして私はあなたの体に入ったんだろう」
これは、独り言。
「きっと私とあなたは一緒なのね。前世のあなたと私が交差したのよ。これが運命。さようなら。私はみんなが待っているところを知っているから逝くね。ねえ、一つだけお願い。あの恋織物を貧しい村、私の育った村のようなところで恋織物の作り方を教えて。私は、私は、どんな女の子も恋織物を着て結婚式をあげて欲しいの」
「ええ、わ、分かった。約束する」
「よかった。あなたの恋織物の名前、分かっているでしょう?」
ミーユが聞いた。
「ええ。あの織物はミーユと私の恋織物」
「ありがとう」
ミーユが綺麗な笑顔を見せて消えた。私は、私はミーユの体に帰りたいと願った。
「ミーナ、ミーナ、そのドレス変わった形だなあ~」
今日はきちんとした神官の正装をしているバロンさんが、私の着ているドレスを見て言った。
「うん。でも私はこのドレスを着て結婚式に出たかったの」
私はバロンさんの腕に自分の腕を搦めて言った。
「まあ、ドレスの形はどんなのでもいい。それにしても綺麗な恋織物だ。ミーユの髪の毛の色と目の色が混ざっている感じだ。それにその胸にあるリボンはブラックの色。まさにミーナの龍騎士のそれぞれの龍の色だなあ。いやー、それにしても綺麗な布だ」
バロンさんが私の恋織物を褒めた。
「ありがとう。私、皆への気持ちを、糸にして折り合わせたの。それぞれの糸が複雑に織り混ざって、一つの恋織物が出来たの」
私はこの恋織物が完成した春に、ミーユの村へ行った。丁度雪解けの春頃だった。村の面影の残る中、草木が村を多い始める。きっと後何年かするとここに村の面影なんてなくなると思う。この村のことを知っている人は、元々少ないからこの村のことを覚えているのは私だけ。私にはまだミーユの記憶が鮮明に残っている。ミーユと私は同じだからかもしれない。でもこの体には私しかいない。以前のようにミーユを感じない。ミーユは死んだ。消えたんだ。私はタケルイとダニーとマイシに手伝ってもらい村のみんなの墓を作った。その中にミーユもいる。
あの日私はすぐに目を覚ました。部屋にいた皆h私がミーナなので驚いていた。タケルイは起きた私にしばらく抱きついていた。マイシもタケルイから私を取り上げて抱きついて離れない。ダニーに私がまた倒れますよと脅されてやっと離れた。皆私が戻って泣いて喜んでくれた。私も、私も、戻れて嬉しい。
私はタケルイとダニーとマイシに、私とミーユのことを話した。もう三人に秘密ごとをしておきたくない。三人ときちんと向かい合いたかったの。三人は、私が異世界から来たことに驚いていたかもしれないし、美奈がミーユに転生して事件の後に美奈の記憶を想い出したのかもしれない、と。あまりはっきりと意味が分からないようだった。
「ミーナは、ミーナ。どんなミーナでも私は愛しています」
と、タケルイが言った。
ダニーにどうしてあの北の門にいたのか聞かれた。本当は言いたくなかったけれど、コリーとミーユの会話を伝えた。ダニーが口を固く閉じていた。
何日か後にユライとコリーが結婚して隣国に移り住むとダニーが報告した。コリーは龍騎士が龍姫なしに生きられないと知らなかったらしい。コリーは私に死んで欲しいと一瞬思ったことをダニーに白状した。でも私の死がダニーの死と知った後にすごく泣いたらしい。だからユライと結婚してこの国から離れることに抵抗をしなかった。そして、ダニーの両親もその決断に満足していた。もしかしたらユライとコリーの結婚は本当に皆にとって、よかったことなのかもしれない。
「私のせいで、誠に申し訳ありませんでした」
ダニーが私に謝った。
「これからは、一生、私は、今以上にミーナを愛して守ります」
ダニーが片膝を付いて剣を胸に当てて誓いの言葉を言った。なんかお姫様のようで恥ずかしかった。
「ミーナのドレス、きれ~。でも、俺、早くそのドレス脱がすの楽しみ~」
マイシが私とバロンさんのいる待合室へ来た。今日は龍騎士の正装をしていてかわいいけどカッコいい。
「コラ! テメー、何でここにいるんだ! 神殿で他の奴と待っていろ!」
バロンさんがマイシの頭を殴ろうとしたけど、マイシはそれを避けた。
「だって~、ミーナのエスコート、いっつもバロンさんとタケルイだろ~。だから、今日は俺がする~! タケルイ、汗かきながら神殿でうろうろしていて、うざい」
マイシがかわいい顔なのに、口を尖らして言った。
「でも、今夜たのしみ~。俺の技術、他の奴等よりすごいところ見せてやるよ! ミーナをひいひい言わせるねえ。でも、三人一緒だったら、本当にミーナ、ひいひい言っちゃうねえ」
どうして、どうして。そのことを忘れようとしていたのに、マイシは今式の前で緊張している時に思い出させるの!
「でも、それが俺達の愛だから心配しないでね。やっぱり俺、抜け駆けはよくないから戻る」
マイシはあっと言う間にいなくなった。
「はあ~、相変わらずあいつは猿だな。やっぱりエスコートは俺しかいない。この役は絶対にアイツらに譲らないからなあ。では、行こうか、龍姫様」
バロンさんがウインクをして言った。
私とバロンさんはたくさんの人達がいる中をゆっくり歩く。周りから花のシャワーを浴びる。みんなの喜びの歓声の中をゆっくり歩く。何人かが私のドレスについて驚いている。
神殿に私の愛した三人の龍騎士が立っている。周りは私の姿を見て驚いた顔をした後ににっこりと笑った。
私のドレスは美奈が着ていたセーラー服の形をしている。流石にスカート丈は、短いのがダメだったから足首まで長いけれど。私は恋織物でセーラー服のドレスを作ってもらった。私は美奈とミーユと結婚式に出たかった。
「綺麗です」
タケルイが私の腕をバロンさんから受け継いで言った。
「どうぞ恋織物の名前を教えて下さい」
ダニーが聞いた。
「早くキスしよう」
マイシが私の隣をダニーから奪って言った。
「もうマイシ。きちんと式をするの! タケルイ、ありがとう。タケルイもカッコいい。ううん、みんなカッコいい。ダニー、この恋織物の名前はねえ、えとね『恋の運命』」
私とミーユは、自分たちの運命をきちんと受け止めるの。人の思いをきちんと受けとめ、自分の恋を大事にするね。私達の運命の糸は、綺麗な恋織物を織れましたか?
(完)
恋の織物(改稿版) shiki @ShikiAki
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