第2話 「バイトの真実と」

学生寮に住むのは私くらいでだいたいみんなはこの紅城機構高校には「家族のいる自宅」から通っている。

経済的に厳しい家庭か私みたいにイレギュラーな人がここ学生寮には少なからずいてほそぼそと生活を営んでいる。


私には両親はいない。

もともと科学者の父親だけに育てられて中学校に入学するくらいの頃に父親は姿を消したのだった。何故か、それはわからない。もともと私より研究が大事な父だったのであまりショックではなかったが。

今でも学費は何者かに払われているのが救いでそれが父なのかはわからない。


とにかく独り身でこの超広大な東京で暮らしていくというのは気楽そうで色々大変、ということだ。ただの1人も、いや頼れるのは『あの子』だけ。


自転車を停め夜空を見ながらそんなことを考えていると知ってる顔がのぞかせた。


「雪菜ーっ!いた!大丈夫ですか?!」


「いやー、悪いねなっちゃん。道迷っちゃってさー」


例の採用されたバイトの説明会に行こうと自転車を走らせたが道が全くわからなくなり私の唯一の友達、湯雲ナツに夜道を走らせるハメになってしまったのだ。

私はカクカクしかじかと状況を説明する。


「地図アプリで住所いれてもわからないって雪菜、全然方向音痴が治ってないじゃないですか!」


「てへへ...ごめんよなっちゃん!今度なんかおごるからさー」


「それはいいですけど...私のひつじ、あっ...執事、雪菜に1人つけましょうか?」


「なっちゃんも執事を羊っていう癖治ってないね、執事だなんてそんなたいそうなのはいらん!」


「それは言わないでくださいっ雪菜!」


ナツとは小学生の時からの友達でこの子はとある財閥の娘、いわゆる超お嬢様。

お父上が電子機構学の第一人者とかなんとか。幾万回お宅にはお邪魔させてもらっているが半端じゃない広さの豪邸と半端じゃない数の羊のコスプレをした執事達は変わらない。

そしてこの目の前にある圧倒的な胸の大きさも変わらない、私の貧弱な代物では到底太刀打ちできそうになかったのでとりあえず睨みつけておく。


「ちょ、ちょっと雪菜!視線を感じますっ」


「じゅるり」


「舌なめずりはやめてください!もうっ」


あたりはさらに暗くなっていき交差点にも次第に街灯がつきはじめる。

時刻を確認すると19時32分の表示。

「ここから結構近いから」と「心配です!」というナツの提案に押し負けるとナツにバイト先まで案内してもらう事になった。本当にナツがいないと東京では暮らしていけなかったとしみじみ思う。

自転車を押しながらナツの指示で目的地に向かっていく。


「それにしても初バイトですか雪菜!一体全体何のバイトで?」


「それがさ、わからないんだよね。レアーズ関連のバイトみたいなんだけど...。時給も結構良くてなによりレアーズがただでプレイできるってのに飛びついて即決よ」


「なんだか怪しげな気もしますねそれ。張り紙だけの広告でしかも書類を送っただけで採用とは...」


「まぁたぶん大丈夫でしょ!私の送ったレアーズへの情熱文にきっと感動したんだよ!」


「ううむ...なににせよプレイできるのなら良かったですね!物凄いやりたがってたから。私が1から教えてあげますよ」


「それは有難い。なっちゃんはガチプレイヤーだもんね...」


ナツは学校でも有名なレアーズのガチ勢で『レアアイテムがでたらしい』とか『レベル高すぎ』などとよく噂されているのを耳にする。課金することで強いアイテムが手に入ったりシステム上無課金者と明確な差がついていくわけではないがコスチュームだけは課金コンテンツでどうやらナツは一番それに凝っているらしい。

ファンタジー世界のコスチュームというと派手だったり露出度が高そうだがナツは大丈夫なのだろうか。それは1度しっかりと確認しなくては。

自転車を押しながら私はそう強く思った。


*

「ここ、みたいですね....雪菜...」


「う、うん...」


ナツのスマホ画面をよくみてもう1度確認するがやはり住所もここで間違いようであった。

目の前にあるのはいかにも廃墟ビルでヒビが至るところに見受けられ当然人気も全くしなかった。

カラスも何羽かビルの周りを旋回している。

だが...そんなことも言ってられない。


「わ、私は諦めんぞ!!なっちゃんついてきな!」


「私もですか雪菜!?ちょ、ちょっと雰囲気が怖い...」


私はナツと腕を組みビルの中へ進むことにした。どうしてもレアーズの可能性は捨てきれないのだ!

メールに書いてあった4階本部を目指す。


「ここだ。一応会社名はある...」


「そう...ですね」


402号室。ボロボロの木製のドアには電脳警察本部と記載された札が1枚かかっている。

電脳警察...?胡散臭さがMAXになってきたがなにはともあれいくしかない。


「あ、開けるよなっちゃん」


「ええぇ...私も一緒にですか...」


ビクビク震えるナツの手を握りドアノブに手をかける。そして...


「おりゃぁっ!」


勢いよく、思い切り扉を開くとまるでそこにはsf映画の宇宙船のようなメタリックな壁面と緑色に輝く配線達が広がっていた。

それはこのオンボロビルからは到底想像が付かないレベルで整備され存在していた。


「な、なにこれ....」


「こ、これは...」


私達はおもわず顔を見合わせる。互いにポカーンとしていて思考が定まらない。

信用できるのかできないのかもよくわからないこの圧倒的な未来感。

そんなこんなで暫くフリーズ状態でいると廊下の奥から1人の女性が姿を見せた。

私達は我に返って咄嗟に頭を下げる。

女性はなにやら涙ぐんだ目でこちらを凝視しているようだった。


「ぎゃぁああ!本当にきたぁ!!!ありがとうありがとう!ありがとうぅ!」


女性は走ってこちらに向かって私達と思い切り握手をしてくる。


「あ、あの...」


女性ははっと我に返ったのか咳払いをして


「採用おめでとう!私はここの社長の冬城千秋!我社電脳警察本部へようこそ!!」


「で、電脳警察...??」


「文字通り!うちはレアーズ内のパトロールを行っているのさ。そんなわけで君にはレアーズ内のチーター駆除や事件、バグ解決に尽力してもらうことになる」


「事件解決...バグ...チーター?」


うまく頭に入っていかない。とにかく私が気になる事は一つだけだ。私はナツの顔を見て頷く。


「あの!レアーズはプレイさせてもらえるんでしょうか?」


「当然!!学生だから平日は学校以外で8時間!休日は12時間!時給は950円!シフトは自己申告!」


冬城と呼ばれる女性はまたはっ、と気がついて再び唸り『しまったぁ!』と叫んだ。


「はい!大丈夫ですっ!よろしくお願いします!!」


私は当然の如く快活に答える。レアーズができるならなんだっていいのだ。


「「えっ」」


冬城さんとナツは驚いた様子で私の顔をのぞき込む。


「へっ?どしたの?」


「雪菜!勤務時間勤務時間!よく考えてみてください!」


ナツが私に必死に訴えかけてくる。どういうことだろうか?


「き、勤務時間.......?平日は8時間。休日は12時間?...........うーん。うん。平日が8時間で休日が12時間。はいはい。なるほどなるほど...」


「って超絶ブラックじゃん!!!!」


私はおもわず叫んだ。

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百ノ瀬雪菜はゲームがしたい。 ぱりん @parin24

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