百ノ瀬雪菜はゲームがしたい。

ぱりん

第1話 「採用通知」

『じゃあ6時に第7遺跡で集合ね!』


『あいつレア泥したらしいぞ...』


『お前レベル低くない?』


男も女も皆「Rares the Seek Online」(通称レアーズ)に夢中だ。帰りの教室はレアーズの話でいっぱいになる。やれやれと言った感じだ。

つい最近までお気に入りのバンドの話題で盛り上がっていた女の子もレアーズのレベル上げやアイテム集めにいつのまにか奮闘していて話に全くついていけない。


はぁ...。


一ヶ月前のことだ。

世界で初めて電子空間を利用した人類待望の全体感式ゲームがリリースされた。

全体感式というのはつまりゲームに入ったみたいということだ。生身の体がゲーム上に登場し痛みを感じたら痛いし寒気を感じたら寒い。そんな感じらしい。

どのようにしてそれが可能になるのか具体的なことは知らないが聞いた話によれば

物理的な肉体から電子体というものへ変換されるらしい。つまり現実世界では体は原子で構成されるように電子世界では電子で構成されるだけであまり大差はないというのだ。

言葉ではかなり怖いがどうやら今のところ事故もなく安全な技術みたいだ。

「Rares the Seek Online」はファンタジーが設定で基本的にはRPGゲームのように進行するらしい。

基本的に、というのはシステムが少しというか結構変わっていてダンジョンやボスなどでドロップするアイテムの《レア度》によってプレイヤーのスキルや強さが増強されていくのだ。

通常のレベルももちろんあってそれは基礎値といって言わば下地にすぎず実質レアアイテムによるパラメーターの上昇のが明らかに大きい。

プレイヤーはそのレアアイテムを探したり奪い合ったりということで楽しむらしい。


....はぁ。やたら詳しいがプレイはしたことがない。


....

........

.........やりたい。

.........なんでもいいからプレイしてみたい。

.......ぐぬぬ。


「ピロリン」


いつの間にか誰もいなくなった夕暮れが差し込む教室で悶絶しているとスマホが鳴った。私は反射的に手を伸ばす。


「はい!!はいはいはいはい!あっ、メールか....」


件名は例のあの張り紙の会社からだった。

ふぅ...。落ちつけ私。

有り得ないほどに心拍数があがっていて地響きみたいに音が伝わってくる。

大丈夫だ大丈夫。

おそるおそる震える指先を画面に近づける。

そして-------------------------。


「やったぁああああ!採用ぅう!!これで私もレアーズプレイヤーだ!!」


誰もいない教室で1人叫ぶ。

メールの文面に表示された『あなたは採用です』の文字。


これほど素晴らしい日があるだろうか。

人生初バイトにして憧れのゲームもできるなんて。おもわずじんわりと目から汗がでてくる。


「ん....??あれ続きが」


指をスワイプさせ続きを読むとどうやら会社の住所が書いてあって、説明会があるので今日の夜8時にこい、という趣旨であった。学生寮からもそこまで遠くない...。

遠くないけど...。


「今日ぉ?」


本当に今日というのは急だなぁ...。

そんなバイトあるのだろうか。

うーん。色々ジャンプ読んだりとかなぁテレビとかやること多いんだよなぁ..。

ふとレアーズをプレイする私の浮かぶ。

皆でパーティーを組んでダンジョンに挑んだりわいわい一緒にご飯を食べたり。

すっごいレアアイテムゲットできちゃったりして...。グフグフ...。


気がつくともう私は走り出して学校を後にしていた。顔からにやにやがとまらない。


「よーし!やったるぞー!!」


...

.....

......


まさかこのバイトが超絶ブラックだったとはこの時誰が思っただろう。

しかもあんなことになるなんてー!?


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