#4
「じゃ、じゃあここがそのアンデル王国なの?」
「そうよ。まあ、アンデル王国の中でも一番辺境の村だけどね」
つまらなさそうに言う彼女は足を小さくぱたぱたと動かしている。
「それで、魔王を倒す目処みたいなのはついてるの?」
窓から差し込んでいた太陽の光は、瞬く間に雲に覆われた。
それと同時俯いた彼女が、気づかないほど一瞬の間を置いて、口を開いた。
「うん、半年くらい前...だったかな。学院の卒業生と、数人の強行派の先生たちが魔王討伐隊を組んでね」
そこで彼女の言葉は止まった。彼女の冷めた声色からも、何があったかは察しがついた。
「その討伐隊はどうなったの?」
それでも、そんな言葉を吐いてしまった。
分かっているのに、けれど、聞かなければいけない気がした。
「......帰って、こない」
震えを抑えたような声と身体。彼女はそれ以降、口を開かなかった。
自分も何を返したらいいのか、頭の中で思考がぐるぐると回る。
しんとしたその空間は、自分と彼女の二人だけ、時が止まったようでもあった。
ぐぎゅるるる。
シリアスな空間に似つかわしくない、静かな部屋に響いた、胃を絞る音がそっと宙を遊んだ。
ちら、と音の主の方を見る。頬が赤い。
「...ねえ、お腹すかない?」
目の前の彼女は恥ずかしげに艶めかしい髪を指先で弄ぶ。
照れ臭そうに、はにかむ彼女。後光がさすような綺麗な笑顔に心奪われる。それはきっと、誰が見ても美しいのだろう。
そんなことを一瞬で頭に巡らせていると、襲われた空腹感。そういえばここに来る前も、何も食べていなかった覚えがある。
「僕もちょうど、お腹が空いたみたい」
はにかむように彼女に笑いかければ、立ち上がった彼女は得意げに言った。
「私、結構料理は得意なのよ!」
数十分ほどだろうか、ほどよく鼻腔をくすぐる温かい香りと共に彼女が開口枠からこちらに向かってきた。陶器と木材が小さく当たる音が何度か響いたあと、彼女は向かいの椅子に腰掛け、こちらを見て微笑んだ。
「さ、食べましょ。口に合うと良いんだけど」
出された彩りの良いスープ。見たことのあるような、ないようなそんな具材が賽の目状に浮いたり沈んだりしている。湯気とともにほんのりとスパイスが胃を刺激する。
スープと共にテーブルに置かれたスプーンらしき木製のカトラリーを手にして、スープを一掬い。食べた記憶のある味が口の中に広がる。美味しい。
空っぽだった胃を優しく満たしてくれるそれを、もう一口、二口と口に運ぶ。
「よかった、不味くはないみたいだね」
何も言わずに食べ続けていたことに気がつき、そう呟いた彼女の方を窺う。彼女はほっとしたような顔で、スープを口にしていた。
「あの、美味しい……です」
こんなふうに純粋に良い気持ちを誰かに言うのはなんとなく恥ずかしくて、口をもごもごさせながら彼女に向けて僕はそう言った。
彼女はその言葉に顔をこちらに向けて、嬉しそうにありがとうと感謝をくれた。
タイトル未定 樹燐。 @keyrin
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