第15話 小悪魔の企み
「優吾、急げよ!部活遅れるぞ!」
「悪りぃ今行く!」
バタバタと猛ダッシュで走り去る足音。
呼ばれていたのはクラスの男子。
(こ…こんなトコにあの人がいる訳ないじゃん、バカだなぁ、もう!)
思い切り振り向いてしまった。
(会いたくないなんて言って、これじゃ何か期待してるみたいじゃない)
私のバカ!みちるは頭を抱え込んだ。
「どしたの?みちる、頭痛い?大丈夫?」
「あらら?なーんか顔赤くない?好きな人でも出来たのかなぁ?」
…天使と悪魔というべきか。そろそろと伏せていた顔をあげると、二人の親友が揃ってこちらを見下ろしていた。
かたや不安げに眉根を寄せて、かたや意味ありげな薄ら笑いを浮かべて。
「あ、赤い顔なんてしてないよ、テストが難しすぎて頭抱えてたの!」
痛い所を突かれ、言い返してはみたものの…心の中にヒュルルと冷たい風が吹いた。テストは散々、オマケに好きな人すらいないとは。「JK」と、もはやブランドのように呼ばれる現役女子高生のリアルが、果たしてこれでいいのだろうか…?
「なぁ〜んだ、そうなの?つまんない」
そんなみちるの複雑な心中など知る由も無い小悪魔・内川綾はウフフと笑って、ひとつ大きく伸びをした。
「けどやっぱり高校のテストって難しいよね。私も綾に勉強教えてもらおうかな〜」
余裕たっぷりの綾を羨ましそうに見つめ、小首を傾げる香奈。最近は伸びた髪をツインテールにし、その可愛さはまさに天使級。同性ながら心が和む。
「そんな事言って。デートで香奈は忙しいクセに」
「だって…」
「おーい、香奈、帰るぞ!」
浮かれたような明るい声が、女子3人の会話を中断させた。
「あ、吉岡くん」
そう、香奈の彼氏は最初の音楽の授業で『大地讃頌』を提案した、クラスメイトのお調子者男子・
「ごめん、行くね」
軽くなった夏服のスカートを翻して、香奈が小さく手を振る。
「またね、香奈。ちょっと、吉岡!香奈泣かせたら承知しないからね!」
「うるせーよ、おい、宇野も早く彼氏つくれよ。ま、内川は無理だろーけど!」
そう言ってチラリと舌を出す。話し上手でノリのいい彼は、早くもクラスで人気者だった。
調子に乗り過ぎるのがたまにキズだが…まぁ、ご愛嬌といったところか。
「ったく、一言多いのよ」
「いいじゃん、吉岡いい奴だよ。ささ、ウチらも帰ろ」
ブーたれている綾の背を押し、初々しい二人の後ろ姿をちらと見やる。
香奈と吉岡の、楽しそうなはしゃぎ声が廊下に響いていた。
「あー、ねぇ、みちる、ちょっと寄り道して帰ろうよ」
テスト最終日。校内の緊張感は消え、開放的な空気が漂っていた。特に予定もない。最近何かと滅入りがちだったが、今日なら気分転換もできそうだ。
綾の提案を断る理由はなかった。
「オッケー。で、どこ行くの?」
すると口元を押さえ、小悪魔は不敵にクスリと笑った。
「ナ・イ・ショ!」
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