第13話 清く正しく美しく
「美しい」とは何だろう?
可愛い人、綺麗な人、この世界にはたくさんいるけど、
本当の意つ味で、誰もが認める「美しい人」とは
多分それはーー
生命力と慈悲に溢れ、力強く、真っ直ぐに凛として前に進む。
後ろは振り向かない。そんな人。
…かも知れない(笑)。
目を開けると、そこは見慣れたいつもの屋上で、他には誰もいない…
「おい、悠介!」
…はずだった。
自分より5センチ程背の高い幼なじみは、怪訝な顔つきでこちらを見ている。
「何いつまでも眩しがってんだよ?行っちゃったじゃん」
「いや、なんか…青く光って…首っつーか、喉っつーか…」
「ネックレスでもしてたんじゃね?てか、追っかけないの?」
薄い唇の端を引き上げて、幼馴染・
「そんなんじゃねーよ」
「そうか?結構イケてたと思うけどな。いつもオマエの周りにウヨウヨいる、お嬢様タイプと違ってさ。さっぱりして…」
「毒毒しくない?」
スパッと言い切ると、直人はマンガのようにブッと吹き出した。
「so cute!ま、オレのタイプはサラサラロングだけど!」
(可憐…ね)
キラリと光った、黒目がちの瞳が脳裏に浮かぶ。
「で?直人は何しに
「何しにって、冷たいな〜このモテ男!」
言うや否や、直人はテニスで鍛えた腕を悠介の首に回し、グッと力を込めた。
「
「美桜が?」
「そーだよ、1年生が2年のフロアまで来るなんて勇気いるのに、一人で来てたぞ。おまえを探して」
「全く…。またヘンなヤツに絡まれたらどうすんだよ、あいつ」
「ま、そうなったら責任の所在は全部おまえって事でケッコンだな!」
さも愉快というように、再びププッと直人が吹き出した。
「スキあり」
コンコンッと、卵でも割るような軽快な響き。こんな時はコレに限る。
「ってーなぁっ。だって親同士が知り合いだか何だか知らねーけど、あんな可愛い子放っておくかフツー?」
悠介に喰らったデコピンのせいで、微かに赤くなった額を撫りながら、直人は漸く悠介を解放した。
ケッコンはともかく。直人の言っている事も理解出来なくはないーー色白で、西洋人形のような芹澤美桜は誰がどう見ても皆可愛いと言うに決まってる。それくらいの美少女。
中等部時代から自分に好意を寄せている事も何となく分かってはいた。が…自分の方は何故かそういった感情は持てなかった。
いつも女子に追い掛けられてばかりいて、自分でも思っている以上にウンザリしているのかも知れない。
「相当疲れてんのかな、オレ…」
ーー確かにここのところ、連日受験生並みに勉強に明け暮れてはいたが。ぽつりと呟いた時、ジッと見つめる直人の視線に気がついた。
「…もしかしておまえってさ」
「オレの事好き?とか言うなよ、バカかよ」
「あ、バレた?さすが秀才〜市内5位!」
「おまえがそう言う事しゃべるから、オレが面倒な事になってんだよ!」
だから屋上なんかに来て…と、言いかけた悠介の脳裏に、つい5分前の残像がふと甦った。
『ソックリなんかじゃないわ!!』
ーーあの時、彼女は何であんなに怒っていたのだろう?少なくとも、自分は褒めたつもりだった。何がそんなに気に触ったのか、よく分からない。
「行こーぜ、ユウ!」
塔屋の扉を開けて、直人が促す。
(また、会えるかな…)
(もう一度聴きたい)
そう思ったとき、何か温かいものが胸の奥に宿った。
少女がいた場所を見つめつつ、悠介は屋上を後にした。
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