08 切欠(4)
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「僕もいろいろ話したからさ、」
と、勝手にいろいろ話したかと思えば、
「君も何か打ち明けてくれないかな? ほら、深夜にする話っていったら、そういうのが定番でしょ」
「何その暴露大会的なノリ……」
わたしに何を話せと言うのだろう。意弦は眉をひそめ、小影を睨む。
「自分のこと話すのが恥ずかしい年頃なら、そうだね……たとえば、家族について」
「…………」
そう言われても、何を、何から話せばいいのか。
「まずは……お父さん。確か、社長さんなんだよね? 仕事は忙しい感じ? そりゃそうか。じゃあ……家にもあまり帰ってこないとか?」
「うん……」
意弦は小さく頷く。父は、忙しい。最近はなるべく帰るようにしているようだが、それでもだいたい遅い時間だ。
「お母さんは妊娠してるんだっけ。何か月?」
「……よく分かんないけど……」
小影に訊ねられたことにぽつぽつと答えていく。
彼との会話は不思議と、すんなり運ぶ。会話は言葉のキャッチボールというたとえがあるが、彼とのそれは返ってくるボールにクセがなく、投げたそのままにボールが手の中に収まるような感覚があった。
「……
「…………」
そのボールに重さが乗る。何気ない質問の中に混ざり込む詮索にゾクリとする。
「たとえば、君にとって天王寺さんはどういう人?」
「赤の他人」
こればかりは即答できた。小影が苦笑する。
「天王寺さんも同じこと言ってたよ。……まあ、実の姉妹ではない、という風に解釈すればいいのかな?」
「……あの人は、うちの養子。親戚だけど血は繋がってないから、他人」
「ふうん? それで?」
「それで……わたしはあの人のこと、姉だとは思わないし、あの人だって同じ。というか、あの人はパパのこともママのことも、何とも思ってないはず」
「そう。……なるほどね」
と、小影は何か分かったように頷く。そのなんでも見透かしているかのような年上感が気に入らず、意弦は顔をしかめる。何よ、と睨みをきかした。
「君のそれが天王寺さんにだけ効かない理由が分かったんだ」
「…………」
「これは問題だね」
「だから何よ」
「自分の胸に手でも当てて、考えてごらんよ」
小影は答えをごまかすばかりで教えてくれず、意弦の不満は募るばかりだった。
「とりあえず、まあ……君が家族のこと大事にしてて、大好きだっていうのは伝わったよ」
だけど、と小影はそこで少し間をおいてから、
「今の君の愛情はやっぱり、家族にとっては『呪い』でしかない。大事に想うならこそ、君はそのことをちゃんと考えないといけないよ」
そう言って、ひっそりと微笑んだ。
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