06 切欠(2)
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「……?」
「そう。好き……執着かな。それがなければ、たとえば……極端な話、目の前で家族が殺されそうになっていても、冷静でいられるんじゃないかな。冷静に……どうすれば助けられるか、考えることが出来る」
絶対的な理性の根本を成すのは、そうした感情の欠如だ。
「どうして……」
意弦はあ然とする。
「そんなことまでして」
感情を捨ててまで、何ものにも揺らがない理性を手に入れようと思ったのか。
「君たちに攫われた、
だから、人より『呪い』に耐性がないのだと。
そんな友人を助けるために――ノロイちゃんと契約した。
感情を手放したのは、ノロイちゃんの力を得る対価であり、揺るぎない理性を得るために必要なことだった。
「まあ成り行きというか、結果的にこうなったって感じだけど」
「…………」
小影の言葉をすぐには呑み込むことが出来ない。話を聞いて生まれた感情をどう消化すればいいのか、整理がつかない。
「ところでその登和なんだけど、君、どこかで見てないかな?」
訊かれ、意弦は頷いた。ある日、
「わたしと一緒に監禁されてた」
「あー……」
得心いったように頷く。その安否が知れてほっとしたようだ。意弦が真射にそうされたように拘束されているとでも思っていたのだろう。実際はそんなことはない。
今はどうなっているか知らないが。
「助けるためって言うなら……」
麺をすすり、咀嚼してから、意弦は訊ねる。先の小影の話を聞いて、思ったことがあった。
「トワがその力を手に入れればよかったんじゃないの……。あの赤いやつと契約すれば、トワも呪われなくなるんじゃ」
「君は呑み込みが早いね。確かにその通りだけど……まあ、状況がね。その時は僕がなんとかしなきゃって思ってて。僕がそうする他なかった。でも……最初からこうなると知ってても、僕は自分が契約したんじゃないかな。僕が言うのもあれだけど、登和にノロイちゃんみたいな怪しいものと契約とかさせたくないし」
「…………」
意弦はカップ麺をすすりながら小影をジッと見つめる。少し、納得しかねた。〝好き〟を失うということに実感は持てないものの、それが及ぼす影響はいろいろと想像できたからだ。
他の誰かを、何かを好きになることが出来ないということは、興味も湧かなければ熱意も生まれないということじゃないか。何をするにしても、それはまるで義務教育の授業みたいに退屈で……。
そんな人生は、楽しいのだろうか?
意弦のそうした懸念を見透かしたかのように、小影は微笑する。
「後悔はしてないよ。お陰でいろいろと人助け出来てるし……登和も、なんだかんだで楽しそうだからね」
本当に〝好き〟という感情を失っているのか、分からなくなるくらい穏やかな表情だった。
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