14 足を引っ張る呪い(5)
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足元にいる演劇部員の体に赤い弾丸が炸裂する。
(……ノロイちゃん、
足首どころか太腿にまで腕を伸ばしていた少女たちが散らされる。彼女たちの体に被害はないが、その心を蝕む『呪いの影響力』は確実に削ぎ落されている。拘束する握力が弱まり、小影は前進することが出来るようになった。
(よし……まずは回復しきった『想念』を打ち消して、僕の話を聞いてもらえる状態にしないと――)
「ノロイちゃん!」
草枷環に向かって駆けながら、小影は赤い影に呼びかける。すると応じるように、伸ばした小影の右手に赤色をしたぼろきれがまとわりつく。グローブ代わりのそれを握り込んだ。
(ノロイちゃんの力は僕の感情を直接相手に伝える。これで最初から殴ってればこんな面倒なことにはならなかったけど……それは相手の心にダメージを与えるリスクがある。だから使うのは、)
環へと一気に踏み込み、
(『聞く耳を持たない』ようにする心の壁とか凝り固まった『想念』を破壊するために)
小影は問答無用、環に向かってその手を振るった。
――想いを砕く。
環の体が軽く吹っ飛ぶ――なんて腕力強化補正が得られるわけはなく、環は突然小影に顔をはたかれ、ぼう然とした様子でよろめいた。
(さすがにグーはマズいから思わず手加減しちゃったけど――良かった。
ぼう然と――何も考えられない一時的なショック状態となったその隙に、小影は携帯電話を拾って素早く操作する。
録音が再生される。
『――ところで委員長、君はどうして劇のヒロイン役に到辺さんを選んだの? まさか好みだからとかそんな理由じゃないよね? だとしたら批判殺到だよ』
『無論そんなことはない。というか俺だけじゃなく部長や本正も到辺を選んだ。
ノロイちゃんの力で一時的にぼう然自失となった環は地面に尻餅をついており、耳を塞ぎ聞くまいとするようなことはなかった。小影は今の一撃で、そういう悪あがきをしようとする意思を奪ったのだ。
『あの劇の脚本を書いたのは部長だ。部長はあのヒロインを「残念な子」として描いている。残念で、不幸な目に遭ってドレスを失うドジな少女。到辺はそのイメージにぴったりだったというわけだ。何の因果か、審査の際にあいつは登場から転ぶわ台詞は間違えるわで部長のお眼鏡に適ったらしい。お前もあいつに残念賞を贈ると言っていただろう。部長も同じ思いだったんだ。あの人はおかしいからな』
『どういう人かは知らないけど、三年生におかしいとか言っちゃいけないよ』
『お前はあの人を知らないからそういうことを言える。……まあ、俺も部長と同意見だ。あれほどヒロインのイメージに合うヤツも珍しい。それに、俺はあいつが隠れて練習しているのを知っている』
『おかしいね。
『ああ。あいつ自身は隠れてやっているつもりらしいが、周りは結構気付いている。そういう抜けている点、だがしっかり演技力という欠点を補うために努力している点を俺は評価した。これもまたヒロインのキャラクターに合うからな。脚本を読み込めば分かることだが……説明は省こう』
『でもヒロインのイメージだけで決めていいの? ほら、草枷さんとかいるでしょ』
『ハッキリ言わせてもらえば、あいつに今回のヒロイン役は向かない。キャラクターが違いすぎる。それでも演じることは出来るだろうと俺は思う。だがそれは所詮「演技」だ。演技じゃどうやったって「天然」には勝てないさ』
『なるほど。僕にはよく分からない話だけど君が言うならそうなんだろうね』
『それに、草枷にはヒロインより相応しい役がある。「貴族」だ。あの役なら草枷の持っている「天然」が活かせる。求心力を持ち、大衆を統べるだけの指揮力があり、必要とあれば演技も行える。あいつほど貴族に相応しいヤツはいないと、これも満場一致だ――』
――この辺でいいだろうと、小影は録音の再生を止めた。
ずっと『足を引っ張ろうとする意志』が感じられたが、それが消えてなくなっているのを察したのだ。もうこの場に『呪い』は存在しない。
「最初からこれ聞いてくれれば良かったのに」
小影は言いながら、座り込んでいる草枷環に手を差し伸べる。
「というわけでさ、到辺さんのこと許してあげてよ。委員長……
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