13 足を引っ張る呪い(4)




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 何がなんだかまだよく分からないが、分からないなりに天王寺てんのうじ真射まいは状況を理解しようと必死に頭を働かせていた。地べたに這いずる格好でも思考は動く。


(整理しよう。この状況は『人物/草枷くさかたまき』の向けていた『想念/足を引っ張ろうとする嫉妬心』が生み出した『呪い/何をやっても失敗する現象』によるもの。今までは到辺とうべさん個人に向けられていたものが、あのによってこの場所全体に影響を及ぼすものになっている)


 目の前では小影が演劇部の女子たちに足を掴まれ、たかられている状態で、このままだと引っ張り倒されて滅茶苦茶にされかねない状況だ。小影こかげにとっては役得かもしれないのだが、それは真射にとっての不愉快に直結する。見過ごせない。


(『呪い』を生み出している草枷環と小影にはどういう訳か影響が及ばない。だけど私や到辺さんは立ち上がることすらままならない。この現象を止めるには『呪い』の発生源となっている草枷さんの『想念』をどうにかしなければいけない)


 そのどうにかするための手段が現在環の足元にある小影の携帯。小影はそれを取りに行こうとしているが演劇部員たちによって阻まれている。あの赤い影は動けるようだが、小影が頼らない点を見ても『携帯を手に入れられない理由』があるのだろう。


 そして、真射とめぐるはこのザマである。あの演劇部員たちのように這って進むことすらできない。廻の方は『呪い』の影響か、それとも環に散々言われたせいか、蹲って身を縮こまらせ、微かに肩を震わせている。


(……誰かを呼んだとしてもこの場所の影響を受けて使い物にならない。仄見郷司を呼べれば本人に直接言わせられるけど……)


 ここはひと気のない体育館裏である。声を上げてもやってくる可能性は低いだろうし、そもそもこの場所は今『何をやっても失敗する空間』であるらしい。何か目的意識をもって行動すれば失敗――なんらかの妨害が入る可能性が多分にある。


 ではどうすればいいのか……。


(小影は今までこんな『呪い』を解いてきた。いつもこういう目に? それとも今回が特殊なケースなだけ……?)


 あるいは、いつもは備わっている何かが、今日だけ欠けていたか――


登和とわがいれば……」


 そんな呟きが聞こえた。


「ッ」


 耳に入ってきた声に、悔しいという気持ちが沸き起こる。


 自分では、その代役は務まらないのか……?


 小影の役に立ちたいと思った。『呪い』に関する話もきちんと聞いていた。鳴坂なきさか登和の役割は小影の『助手』のようなもので、それなら自分にも務まると思っていた。


 だけど、自分では役不足なのか……?

 ヒロインには、なれないのか――


「――」


 唇を噛む真射を、見下ろす影があった。

 それを見上げると、声と同じ、少女の顔がフードの下にある。


 、そんな錯覚をしてしまうような――小さな女の子の顔が、その目が、自分を見下ろしている。


(こいつは……)


「かわりになれるか、やってみる?」


 幼い声が問いかける。鳴坂登和の『代わり』になれるか、その素養があるのか試してみるかと。

 願ってもないその機会に、手を伸ばさない理由はなかった。


「……?」


 赤い影から布きれがひらりと舞い散る。羽毛のように揺れて舞って、それは真射の制服の上へと落ちた。そこはスカートのポケットの上。人さまにはお見せ出来ないような代物が納められている。


「つごうよく、ぶっそうなものもってるね」


 真射はポケットへと手を伸ばす。これくらいは出来る。そして、中に納められている銃を手にすることも出来た。


(――――)


 取り出した銃が赤く染まっている。返り血を浴びたかのようで不気味だったが、その赤色が状況を打開するための鍵だと直感した。


(ただのモデルガン。小影をビビらせるためのものだったけど……これでいける)


 造形だけで、銃弾なんて入っていない。何か特別な仕組みがあるわけでもない。そして当然、何も装填されていないのだから引き金を引いても意味がない。

 それを分かった上で、真射は地面に伏せるような格好で、小影の足元にわだかまる演劇部員を照準する。そして躊躇いなく引き金を絞った。


「ッ」


 漠然とした予想が確信に変わる。


 空っぽの玩具が火を噴いたのだ。

 正確にいうと、それは赤い光。レーザーのようにも見えたが、どうやら弾丸のような形状をしているようだ。生憎と『何をやっても失敗する呪い』のせいで攻撃は外れたが……。


 なら――から撃ち込めばいいのだ。『呪い』の介入するような余地などない、ゼロ距離から。


「っ」


 真射は自分の体に銃口を押し付け、引き金を絞った。まるで殴られたような衝撃があったが、それは肉体そのものというより、まるでめまいのように精神を揺らした。しかし痛みはなく、


「立てる……!」


 銃弾の影響か、真射は足を引っ張られることも手を滑らせることもなく、起き上がりしっかりと立つことが出来た。だがそれで『呪い』から解放されたというわけじゃないというのは直感で分かった。きっとこれは一時的なものだ。


(小影も凝り固まるとかなんとか言ってた……)


 視線を巡らせると、少し離れた所に赤い影が立っている。まるで自分を誘っているようだ。あそこには『呪い』の影響が及ばないのかもしれない。


 どう行動すればいいか、何をすれば小影の役に立てるか――


(分かる……!)


 真射は再び『呪い』に囚われる前に赤い影の元まで移動する。

 ここが安全圏なら――その影響の範囲外であるなら、ここでの行動は『呪い』に邪魔されないということだ。


(つまり私は、ここから小影の道を拓けばいい……!)


 目的がハッキリした時、彼女に躊躇いはなかった。



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