15 目に見えて、見えない(1)
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そして、放課後が訪れる。
乙希を伴って、小影と共に教室を出る。そのまま体育館まで会話もなく進んだ。
しかしすぐには体育館に入らず、少し離れたところで下校する生徒たちの中に紛れるようにしながら、体育館に人が集まるのを待っていた。
「なんで待つの」
「……いろいろ準備があるから、さ」
とはいえそれほど時間はかからず、校舎から出てくる生徒の数がまばらになり始めたあたりで三人は体育館の中に入った。
中には既に何人かの演劇部員が集まっており、郷司や
「ねえ、何するの」
「隠す必要もないんだけど、やっぱり……客観的な、素直な感想が欲しいところなんだ」
「……?」
「君はなんだかんだ言って態度に出るからね」
「……あんまり褒められてる気がしない」
「そう? それより――」
小影がきょろきょろと体育館内を見回す。誰かを探しているようだ。将悟なら先ほど体育館に入るところを見たが、今はその姿が見当たらない。乙希もそわそわと落ち着かなげだが、どうも小影が探しているのは別の人物のようだった。話を聞くためなのか、郷司のところへ向かう。
「委員長……
「今度は篠実に用か。そういえば昼も話してたな。お前はなんだ、演劇部を乗っ取る気なのか」
「たまたまだよ。……で? 篠実さんどうかしたの?」
「詳しくは知らんが、授業中だかに倒れて保健室に運ばれたらしい。今日は休みだ」
「――――」
「おい」
小影が戻ってきた。どことなく険しい顔をしている。
「
「? うん」
「すぐ……になるかは分からないけど、なるべく早めに戻ってくるから」
それだけ言って、小影は足早に体育館を出て行った。
戸惑っていると、舞台の方で動きがあった。どうやら練習が始まるらしい。これまで何度か見た、廻をヒロインとした例の劇だ。
「……将悟くん、出るのかな……?」
「ん……」
さっきまでの不安そうな様子が嘘のように、乙希は何かを期待して瞳を輝かせていた。将悟は裏方だから舞台には出ないと言いそうになって、余計なことは口にしない方がいいかもしれないと真射は思い直す。口をつぐんでただ頷くだけにとどめた。
(
将悟は実際見た目も良いし、舞台に立っていてもおかしくない雰囲気がある。これまで将悟から部活について何も聞かされていないなら、将悟が役者として劇に参加していると思っていても不思議ではない。
真実を知った時、彼女は何を想うのだろう。
それとも、わざわざこうして呼び出したということは、将悟を舞台に上げるのだろうか。聞けば相当下手らしいのだが、その辺をどうフォローするのだろう。
気になったので副部長に聞いてみることにした。
「ねえ」
「……今度はお前か、天王寺。……ところでずっと気になっていたんだが、お前はどうして最近宮下といるんだ。お前のポジションには
訝しむような目を向けられる。眼鏡が探るような印象に深みを与えていた。
真射は笑顔でその問いに答えた。
「うるさいロリコン」
「…………」
「それで、どうするの。
「本正ならもう出てるだろう」
「?」
郷司が舞台を促すので真射も確認するが、そこにはぼろきれをまとった廻が一人芝居を続けているだけだ。本番を意識してか簡単なセットが用意されていて、廻の動きに合わせてセットが移動することで、舞台上に景色の流れを演出している。
てっきりセットは裏で誰かが動かしているのだろうと真射は思っていたのだが――
「あ」
風で枝葉が揺れたり、廻を追って移動するセットの樹木がどことなく人間的な動きをするなとぼんやり見詰めていたら、木そのものが人間だった。着ぐるみだ。表面に顔が出ている。
誰かと思えば、それが本正将悟だった。
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