03 拾った神様、交わした契約(1)
×
今夜の夕食は
カレーである。
まずは胃袋から掴み、デキる女の子らしさをアピールして
「昨日もカレーだったよね」
材料は昨日の帰りに調達し――
「というか、昨日のカレーだよね。……君って料理のバリエーション少ないの?」
「…………」
……飽きがこないよう具だくさんに、単なる市販品のルーに負けないよう少しお高いスパイスを投入し一から手作りしたというのに、小影の反応といえば淡白なだけでなく、料理を作ってもらうのがさも当然、なんなら僕が自分で作るよとでも言いたげだった。
「まあ今日はいろいろあったから疲れてるのは分かるけどね。なんなら僕が作っても良かったのに」
言われてしまった。
しかしかくいう彼は真射の料理中を見計らって入浴していたのだ。夕食を仕上げて待っていたことを少しは評価してほしい。
とはいえ、これはこれでなんだか夫婦のやりとりのように思えなくもないので良しとする。小影も文句は言いつつもちゃんと食べているのだから。
「――ところで、小影」
「ん……?」
食事の手を止め、もぐもぐやっていた小影は真射に向き直る。
「『呪い』って何?」
「…………」
まるで何を今更といった感じに小影はきょとんとしてから、
「この前話したよね。もう忘れたの? 『呪い』っていうのは――」
人が人を想う気持ちが現象となって現れるもので、自覚症状があるものからないものまで様々だ。
小影は『呪い』に悩まされる人たちを――主に
「……そうじゃなくて」
真射が聞きたいのは、もっと根本的なことだ。
どうしてこんなにも頻繁に――噂になるくらい『呪い』が発生しているのか。
そして、あの――
「僕が調べたところによれば、だけど」
「?」
「この街には昔、人を呪うことを生業にしていた『
「じゅ、じゅじゅちゅし……?」
「……それは何か狙ってるのかな」
ともあれ、小影いわく、この街にはそうした人種がいたことが伝承として残っているらしい。真実かどうか定かでないものの、いたと仮定するならある仮説が成り立つ。
「この街の住人の中にはその子孫がいて、知らず知らずのうちにその力を使っていたりするのかもしれない。これまで僕が関わった中にもそれっぽい、強い『呪い』を生む人がいたからね。だから何かあるんじゃないかと調べてみたんだ」
「……小影もそうなの?」
訊ねると、小影は一瞬不思議そうな顔をするが、
「それは分からないな。人を呪った自覚もないし、『呪い』を解いてるのだって僕の力じゃないしね。でも昔からの地元住民ならみんなその可能性があるはずだよ」
「じゃあ」
あの赤いのはいったい何なのか。
「ノロイちゃん?」
真射の意図を察したのか、小影がその名を口にする。意思疎通できたようで内心にやけるもののそれを表には出さない真射である。
「んー……ノロイちゃんねえ……」
小影は説明を渋るように唸ってから、視線を真射から窓の方に移した。そこには小影が手洗いした例の赤い布切れが部屋干しされている。
やはりあからさまなオカルト、怪異は話しづらいのだろうか。小影にとってあれはある種の企業秘密のようなものでもある。
小影はちらりと真射を見てから、
「まあいっか」
「……もうちょっと渋るべき……」
信頼されていると受け取るには小影の意識が低すぎる。
「ノロイちゃんは……」
「……その名前、なんなの……」
ノロイちゃんというからには女の子なのだろうか。確かにその顔を見た気がするのだが、真射はノロイちゃんの姿を漠然としか憶えていなかった。
「僕は『ノロちゃん』とか『
「ノロイちゃんの方が変……」
「だよね……。だけどまあ、〝名は体を表す〟って言うし、これでいいのかなとも思うけどさ」
名前の由来については別にどうでもいい。真射が聞きたいのはその名が表す〝体〟の方だ。
「この話をしたら引かれると思うんだけど……」
まあ君になら別に引かれてもいっか、とでも続きそうな前置きを挟んでから、
「ノロイちゃんは人の集合無意識の塊っていうか……神様みたいなものでね」
「……神様」
引くどころか、あまりに突飛な話に理解するのに時間がかかった。
「神社で拾ったからね、あれ。たぶん神様的なものだと思う」
「……あぁ」
妙に腑に落ちた。
「僕が人の『呪い』を解いたり、その影響を受けなかったりするのは、その神様と契約したから」
「……契約」
なんとなくニュアンスは伝わるという意味で頷いたのだが、
「いちいちオウム返しするのやめてくれないかな……。なんか恥ずかしくなるんだけど」
こういう
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます