0407(土)

「大まかに言えば、織田信長の足取りを順不同で辿っていき、その記録を出す事だな」


 休日である土曜日の昼間、私達は昨日と同じような場所に円形に座っていた。


「確か東は甲斐、西は播磨まで行ったんだよな?」

「ああ。前者は甲州征伐後の後始末、後者は上月城からの撤退を決めた時だな」

「播州はともかく甲州は遠いね」


 最後の言葉は、女の子の方のカズちゃん。入った事を喋ったら、さっき入部届けを書いてくれた。


「歴史探索の部活だから、てっきり図書館で作るのかなって思ってったんやけど……」

「俺がそんな柔いように見えるか?」

「原子の分解並みにあり得ないわ」


 そう化学的に例えたのは、自分から渾名を『ケミストChemist』とするよう呼び掛けたという、魔法化学のスペシャリスト・三笠杏さん。

 小さく溜め息をつき、ちらりとカズちゃんの方を見た彼女を尻目に、勝秀はジーンズのポケットから折り畳まれた紙を取り出す。


「これが大まかな振り分けだ」

「……飯盛山とか信貴山とか小谷とか山城が幾つか見えるんだけど?」

「もちろん登るぜ。岐阜城とかはロープウェイを使うけどな」

「登らないの?」

「……登る」


 見つめられた三笠さんが俯いている間に、勝秀とカズちゃんはウインクをしあう。


「たまには動かないと体に悪いからねえ」

「なあ」

「黒重弾」

「わっい!?」


 ドシン、とよけた勝秀の横に米粒くらいの漆黒の弾が落ち、すぐにサアと消えていった。


「鬱陶しい」

「……はーい」

「……ところで」


 このまま空気が固まりそうだったので、勝秀に気になっていた事を聞く。


「最初の動きは決めてるのか?」

「あ、ああ。登山用具一式を注文して、スケジュールをたてて、最初は黄城に行くつもりだ」

『黄和田城?』


 三笠さんは睨んで来ないでくだせえ。


「下の里の隣の里の山肌にある城だ」

「そこも信長さんが関係してるのか?」

「間接的に。そこの城主の1人の孫が本能寺の時の明智方の1人だった」


 いきなり本能寺?


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 その日の夕方の話である。

 所変わって、食堂の南側にある談話室。ここから全てロシア語なので、日本語で書かせてもらう。


「許可は取れたわ」

「はい」

「あまり目立たないようにとの達しよ」

「はい」

「特に『あの魔法』は極力大っぴらには使わないように、と別に言われたわ」

「はい」

「……聞いてるの?」

「聞いてるけど……なんで正座なの?」

「日本では、怒られる時は正座だって聞いたけど?」

「それは……まあ合ってるちゃあ合ってるけど。けど、なんでタチアナも正座?」


 和風チックな学園なので、談話室の床も当然畳じきで、その上に私とタチアナが正座でいた。


「あの高さの座椅子は嫌いなのよ」


 村の方でお仕置きの時にさせられている彼女にとっては、こだわりもあるだろうから、そう言われると納得する。けどーー。


「近くない?」


 互いの膝が触れあうほどって……。


「不満?」

「めっそ……」


 くそっ、恥ずかしい。


「あくまで私が決定権を持っているからね、

「……わかりましたよ、殿


 そう言えば上だったな、タチアナの方が。


「何か思わなかった?」

「滅相もございません」

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中3より高校生まで~中3~ @russia20

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