第2話 プラネット・チェイサー

人々が月に移住してから数年。今までやってこなかったプラネット・セルが時々やってくるようになっていた。インビジたちの言い分によると、今まではとあるプラネッターの影響でプラネット・セルの侵入を封じていたが、プラネット・セルは成長し、その障壁すら越えてくるようになった、と言う。しかし、出てくるのは都市周辺のエリアに留まり、その旅にプラネット・チェイサーが撃退していた。

だが、先日。市街地、そしてプラネッター訓練施設に大量のプラネット・セルが出現。人類は再び大混乱に陥った。

その中で。とある少年がプラネッターを覚醒させた。彼の持つプラネッターは空白となっていた最後のプラネッター。我らが母星、地球の名を冠したプラネッター。ジアース。


あの戦いの後、俺はプラネット・チェイサーの一員として選ばれ、短い療養の後、他のプラネット・チェイサーたちと顔を合わせることとなった。

「スバルさんやマリーネさん以外のプラネット・チェイサーの方たちかぁ・・・どんな人なんだろう。サクライは何か知ってるか?」

共に向かうアンドロイド、サクライに聞いてみる。しかし、彼女は首を横に振る。

「いいえ。私より位の高いインビジならば知っていますが・・・私はレイアの専属サポーターなので・・・」

「ん、そうかぁ・・・。でもスバルさんの同僚なんだし、きっといい人たちなんだろうなぁ」

噂ではプラネット・チェイサーの人たちはかなりの変人ぞろい、と聞いているが、市街地中央あたりに住んでいた俺はスバルさんとマリーネさん以外のプラネット・チェイサーの人たちには出会ったことはなかった。自分がなりたかったプラネット・チェイサーの先輩たち。いったいどんな人なのだろう・・・

そんなことを考えていると、とうとうプラネット・チェイサーたちが待っている場所、総合指令室へとたどり着いた。

「それでは私は外で待機しています。レイアは中へ」

そういってサクライはドアの横で待機する。俺は緊張で手に汗をかきながら、扉の前に立つ。

「し、失礼します」

扉をノックし、ゆっくりと開ける。その瞬間聞こえてくるパン!という何かが破裂するような音。突然の音に動きが止まった。すると

「プラネット・チェイサー就任おめでとーう!」

その声と同時にマリーネさんが抱き着いてくる。肩越しからスバルさんや見たことのない人…たぶん、彼が他のプラネット・チェイサーなのだろう。彼らが手にクラッカーを持っている。先ほどの音はクラッカーの音だったのだろう。

「あ、マリーネさんにスバルさん…」

「おうよ。マリーネの奴がせっかくの就任なんだし盛大に祝おうってな」

スバルさんが笑う。なるほど、それはありがたい、のだが・・・

「・・・マリーネ。そろそろ放してやれ」

「あら?」

机のそばでタバコをふかしている男がマリーネさんに言う。平均よりも大きいその胸と、女性とは思えない力に押しつぶされ俺の意識は遠ざかろうとしていた。

「・・・あー、ごめんなさいねレイア君。」

マリーネさんが離れる。俺はふらつきながらも辺りを見回す。

この場には俺を含めて6人の男女がいた。スバルさんとマリーネさん。そして、先ほどのタバコを吸っている30代くらいの男性と、自分よりやや年の低そうな少女、そして長髪の背の高い男性だ。

「え、っと。この度はプラネット・チェイサーに任命して頂き―――」

「あー、いいよいいよそういうのは。俺達は順位はあるが同じプラネッターの適合者だ。堅苦しい挨拶は抜きで行こうぜ」

新しい煙草を取り出しながら、男はそういう。

「そうね。私たちはもう仲間なのよ。仲よくしましょ?」

マリーネさんもそれに続く。俺は頷いて、それから思っていた疑問を口にする。

「えっと、プラネット・チェイサーは12人で構成された組織って聞いていたんですけど、他の方々は・・・?」

「ああ、その事なんだが、先にプラネット・チェイサーの組織形態を伝えておく。プラネット・チェイサーはこの月の裏側をプラネット・セルから守る組織だ。んで、お前もしってるだろうが月の裏側、と言っても狭いわけじゃねぇ。誰かしらが常に巡回してないといけないんだ」

「それで、今は他のメンバーは見回りの最中なのよ。だから、他の人たちとの顔合わせはまた今後、ね」

マリーネさんとスバルさんが答える。なるほど、確かにこうやって一か所に全員が集まってしまっては危険だ。

「ま、だから今いる連中だけでもお前に紹介しようと思ってな。俺達のことはお前も知っていると思うが、一応な。俺はスバル・キリシマ。プラネッターのクラスはマーズ。第三位だ。」

プラネッターのクラス。俺の持つジアースやスバルさんのマーズのように、太陽系惑星の名前からとられているものが多い。それぞれの武器には対応するパーツ・・・コアを取り付けることで本来の姿へと変貌させることができる。そして、その性能によって順位が設定されている、という事だ。

「はいはーい。それから私がマリーネ・オリヴィア。プラネッターのクラスはジュピター。第五位よ。ま、レイア君とは長い付き合いだし、知ってるわよね?」

マリーネさんが自己紹介を終える。マリーネさんとは士官学校時代から戦闘練習や基礎訓練を見てもらっている。俺の姉さんのような人だ。なんでも母さんとも知り合いらしく、母さんがいなくなる直前、お守りと共に俺のことを頼まれていた、らしい。

「あー、そしたら次はそこの・・・いつまで吸ってるんだ、ジェイス」

ジェイス、と呼ばれた男はやれやれ、といった顔で煙草の吸殻を足でもみ消す。

「ああ。俺はジェイス・マックフィールド。プラネッターのクラスはマーキュリー。第八位だ」

「ジェイスはこう見えて結構働き者なのよ。煙草ジャンキーなのが玉に瑕だけどね」

「ケッ、煙草の良さが分からないうちはまだまだガキだ」

自己紹介は終えた、とばかりにジェイスはまた煙草をふかし始める。

「やれやれ、ジェイスは変わらないな。・・・それじゃ、アヤカ。次よろしく」

先ほどから全く話に参加していない二人のうち、少女のほうに投げかける。アヤカ、という名前だ。スバルさんと同じジャパンの出身なのだろう。黒髪を横に結んだ少女が口を開く。

「アヤカ・サジョウよ。プラネッターのクラスはウラヌス。第六位。言っておくけど、私はそいつらみたいに仲良しごっこはするつもりはないから。それだけよ」

そう言ってアヤカはそっぽを向いてしまう。何か嫌われることでもしただろうか・・・?そう思っていると、マリーネさんが耳打ちをする。

「アヤカはね、前に一緒に戦っていた仲の良かった人を亡くしているの。それ以来、ずっとあんな調子で・・・。悪い子じゃないから、安心してね」

「そうだったんですか・・・」

たぶん自分よりも若いであろう少女が親しい人の死を目の当たりにする。それはとても辛いことなのだろう。それでもプラネット・チェイサーとして戦っている…。プラネット・チェイサーの人たちはみんな、実力だけじゃなく心も強いんだ。そう俺は思った。

「あー、んで、最後に・・・」

「ああ。分かっている」

最後に奥の方で壁に寄りかかりながら立っていた長身の男が前に出る。

「俺はディアス。ザ・サンのプラネッターを持つ第一位の方の代理だ。」

「代理・・・?」

ディアス、と名乗った男が続ける。

「ああ。第一位はとある事情でプラネッターから離れることができない。そして、プラネッターを動かすこともできない。そのため、第一位の言葉を俺が代弁している」

「動かすことができない・・・?それはどういう・・・」

言い終わる直前にアラートが鳴る。

「っ!またセルが・・・!?」

モニターを確認する。そこには、大量のプラネット・セルが障壁を超え飛来している最中だった。

「スバルさん!」

俺はスバルさんに向き直る。俺が出撃します。そう言おうとしたのだが。

「いいや、あの位置なら問題ない。そうだな。第一位の男の紹介ついでだ。ザ・サンの威力をその眼に焼き付けておくんだな、レイア」

「?それはどういう・・・」

すると、ディアスと名乗った男が指令室のモニターを操作する。すると、指令室の上、この施設の屋上が映し出される。

そこには、超巨大な砲台が存在していた。

「あれがプラネッター、ザ・サンの姿だ。ザ・サンはこの施設に鎮座する巨大な固定砲台。あれに第一位の男、ラインハルト・オーダインが乗っている」

プラネット・セルはどんどんこの施設へと向かってきている。すると、砲台が赤く光り始めた。

「お前も見たことがあるだろう、空にかかる巨大な光の筋を。あれはこのザ・サンの砲撃さ。彼はあの場所で常に、セルの襲来を待っているのさ」

セルが危険を察知したのか砲台にとびかかろうとする。近くまで来たセルたちは、幼生体だけではなく成体も数多く存在していた。この前の惨状が再び脳内に蘇る。

だが、セルたちが砲台に近づくことはなかった。

一閃。

宇宙の果てまでも届くかと思う巨大な光の奔流がセルたちのいた場所を白に染めていく。

直撃は免れたはずのセルたちでさえ、その体が一瞬にして崩壊していく。

数秒後、そこには元からセルの襲来などなかったかのような空が広がっていた。

「見たか、レイア。あれが我らプラネット・チェイサーのトップにして最強の存在。ザ・サンの力だ」

俺は震えていた。あれだけの強さを持つセルが、あんなにも一瞬で消し飛ぶ。そんな強大な力を持つ武器がこんなにも近くにあることが。

「お、ビビってんのか坊主。まぁ仕方ねぇわな。初めてあの攻撃を見たらだれだってそうもなるさ」

ジェイスが茶化す。

「・・・あれが、プラネッターの、プラネット・チェイサーの力・・・」

「ああ。そして、お前もそのうちの一人だ。レイア。」

「そう、ですね。」

「ま、今日は彼が片付けてくれたことだ、もうセルの襲来はないだろうさ。今日はこの程度にして、明日からお前にも仕事が与えられるだろう、今日は休んでくれ」

スバルさんがそういって肩を叩く。俺はふらふらと扉の方へ向かった。

「・・・」

扉を開ける前にアヤカが何かを言っていた気がするが、俺は聞き取ることができなかった。

外に出ると、サクライが待っていた。

「レイア、どうしました?顔色が優れないようですが」

「・・・ああ。大丈夫だ。」

「・・・そうですか」

俺は思った。俺は初めての戦闘とはいえ、プラネッターの一撃に体が耐えきれていなかった。

あのくらいの力ですら常人には負担が重いのだ。なら、あれほどの力を有したプラネッターの一撃を放つ彼の体はどうなっているのだろうか・・・?

そう考えている間に自分の部屋に戻ってきていた。サクライが言う。

「明日以降の予定は私が受け取ってスケジューリングをしておきます。レイアは休んでいてください」

「ああ、ありがとう。任せたよ、サクライ」

「承知しました」

そう言って俺はベッドに横になる。色々と頭が混乱している。脳内を整理するためにか、俺の体は深い眠りに落ちていった。

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ソラノカナタ 紅凪 @kurenai772

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